洞窟探険してみた2



 ポケモン渓谷の、「探険ごっこ」用の洞窟は、もっと広く大きくなるよう拡張工事が行われた。これまではただの一本道だったのだが、別れ道が作られた。もちろん、迷子が出てもいいように、戻る道はちゃんと作ってある。別れ道のうち、ヒカリゴケで照らされている道こそが、入り口から続く、正しいルートなのだ。たとえ迷子になっても、ヒカリゴケをたどっていけば、洞窟の奥か或いは入り口へ行けると言うわけだ。そして洞窟の最奥には、相変わらず、「おたから」として木の実の詰め合わせが置いてある。

「この洞窟、広くなったんだってよ」
 もっと大きく広がった洞窟の入り口を覗き、キバゴは自分の口から突き出したダブルチョップ用の牙を磨きながら言った。
「あたいの見てない間に、また地面ポケモンたちが広げたのねえ。ずいぶん立派だわあ」
 チコリータは、頭上の大きな葉を洞窟の壁に触れさせてみる。壁はちゃんと鋼ポケモンによって固く補強されている。
「でもここ、湿っぽそうだな。ちょっとこわいかも」
 ヒトカゲは不安そうに中を覗き込む。尾の火が消えるとヒトカゲの命も消えるので、水が洞窟内に在るか否かを確かめたくなるのは当然だ。
「別に湿っぽくねえよう」
 ワニノコはヒトカゲの反対、水ポケモンであるだけに、水気のある場所が大好き。
「とにかく入ってみっか。改築したんなら、面白そうな仕掛けがあるかもしれないしよ」
 キバゴの一声で、皆喜んで(ヒトカゲを除く)、「探険ごっこ」用の洞窟に足を踏み入れた。

 洞窟の中は、入り口同様、落盤や崩落を防ぐためにしっかりと壁や天井が補強されている。道の両脇にはヒカリゴケが植えられ、それの放つ優しい光が視界を確保してくれる。
「やっぱり湿気てるな。オドカシの手段として水を使ってんじゃねえかあ?」
 ワニノコの言葉に、ヒトカゲはびくりとして己の尻尾を抱きかかえる。
「そ、そ、それは嫌だよお。火が消えちゃう」
「尻尾に水が当たらなければいいんだろ。そうやって大事に抱えてりゃ大丈夫だっての」
「でもなあ」
「なんだったら、あたいの葉っぱ貸そうか?」
 チコリータがその大きな葉を動かしてみせる。しかしヒトカゲは断った。
「葉っぱが燃えちゃうから駄目だよお」
 四匹が真っ直ぐ進んでいくと、別れ道があった。正面に伸びる道と、左右に分かれる道。三本の道が四匹の前に伸びている。
「こっちへ行こうぜ」
 キバゴは右の道を指す。正面の道はヒカリゴケに照らされているが、他の道はそうではない。
 四匹はとりあえずキバゴの選んだ、右の道へ進む。が、
「何だよ、もう行き止まりかよ」
 四匹がその別れ道に入ってからすぐ、行き止まりにぶつかってしまった。
 戻って、今度は左の別れ道へ進んでみる。しかし今度も同じこと。
「まだ別れ道は作れてねえみてえだな」
 ワニノコの言葉に、皆うなずいた。道は分かれているけれど、入ってすぐに行き止まりなのだ。
「新しい別れ道は、今後に期待しようよ。それより先へ行きましょう」
 チコリータの言葉に、皆、ヒカリゴケで照らされている道を歩き始めた。
 ヒカリゴケで照らされている道のほか、別れ道は何度も見つかった。キバゴたちはそのたびに、道の奥を確認するために別れ道へ入っていくが、いずれも、入ってすぐに壁にぶつかってしまった。まだまだ、工事は途中らしい。一応形としては、「探険ごっこ」洞窟なのだから、これが完成するのはもっと後なのだろう。完成したら、もっと複雑な迷路になっていること間違いなし。
「天井の鍾乳石、無くなってるね」
 ヒトカゲは、自分のしっぽの明かりで天井を見上げ、つぶやいた。皆もつられて天井を見る。
「そういやあそうだなー、確かこの洞窟、脅かしの演出のために鍾乳石を作ったんじゃなかったっけか」
 ワニノコはぐるりと天井を見渡す。何もない。やや凸凹の残る、補強された天井があるだけだ。天井から鍾乳石が伸びているはずなのに。
「まだ工事が終わってないからじゃない? 工事が終わったら、鍾乳石が出来ると思うよお」
 チコリータは天井にはそれほど興味がなさそうだった。
 四匹はしばらく、ヒカリゴケに沿って歩いていった。やがて前方から甘い香りが漂ってきて、最奥に来たのだとわかった。
 ヒカリゴケが床と天井に敷き詰められた小さな場所で、岩を平らに削った台の上に、たくさんの木の実が乗っている。ここが終点だ。
「おお、喉乾いてたんだ。腹減った」
 キバゴが最初に跳び付いた。他の三匹も、つられて木の実を食べ始める。
「それにしても、脅かしも何もないなんて、これじゃただの洞窟だよ。道が作りかけでさ」
 モモンの実の汁で口の周りを汚したチコリータは不満たらたら。
「そうだねえ。でも、まだ工事中なんだろ。まだまだ、洞窟は深くなるさ」
 ヒトカゲは、カゴの実の皮をむくのを止め、直接木の実をほおばった。
「来るタイミングが悪かったってことかなあ」
 ワニノコはその鋭い牙で、ナナの実を噛みつぶした。苦い顔で。
「また今度来てみようぜ。今回はつまんなかったけど、次はもっと楽しくなってるはずさ」
 キバゴは自信満々に言って、オレンの実をほおばった。

 終点にたどりついた四匹は、隠し通路から洞窟の外へ出ていった。
「また今度来ようよ」と言って。