洞窟探険してみた
「この洞窟、ホントに大丈夫なんでチュ?」
末っ子ピチューは、小さく身を震わせた。
「うう、暗いでチュ」
「薄暗くて当たり前じゃん。お日さまの光がはいらないんだから」
ブイゼルが洞窟を覗きこむ。洞窟と言っても、ディグダやモグリューといった地面ポケモンたちが岩壁に穴を掘って地面を整備してつくったものだ。入口が大きいので内部もさぞや深いのだろうと思われるが、実はそうではなかった。
「それでも不気味でチャマ」
末っ子ピチューと同じく、ポッチャマも小さく身を震わせる。
「一本道ってわかってても、やっぱり何だかこわいなあ、ミミ」
ミミロルも同じく。
彼らの目の前に在る小さな洞窟は、「探険ごっこをしよう」と誰が言い出したかは知らないが、とにかく地面ポケモンや岩ポケモンによってつくられたものだ。一本道なので当然迷う事は無い。最深部には「おたから」として、木の実の詰め合わせを置いているとのこと。試験的に、「探険ごっこ用」に作られたものなので、洞窟で探険ごっこをしたポケモンたちの反応次第では、もっと洞窟を広げる予定でいるらしい。
「だいじょぶだって。つきあたりまで行ったらそのまま回れ右して、きた道を戻ればいいんだから」
ブイゼルは勇んで、洞窟の中へ足を踏み入れる。
「ほらー、お前らもこいよー」
ピチュー、ポッチャマ、ミミロルは互いに顔を見合わせた後、3匹はぎゅっとかたまって、ブイゼルの後に続いて洞窟の中に入った。
洞窟の内部は薄暗かった。だが、ところどころに植えられたヒカリゴケのおかげで、真っ暗闇というわけではなかった。
「もうちょっと離れてくれよ。いくらなんでも、歩きにくいだろっ」
ブイゼルは苦しそうに言った。それもそのはずだ、残る3匹は、ブイゼルの背中と左右にくっついているのだ。洞窟は広く作られているのに、ブイゼルの周囲を囲まれている状態では、狭く感じて当然。
「大丈夫だってば、もう」
右腕にひっついてくるピチューを振り払おうとするも、相手はその倍以上の力でしがみついてくるので、振り払えない。
「ひえあああああ!」
いきなり、ブイゼルの背後にいたミミロルが飛び上がった。悲鳴は洞窟内部にこだました。
「な、な、な、何かさわったああああ!」
「チャマアアアアア!」
その悲鳴を聞いてパニックに陥ったポッチャマ。ブイゼルの左腕をぱっとはなして、その場をぐるぐる走り回った末岩壁に激突した。
「落ちつけってお前ら!」
とりあえずブイゼルは、目を回したポッチャマをほっておき、泣きだすミミロルの様子を見る。何かが首に触ったと言うので調べてみると、濡れている。洞窟の天井を見上げると、何のことは無い、ただ単に、水滴が、人工の鍾乳石からポタリポタリと垂れていただけであった。おどかしを盛り上げる演出のために、洞窟の所々に、極細の溝を作り上げてそこに近くの川から水を流している仕組み。
「なんだよ、ただの水滴じゃないか。これぐらいで大声をあげるなよ。心臓とまっちゃうじゃん」
呆れかえったブイゼルに、ミミロルは涙目で怒鳴る。
「だってだって! ミミ、ホントにびっくりしたんだもん!」
その怒鳴り声すらも洞窟内にキンキンこだましたので、目を回したポッチャマが意識を取り戻したほどだった。
4匹は、再び奥へと進んでいった。が、ブイゼルを囲む3匹は、先ほどよりもさらにしっかりとブイゼルにひっついてきたので、ブイゼルは歩くのに一苦労。ぱっと見た感じ、洞窟内でおしくらまんじゅうでもしているかのような光景。
「もう、さっさと離れてくれよ!」
ブイゼルが怒鳴るが、
「やだ、こわいもん」
3匹は同じ答えを異口同音に返した。
仕方なくブイゼルは荷物を3つも左右と背中に抱えたままで、足を引きずりながら前進した。
苦労の甲斐あって、一本道なのにそれほど深く無い洞窟の深奥がヒカリゴケによって明るく照らされているのを見た時、ブイゼルは安堵のため息をついたほどであった。
ヒカリゴケが天井と地面の角に敷き詰められ、この場所だけが特別明るい。そして、その不自然に四角く整えられた小さな最奥の場所の真ん中には、平たい岩が置かれ、その上にはたくさんの木の実がおいてあった!
「あった! これがおたからだよ!」
ブイゼルの一声で、ピチュー、ミミロル、ポッチャマは大喜びだ。先ほどまで、怖がってブイゼルにくっついていたのが、うそのようだ!
「わー、おたからだ!」
4匹は、大喜びで木の実に突撃する。
「いただきまーす!」
好きな木の実を手にとってかじる。
「オレがお前らをここまで運んでやったんだから、オレはこれだけ食べるぞっ」
ブイゼルが五つか六つ、ごそっと木の実を抱えてさらう。口にモモンの実を入れたばかりのミミロルは、負けてなるものかと、丸めている耳を伸ばして、ブリーの実を平たい岩から落とす。ポッチャマも、
「これは大好物なのでチャマ!」
末っ子ピチューが手を伸ばすより先に、カゴの実を奪い取る。ナナの実をほおばったピチューは怒り、電気を頬袋から発しながら「だめー!」とカゴの実を奪い返そうと身を乗り出した。
おやつタイムが一瞬にして、木の実の奪い合いに変わる。
「おーい」
壁をすり抜けて入ってきた、ゴースの声にも気がつかないほど、木の実の奪い合いはヒートアップしていた。そこでゴースは四匹に向かって、力を弱めたシャドーボールを放ち、無理やり大人しくさせる。ノーマルタイプのミミロルにだけはダメージがないが、ほか三匹がゴースに気付いたのを見て、ミミロルも大人しくなった。
「お前らよお、何やってんだ。次の探険者がきてんだから、ケンカなんか止めて早く出口へ行ってくんな。外に行けば木の実はたらふく食えるだろうがああ」
いきなりゴースが巨大化して口をぐわっと開けて迫ってきた!
四匹は仰天し、ゴースの牙から逃れようと、いつの間にか開いたヒカリゴケまみれの道に跳びこんでいた。
出口はすぐ傍だった。ヒカリゴケの道を一分も走らないうちから、外の眩しい光が見えてきたのだ。そして、あっという間に、四匹は外へ飛び出していた。岩壁をぶちぬいて作った出口から、ドサドサと草むらへと倒れ込む。
「で、出られた……」
恐怖と驚愕と緊張が太陽の下で一気に解放され、四匹が声をあげて泣くのが、辺りにこだましていた……。
後日、探険用の小さな洞窟は、少しずつ増築されていった。