エネコのしっぽ



 エネコの尾は、普通の尾とは少し違っている。ピンク色の尾の先っぽに小さな突起のようなものがついている。それはエネコの感情に反応して、ピクピクと動くらしい。
 学会では、まだ検証の段階だが、これから研究所のエネコを観察してみようと思う。
 さて、まずはエネコをこっちへ招きよせて、色々な感情を引き出すことからはじめてみよう。

 エネコが怒っている。毛を逆立て、細い目をぐっと吊り上げて。尻尾もピンと立っているが、その先にある小さな突起は、やはりピンと立っていて怒りをあらわにするかのようにかすかに震えている。

 エネコが笑っている。尻尾がぷらぷらとゆれて、ご機嫌さを表している。その先にある小さな突起は、尾と同じようにぷらぷらとゆれている。エネコの顔も嬉しそうだ。

 エネコが泣いている。毛皮も尻尾もくたっと萎れ、その先についている突起も、くにゃりと力なく曲がっている。体全体で、悲しがっているかのように見える。

 エネコががっかりしている。ぐにゃりと曲がった尾の先についた小さな突起は、がっかりとした気持ちを表すかのように四方八方の向きに力なく垂れている。

 エネコが眠っている。小さな体を丸めて、尻尾を体に巻きつけて。何の夢を見ているのだろうか。尻尾の突起を観察してみよう。
 尾がゆっくりと揺れ動いている。突起はまだ何も反応を示さない。
 エネコが、「ニャ〜〜〜」と寝言を言う。尾がピンと立ち、続いて突起がかすかに震えた。だがすぐにそれもおさまった。ごろんと仰向けに転がったエネコの体は、太陽の光を浴びて気持ち良さそうだ。だが、その尾を見てみると、ピンと伸びている。夢はまだ続いているらしい。ウー、とかすかに喉の奥でうなり、全身が緊張をおびる。尾の先の突起は様々な方向へと伸び、まるで周囲を警戒するかのようである。

「ウミャーッ!」

 エネコが飛び起きた!

「フーッ!」
 どうやら嫌な夢を見ていたらしい。飛び起きるなり、威嚇を始めた。
「ニャッ?」
 どうやら、こちらが敵ではないことを認識したらしい。
「ニャ〜」
 エネコはその場でお座りし、尾を振った。そしてその先の突起も、嬉しそうに小刻みに揺らしていた。

 エネコの尾の先にある突起が、エネコ自身の感情を表している、あるいは表す手助けをしていることに、間違いはなさそうである。だが、エネコ一体だけでは検証不足だ。野生のエネコを探して、しばらく旅に出ようと思う。