繰り返される



「暑いでチュー」
 満月が空高く昇る頃、ピチュー兄弟の末っ子は、寝ていた巣穴から出てきた。兄弟たちはぐっすり眠っているが、この末っ子だけは暑くて眠れない状態。ポケモン渓谷はそろそろ梅雨の時期に入る。日々の気温も湿度も上がりはじめ、寝苦しい日が始まっていた。
「もうイヤでチュ。暑いし、風はふかないし、汗はでてくるし。こんなときには、水浴びしてさっぱりしたいでチュ」
 巣穴の近くを流れる小川を目指してのろのろ歩き、汗をかいたその体で川の中にはいる。昼は暑くてもさすがに夜の川は冷たく、ピチューはすぐ川からあがった。
「涼しいけどすぐ冷たくなっちゃうでチュ……」
 以前にも寝苦しさを何とかしようとして同じことをしていたような気がするが、ピチューは特に気に留めなかった。体からしたたるしずくを最寄りの木からむしりとった葉っぱでぬぐい取ると、喉の渇きを癒すために水を飲んだ。
「それからおトイレするんでチュ、そしたらおねしょしないでチュ」
 用を足して手を洗い、さあ巣穴に戻ろうとしたところで、
「ヨ〜マ〜。ヨオ、ちびすけ何やってる」
 散歩中のヨマワルに声をかけられた。ピチューは、突然背後から声がかかってきたのに驚き、その頬袋から派手に放電、しかし自分も自身の電気でしびれる羽目に。
「何すんだよお、チビスケえ」
「あ、ヨマワルさんなのでチュ、こんばんわでチュ」
「こんばんはじゃネエヨオ! いきなり何すんだよお!」
「だってびっくりしたんでチュ! でもゴメンナサイでチュ」
 さすがに以前のように泣きだすことはないものの、背後から脅かされれば(たとえヨマワルにその気がなかったとしてもだ)、誰でも驚くだろう。
「で、オマエ何やってんだー?」
「なにって、これから寝るんでチュ」
「エエー、もう寝るのかよ。ちょっと話でもしていかねえか?」
「やでチュ。だってもうおねむのじかんでチュ、おトイレもしたし」
 だんだんピチューの声が尻すぼみになってきたので、ヨマワルは諦めた。
「ちえー、しょうがねえなあー。じゃあまた今度な、チビスケ!」
「ばいばいでチュ!」
 ヨマワルが飛び去るのを、ピチューは見送った。

 翌朝。
「うわあああああああん!」
 巣穴に末っ子の鳴き声が響き渡った。周りの兄弟ピチューたちは、「ああまたか」とつぶやいた。
 巣穴のわらに、大きなしみが広がっていたのだ。
「だから寝る前に水飲むなって、おトイレにいけってあれほどいったのに」
「喉かわいたからお水飲んだけど、寝る前にはちゃんとおトイレしたんでチュ! だからおねしょしないはずなのになんでかわかんないでチュ!」
「飲んだ後にトイレしたって、飲んだ分を出してるんじゃないんだからさ……」
 学習しない末っ子に、兄弟たちはあきれかえった。これから暑い夏を迎えるのだ、寝苦しくて外に出る回数も増えるだろうし、喉が渇いたからと木の実ジュースや水を飲んでしまい、おねしょの回数も同じぐらいに増えるだろうし。
「どうしたものかなーあ」
 兄弟たちはため息をついた。