ボール
ニャースの大好きなもの。
ボール。
ボールがぽんぽんと跳ねていくのが本当に大好きである。ポケモンフードも好きだが、それ以上にボールと遊ぶのが大好きなのだ。投げられて飛んでいくボールを追ってあちこちへ走り、やがて咥えて戻ってくるか、そのまま前足でボールをつついて転がしているのが普通である。
小さなボールは転がしたり咥えてきたりするものの、大きなボールは追いかけていくだけで、ボールが動かなくなれば途端に興味をなくしてしまうのである。ボールが動かなくなってしまった後は、毛づくろいをするか、その場で丸くなって眠りに入るかのどちらかであった。重いボールを無理やりに転がすよりは、寝たり毛づくろいをしたりするほうが、ニャースにとって、ボールの次に大切なことであった。
ニャースに限らず、エネコもボールが大好きだ。
一緒に遊んでいるときは、時々ボールの奪い合いをしている。ボールが複数あるときには、必ず大きいほうのボールを取り合う。遊ぶというわけではないのだが、なぜか対抗意識のようなものが働いて、大きいボールを自分のものにしようとしているのだ。
ボールを取り合う喧嘩に勝てば、一方は大きいボールを占有できる。もう一方は小さなボールで遊びの続きをする。どちらかというと、動かすのが面倒なほど大きなボールを持っているよりも、自分の手であちこち動かせる小さなボールを持っているほうが得なのだが、彼らはなぜか大きなボールを持っていることにこだわっている。
彼らにとって、ボールの数と大きさはステータスシンボルなのである。
今日もエネコとニャースがボールで遊ぶ。ボールの数は二つ。いずれも全く同じ大きさのドッジボールだが、赤と青の二色がある。エネコは赤いボールで、ニャースは青いボールで遊んでいた。大きさも種類も重さも全く同じであるこのボールをめぐって、この二匹が喧嘩を起こすとはとても思えなかった。
ふと、ニャースがエネコのボールに目をつける。エネコはボールの上に乗っては落ちるという事を繰り返していた。ニャースは自分のボールをわきへおしやり、エネコのボールを狙って突撃した。ボールに体当たりされたエネコは、勢いよく飛ばされた。
ニャースが何をしたのかと振り返ると、さきほどまで自分が遊んでいたボールを使って、ニャースが遊んでいるではないか。
エネコは腹を立て、尾で往復ビンタを食らわせてニャースを攻撃した。ニャースは驚いたが、即座に噛み付くで応戦する。負けじとエネコは鳴き声をあげ、ニャースの攻撃力を下げたうえで、即座に吹雪を吹きつけた。ニャースは逆に乱れ引っ掻きで対抗した。
ボールをめぐってのポケモンバトルは十分も続いただろうか。やがて両者は息を切らし、立っているのがやっとという状態にまで陥った。そして、倒れたのは、ボールを奪ったニャースだった。
「にゃあ!」
エネコは嬉しそうに鳴き、自分の遊んでいたボールに近づいていく。ニャースはよろよろになりながらも立ち上がり、自分の遊んでいたボールの側で丸くなり、毛づくろいを始めた。
今日のバトルはエネコの勝ちだった。
明日のボール遊びではどちらが勝つのか、それは明日にならないと、わからない。今は、エネコもニャースも、自分のボールで遊ぶことに夢中なのだから。