11:双子
『罪を背負う子羊たちが暗闇に解き放たれ、時の中でつながる双子を目覚めさせるだろう。マコトの双子が初めの一歩を記し、光の夢に踊る。新たなる人間として歩み始めるだろう』
銀のカプセルに閉じ込められている、三つ目の預言。
いつ受けたものなのだろう。覚えがない。最初の預言はユニバーサルマンから、二つ目の預言はヘロデから受けた。それはきちんと記憶している。
だが、三つ目の預言を受けたのは、一体誰だ? 彼が受けたとは思えない。彼には『理解』できないはず。あの二人は論外。預言に興味すら抱いていないだろう。
私しか、予言を『理解』できないはずなのに――。
ああ、全くもう! なぜその時に起きていなかったんだ?
僕にもわからない。彼しか預言を受けられないものとばかり思っていたから。けれど、預言は僕を拒絶しなかった。
僕はそのまま預言を受けた。預言は、銀のカプセルに閉じ込められると同時に、その余韻を、僕の中に響かせる。
さっきは、預言を受けたところで、無理やり誰かに戻されてしまった。強い頭痛に襲われ、気がつくと、僕はいつもの場所に戻っていた。深い深い、闇の中。
ここが一番落ち着く。
このままずっとここにいたい。外なんか、たまに眺めるだけでいいじゃないか。
メディスンマンは、驚愕に満ちた顔をこちらに向けた。なかよし広場と名づけられた、嫌な模様の壁で囲まれたスペースの中央に、全身を氷で包んだような、奇妙なメディスンマンが浮いている。この火星では何でも起きる。もう、少々の事では驚かなくなってきた。
この氷のようなメディスンマンの側に、ホワイトイーグルがいる。こちらに向けられた顔は、驚愕に満ちていた。
「ふほ! お前はさっきのお前ではないな! マコトの双子とはお前達のことじゃったか。一人は心として、一人は体として存在しておる。合わさるとは、心と体を一つにする事なのじゃな。深い謎が解けたのう」
相手が何を言っているのかさっぱりわからなかった。たった今来たばかりなのに、『さっきのお前ではない』と言われたのだから。
銀のカプセルの中に、聞いた覚えのない言葉が三つ閉じ込められている。銀のカプセル自体どこで手に入れたのか分からないし、この言葉全てを聞いた覚えもない。
たぶん、自分の頭の中で聞こえる声たちのせいだろう。今は何もしゃべっていない。もちろん、彼らも喋るときと喋らない時くらいある。いっぺんに話されると頭の中が喧しいが。
けれど、マコトの双子とは何だろう?
アガタの言っていたことを思い出した。双子が生き埋めにされたのはもう随分前の事だ、と。カプセルの中の言葉が告げた『双子』とはこのことだろうか。わからない。この星に来てから、地球にいた時以上に記憶が飛ぶようになっていた。あの鏡に触れるたびに。
たまに、声が記憶を教えてくれることもあるが、大抵は知らんふりしている。
さっきまで何が起こっていたのだろうか。声は何も教えてくれない。
さっぱりわからない。一体誰が、第三の預言を受けたのか。
わからないことを無理やりつなぎ合わせて何かがひらめくという事などありえないのだが、あの二人に問うても無駄な以上、私の出せる結論はこれしかない。
我々三人のほかに、誰かがいる。
第三の預言。これが一番重要なものだと、ホワイトイーグルから聞いたような覚えがある。預言が内部から響くような不思議な感覚にずっと身を任せていたので、話半分しか聞いていなかった。頭の中で延々と壊れたテープが回っているようなものだ。二度も預言を受けた彼はすぐこの奇妙な感覚に慣れたようだけど、僕は、預言を受けたときにあまりにも不可思議な感覚に体を支配されていたので、自分がロッジの床に立っているという事自体わからなくなったほどだった。
あの預言の言葉。『マコトの双子』。マコトとは、本物と言う意味だろう。何をもってマコトとするのかは僕の知ったことではないけれど、それは僕らのことだろうか。
いや、違う。僕は、ただの影なんだ……。そんなはずないよ。