秋のコンサート
秋だ。
夏が終わり、気温が下がり始める。木の葉は少しずつ、黄色く色づき始める。
そして、
「今夜はコンサートだよーっ」
十五夜を過ぎた後は、渓谷の風物詩である、ポケモンたちによる、夜のコンサートが開かれるのだ。木の実を持ち寄って、綺麗な月をライト代わりに、大きな苔むした岩をステージに見立てて歌う。人間のオーケストラは多彩な楽器を使うが、ポケモンたちには楽器など必要ない。それでも人間に負けない、あるいはそれ以上の素晴らしいオーケストラを披露できるのである。
「ねえねえ、そろそろアレやるの?」
晴れた空の下で、ポケモンたちは噂しあっている。
「やるんだってさ! 今年最初のコンサート!」
「ワーッ。去年は明るい歌だったけど、今年はどんなだろうね。ちょっと期待しちゃう」
「眠くならない曲だといいけど。安らかだとかえって眠くなるの」
「そんな事いうなよ!」
渓谷では既に、今年初の、秋のコンサートについての噂があちこちで飛び交っていた。そして、その噂は、数日後の満月の夜に、現実のものとなった。
まん丸の月が、夜空を明るく照らした。
「さあ、コンサートだよっ」
ミュウの掛け声が、渓谷に響いた。ポケモンたちは木の実を集めて会場に持ってきた。大きな葉っぱの上に、うずたかく木の実が積み上げられ、その周りにポケモンたちが座る。
コンサート開始の、拍手が響いた。
ステージに見立てた岩の上で、雲ひとつない夜空と月の光をバックに、コロトックとコロボーシが歌い始める。続いて、リーシャンとチリーンがその綺麗な音色を辺りに響かせる。不思議な音色。ロゼリアたちが草笛を吹いている。空気をふるわせる、美しい音色。
演奏と歌がまじりあい、人間のオーケストラにも負けない、独特の美しいハーモニーを作り出す。聞くもの全てを、うっとりとさせる。
夜風が優しく渓谷を吹きぬけていく。サワサワと撫でられる草木。明るい満月のてらしだすステージ。今夜ばかりは、突如暗がりから姿を現し誰かを脅かして喜ぶお化けポケモンたちも、大人しくオーケストラを聴いている。
実りをもたらす大地に感謝の言葉を伝える、安らぎの歌。今年の秋は、例年と比べ実りが多かった。そしてどの木の実も美味しかった。たくさんの木の実をくれた大地への感謝を伝える、安らぎの歌が、今年のコンサートのテーマだ。
聞いていると、心の中から体の隅々まで綺麗に洗われたような気持ちになった。
コンサートで歌うポケモンたちだけでなく、聴いているポケモンたちは皆、いつのまにかメロディに合わせて歌い始めていた。歌詞はないが、音にあわせて声を上げる事は出来る。
満月が夜空の向こうへ傾き始め、優しい風がもう一度、渓谷を吹きぬけていった。
コンサートの後は、持ち寄ったたくさんの木の実を食べる。
雨も日照りもちょうどよい具合で、今年の木の実はたくさん実り、味も素晴らしかった。去年は晴れの日が少なかったので、酸っぱさの残るものが多かったのだが、今年は汁気も旨味もたっぷりの木の実ばかりであった。
ポケモンたちは、笑いながら木の実を食べ、喋って、楽しんだ。
夜が更けるまで、まだたっぷり時間はある。秋の夜長は、まだまだこれからだ。