15:ライカ



「僕は、どうしてここにいるのかなあ……?」

 眩しい、美しい、五つの光が、体を包んでいく。
 欠けていた記憶のピースが、三つはまる。何も無かった場所に、ピースがピタリとはまった時、自分の知る事ができなかった全てを知った。自分の知らないところで動いていた「自分」の記憶が全て流れ込んできたのだから。
 そして、もう一人の「自分」が姿を現した。昇っていく彼の手をつかむ事はできなかった。空に現れた、たくさんの天使たちの中へ、彼はそのまま昇り、消えていった。消えた後、眩しい光が落ちてきた。
 光を浴びる。何もかもがすべて洗い流されたような、不思議な気持ちになっていた。
 どこまでも昇りはじめる。
 昇り、落ちていく。
 緑の眩しい光が、辺りを照らしている。
「ライカ、大丈夫?」
 側で、エイプリルの声がする。
「随分うなされていたみたいだけど、大丈夫?」
 大丈夫。
「そう、良かった」
 エイプリルは微笑んだ。
「これから、始まるのよ。何もかも」
 これから、この火星で、何かが始まる。

 窓の外を、雪が静かに降っていく。
「綺麗ね……」
 側で、エイプリルが言う。何となく、うなずいた。
 降り積もる雪が、何もかもを包んで真っ白にする。何もかもを浄化していく。
 何もかも、これから始まる。
「ライカ、これから、あなたの旅は始まるの。私も一緒に行くわ」
 微笑んだエイプリルは、そっと手を取った。

「僕に何が出来るんだろう……」
 正直、不安だし、何もわからない。けれど、これから全てが始まるのならば、振り返る必要などないだろう。
 全ては、これから始まるのだから。