洞窟探険してみた3



「また洞窟がパワーアップしたんだってさ」
「探険ごっこ」用の洞窟の前で、キバゴが言った。周りにいるのは、ヒトカゲ、ワニノコ、チコリータ、ピチュー、ブイゼル、ミミロル、ポッチャマ。前回、洞窟探険をしたメンバーだ。
「入り口は特に変化してないよな」
 ブイゼルは、尻尾を回しながら、入り口の穴をじっと見る。大きさに変化はないし、幅にも変化はない。
「どういうふうにパワーアップしたんだろうね。あたいにはわかんない」
 チコリータは、頭に生えている大きな葉を動かしながら、洞窟の中を覗き込む。
「より深いところまで掘られたとか、もっと道が複雑になったとか、そんなだろ」
「入ってみないと分かんないけど、あんまり入りたくないなあ」
「でもどうなったか知るには、入るのが一番だろ」

 皆は結局、二列に並んで洞窟に入った。洞窟の幅は広げられていなかったので、皆で横に並んで歩くことはできなかったのだ。
 洞窟の中は、相変わらずヒカリゴケが照らしている。ヒカリゴケの照らす道に沿って歩いていると、ふとワニノコが言った。
「水の音がするぜ?」
 ワニノコの言葉通り、洞窟の中を細い川が流れており、導かれるまま歩いて行くと、広々とした場所に出た。平らにならされた地面と壁、そして、細い川の流れる先には小さな泉があった。
 慣らされている地面には、同じく平らに切りだされた大理石が置かれている。その上には、たくさんの木の実が載っている。
「休憩ポイントってとこだねえ、ここ」
 ヒトカゲがつぶやいた。
 この休憩ポイントの先には、ヒカリゴケで照らされた道が伸びる。皆はその道を見て、次に、大理石に載せられた木の実の山を見る。
「食べてけってことチャマ?」
 ポッチャマの言葉に、皆賛成した。ちょうどおやつの時間だ。小腹がすいた皆は、めいめい好きな木の実をとって食べ、喉が渇いているならば泉の水を飲む。
 汁気たっぷりのみずみずしい木の実で腹ごしらえをした皆は、この広場を出て先へ進んだ。また一直線の道が続くが、しばらく歩くとその道は二つに分かれていた。
「わかれちまってるね。こっちも二手に分かれようか。目印つけながら歩けば、例えどっちかの道が行き止まりでも、目印たどっていけば、ここへ戻ってこられるだろうしね」
 キバゴの提案に皆は賛成する。そして、左の道へは、キバゴ・ヒトカゲ・ワニノコ・チコリータが向かう。右の道へは、ブイゼル・ピチュー・ミミロル・ポッチャマが向かう。
 同時にそれぞれの道へ行った結果、左の道は行き止まりだったが、キバゴたちは、平らに削られた岩の上に、光るものが置いてあるのを発見した。それは、モグリューの掘りだすジュエル。
「何でこんなところに置いてあるんだろう?」
「おたからの代わりじゃない? あたい達に持って行けってことかもよ?」
「かもしれないね。ありがたくいただいておくか」
 キバゴはジュエルをひょいと取りあげた。
 キバゴのチームは別れ道まで戻る。一本道なので迷いっこない。別れ道に戻ってくると今度は右の道を行き、先に進んでいたブイゼルのチームと合流した。
「よお、あっちは行き止まりだったかい?」
 ブイゼルの言葉に、キバゴはうなずく。
「でも変わったものを見つけたぜ。こいつさ」
 キバゴのジュエルを見て、ブイゼルは尻尾を回す。
「お前らも見つけたのかあ」
 ブイゼルが出してきたのは、キバゴが持っているそれと同じ形をした、ジュエルだった。色は違うけれど、形は一緒。
「洞窟のあっちこっちに置いてあるんじゃないのか? これ。何のためにそうしてるのかは知らないけどな」
「持ち帰り用のお宝じゃないのか?」
 そこで突然、悲鳴が響きわたり、その場の全員が飛び上がった。狭い洞窟内で反響した悲鳴は、悲鳴が終わっても木霊を残した。ピチューやミミロルはパニックで走り周り、チコリータの蔓で脚をからめられて転倒した。
「落ち着きなよ、チビたち! それより、誰なのさ、悲鳴なんか上げたのは」
 悲鳴を上げたのはヒトカゲだった。天井を指差しながら、ガタガタ震えている。
「おい、一体どうした――」
 ワニノコはヒトカゲの指が指す方向を見上げ――
「ひええあああああっ!」
 その直後に、薄暗い天井からズバットの群れが襲いかかってきた!
 敵襲など考えもしなかった皆は、悲鳴を上げて逃げ惑った。

「はぐれちゃったでチュ」
 ピチューは、小さな広場にたどりついていた。無我夢中で走ったので、どんなルートで来たのかは全く分からない。この広場は、おやつの木の実を食べた広場と同じ作りになっているが、泉は湧いているけれど木の実の置かれた大理石の板はなく、藁の塊がいくつも置かれているだけ。たぶん、一休みするための寝床なのだろう。
「あ」
 ここは一体どこなのだろうと思うより先に、ピチューはトイレに行きたくなった。汁気の多いモモンの実を食べ、泉の水を飲んだのだから、当然のこと。
「うう、お、おしっこ……!」
 用を足すのにちょうどいい場所はないかと、ピチューが周りを見回していると、タタタと軽快な足音が聞こえた。一体何事かと、怯えて、通路を見るピチュー。足音の主は間もなく現れたが、それはキバゴだった。その後ろに、ミミロルとチコリータもいる。
 大あわてで飛び込んできた皆は、後ろを一斉に振り返り、何も追ってきていないことを確認するとホッと安堵の息をはいた。
「やっと振り切れた。助かったあ。あー、ピチューか。無事でよかったなー」
 三匹はぐったりとその場で座りこむ。ピチューは、友達が来てくれたことへの安堵と嬉しさのあまり泣き出しそうになる。
「ぶ、無事でチュ。あ、おしっこでチュ……」
 緊張から解かれて気が緩んだのだ。トイレを探すピチューにつられてか、他三匹も「そういえば」と立ちあがり、そわそわし始める。皆、汁気たっぷりの木の実を食べ、泉の水を飲んだのだ。
 ミミロルとチコリータは、積まれている藁を取り、広場の一角に積み上げる。見られたくないから壁を作っているのだろう。ピチューとキバゴは、別の一角にくぼみを見つけた。
 その時、通路から、派手な羽音と共にゴルバットが二匹、飛び込んできた!
 新たな敵襲。皆、用を足そうとしていたのに、驚きのあまり失禁してしまった。ゴルバットは容赦なく、飛びかかってきた!
「水鉄砲でい!」
 威勢の良い声と共に、通路から一筋の水が勢いよく飛び、キバゴにとびかかったゴルバットに直撃。
「バブル光線でチャマ!」
 水鉄砲の飛んできたのと同じ方向から、光を放つ細かい泡が勢いよく飛び出し、ミミロルを襲おうとしたゴルバットの背中を直撃した。
 不意打ちに驚いたのか、ゴルバットたちは反対側の通路へと逃げ出してしまった。
「おーい、大丈夫かーあ?」
 どやどやと飛びこんできたのは、ブイゼル・ワニノコ・ヒトカゲ・ポッチャマだった。
「おう、お前ら!」
 キバゴが声をかけた。 「だ、大丈夫でチュ!」
 ピチューは安堵した。失禁は完全に終わり、くぼみには小さな黄色い泉が出来ている。
 ブイゼル達が、ミミロル達の方へ行きかけると、ミミロルとチコリータは何やら叫びながら、藁の塊を投げたり葉っぱカッターを放ったりと、まるで彼らを近づけまいとしているかのような行動を取る。
「みないでよう!」
「こんなに離れてるのに見えるわけねえだろおが。まあいいや、大丈夫なようだし、ほっておこうぜ。そんなことより、出口へ行くぜ、あそこに見えてるあの光、あれだろ」
 ワニノコはフンと鼻を鳴らし、ゴルバットが逃げていった通路へ向かう。他の皆もぞろぞろとそれに従った。最後に広場を出ようとしたヒトカゲは、広場の一角にある黄色い泉に目を止める。
「あれ、近づかない方がよさそうだねえ」
 黄色い、湯気の立った泉の正体を察したようだった。
 通路の先には、ワニノコの言った通り、ひと際大きな光があった。その中へ飛び込むと、「洞窟クリア、おめでとうございますー!」の声と共に、ロゼリアやロズレイドが、花びらの舞いで出迎えてくれた。
「おおっ、ジュエルを見つけたようですね!」
「このジュエル、何に使うの?」
「特に使い道はないです。持って帰って記念品にでもしてください」
 ロゼリアの返答に、一同はずっこけた。
「またのお越しをお待ちしてま〜す」
 ロズレイドとロゼリアに見送られながら、八匹は帰路に着いた。