大工を夢見る



「おらおらおら、どいたどいたあ!」
 今日も工事現場でドッコラーは木材運び。
「今回は久々の木造建築! 腕が鳴るってもんだあ! おらおら!」
 一気に五本以上もの長い木材を肩に担ぎ、工事現場を走り回る。工事現場の土方たちはドッコラーの手伝いに励まされるように、作業に取り組んでいる。昼になって一休みしている時は、ドッコラーも一緒に円陣の中に混ぜてもらって、お茶を飲んだり木の実を丸かじりしたり。それから夕方までまた大仕事だ。疲れ知らずのドッコラーは今日も現場を元気に走り回っている。

「やあ、今日も元気だね」
 毛皮の薄汚れたイーブイは休む間もなく、工事現場を走り回っているドッコラーに声をかける。だがあいにく相手は材木やら何やら色々な物を運ぶために、土方たちの指示に従って、あっちこっちを走り回っている。とてもイーブイの声など聞こえていないだろう。ただでさえ工事現場はとんでもなくやかましいのだから。
「ちえ、聞こえてないのか。こんなにうるさい場所で働いているんだから、マアあたりまえだけどさ」
 イーブイは工事現場を通り過ぎ、ポケモンセンターへと向かった。ちょうどイーブイが去った時、ドッコラーが首をかしげた。
「誰かがおいらを呼んだよーな気がしたんだけどなあ。まあいっか」
 また材木を担いで、ドッコラーは走り出した。
「じいちゃんに負けねえ大工になってやんぜえ!」
 小回りが利くぶん、狭いところにも入れるドッコラーは、くぎや金づちなどの、小物の運搬も担当している。意外と身が軽いので、マンキーのように材木や鉄骨を上って行ける。
「あい、お待ちい!」
 届けた後はまた下に降りて、材木の運搬だ。そろそろ屋根瓦も運ぶことになるかもしれない。
「どんな荷物も、どんとこいってんだあ!」
 ドッコラーのかけずり回っている工事現場の監督は、ローブシンを手持ちにしている。監督がまだ若いころから一緒に工事現場で働いてきた、古株のポケモンだ。木材、鉄骨、あらゆるものを片手で軽々と持ち上げるその怪力とあらゆる工事事情に精通した知識は、他にもいる工事現場のポケモンたちを驚かせてきた。今は、カイリキーやハリテヤマなどの手伝いポケモンたちを指導し、孫のドッコラーに修行をつけさせようと特別に大工手伝いを認めてくれている。ドッコラーはその期待に応えるべく、立派な大工になろうと、日々頑張っているのだ。
「じいちゃんはおいらを認めてくれてるんだ、期待にこたえなくちゃ男じゃネエやい! 必ず、いつか必ず、立派な大工になって見せる!」
 ドッコラーは今日も元気に工事現場をかけずり回っている。

 強風が吹き荒れた翌朝の工事現場。
 どうやら、木材の山をつなぎとめていたロープが何かのはずみで緩んでしまったようだった。工事現場の近くに、材木がバラバラに落ちてしまっている。
「おらおらおらおらーっ」
 ドッコラーは材木を積み上げている最中だ。ポイポイと放り投げ、お手玉よろしく器用に受け止めては、指定の場所に積み上げていく。数分で、地面に散らばっていた木材は、あっというまにピラミッドを作り上げてしまった。
「二分、まだ遅いわい」
 後ろで、ローブシンが時間をはかっていた。ドッコラーは肩を落として、露骨にがっかり。
「それに、あれだけ乱暴な投げ方をしておれば、材木も傷ついてしまうわい! 木は金属以上に頑丈だが、デリケートでもあるんじゃぞ!」
「へーい……」
「こないだよりは成長しておる。じゃが、まだまだじゃのう。まあ茶でも飲め飲め」
 淹れたての濃い緑茶は美味かった。
「仕事が始まったら、今度は庭石運びじゃぞ。お前はちっと乱暴じゃからな、あの石を落としたりして欠けさせてはならんぞ、絶対にな!」
「わかってる、じいちゃん」
 和風庭園の中にある、小さな池。コイキングを飼う予定らしい。ドッコラーはせっせと石を運び、指定された場所に並べていく。材木よりも軽く感じるものもあれば、重く感じるものもある。こんな石で池を作るなんて、人間は変わっているなあ。そう思いながらも、設計図通りに並べた。
 昼、大工たちにまじって茶を飲み、木の実やポケモンフードを食べる。それから夕方まで仕事をする。
「あー、仕事終わっちゃった」
 ドッコラーは、大工たちが帰って行くのを見送った。その後、
「じいちゃん、稽古つけてくれ!」
「わかっておるわい」
 ローブシンは、折れた電柱をひょいと投げつける。しかも次々に。
「そいつでお手玉をしてみい! 十回できれば合格じゃ!」
 数分後、ドッコラーは電柱の下敷きになっていた。

「いててててて!」
 ドッコラーは、ローブシンの手当てに悲鳴を上げていた。
「軟弱者めが!」
 包帯が乱暴に巻かれ、ドッコラーはまるで小さなミイラのような姿になってしまった。
「こんなに巻きつける必要あんの、じいちゃん」
「お前なら一晩で治るわい。回復力は、わし以上じゃからな」
 乱暴な手当てが終わる。月が高くのぼり、夜空を明るく照らしている。いつもの寝床にもぐりこんで、ドッコラーは眠りに落ちる。
「むにゃむにゃ、いつか大工に――」
 流れ星が一つ、夜空を突っ切った。
 いつか立派な大工になって見せる。それが、昔からのドッコラーの夢であった。