廃工場
町の外れには、廃工場がひっそりと建っている。工場が閉鎖されてからこれで二年ほど経つのだが、ポケモンたちのねぐらとして、未だに使われている。正しくは、廃工場にポケモンたちが勝手に住み着いたのだ。
ポケモンたちは、この工場が、もとは缶詰を作るための工場であることは理解していた。工場が稼動しているときは、餌として、時々製品を分けてもらっていた。そして工場が経営破綻して閉鎖したとき、工場主の好意で、ポケモンたちの新しい住まいとなったのである。優しかった工場主や従業員がいなくなってしまうことに寂しさを覚えるポケモンは多かった。しかし新しい住まいがもらえたので喜ぶポケモンもいた。
工場の中は、ほとんどの機械が撤去されている。ポケモンにとって危険であると思われるものは全て解体されて運び出されたが、設置されたままの機械の中には、電気がなければ動かせないものもある。もちろん電気ポケモンがいたずらに電気を流さないよう、絶縁体を使用した防護シートを機械や導線に被せてある。
さて、その防護シートだが、よく歯ののびるコラッタがやたらとかじっていた。それなりに硬いし、鉄をかじると歯が痛くなるので代わりにかじっているのである。かじられるシートは最初のうちこそ小さな傷だけですんでいたが、繰り返しかじられることによって、だんだんと傷が大きくなり、ついには裂け目まで出来てしまった。
廃工場に住んでいる電気ポケモンは、エレキッドとラクライである。いつもふざけあって追いかけあい、時には微弱な電流を発して遊んでいるのだが、今回、防護シートに裂け目が出来ているこの場では、それが命取りとも言える行為となった。
電流をうけた機械は、ゆっくりと稼動を始めたのである。
「きゃーっ」
突如動き出したベルトコンベアに、ラクライは驚いて転んだ。エレキッドはちょうどリフトに掴まっているところだったが、掴まっているリフトが突如動き出したので、危うく手を放すところだった。だが、驚いたショックで放電した。
これには他のポケモンたちも驚いた。何しろ、突然機械が動き出したのだから。ベルトコンベアの上で寝ていたデルビルは、突如コンベアが動き出したのに仰天して、床に落ちてしまった。
「わあああ、どうなってるんだー!」
解体の不可能な機械は、エレキッドの電気ショックで動き出したのだ。ポケモンたちは大慌て。
「わーっ、どうしよう!」
リフトが動く、ベルトコンベアが動く、洗浄機が回りだす。ポケモンたちは逃げ惑い、ぶつかり合った。缶詰を綺麗にする洗浄機のブラシに捕まりかけたメタモンは液体のように溶けて逃げ出し、コンベアに乗っているキノココは胞子を撒き散らしながら懸命に走って逃げようとする。ポチエナはリフトの紐に足をとられてひっくり返り、そのまま動くリフトに宙吊りにされる。
工場中の機械が一斉に稼動し、ポケモンたちは工場の中を逃げ回った。
約一時間後、機械はやっと静止した。
ポケモンたちは機械の地獄から一斉に解放された。おそるおそる機械に近づいて、触ってみる。しかし、機械はうんともすんとも言わず、動きもしなかった。
「助かったね……」
誰かが言った。皆、うなずいた。皆、まだ機械が動いていたときのショックがぬけていなかった。
「でも、」
また誰かが口を開いた。
「怖かったけど、何だか、楽しかったね」
また、皆はうなずいた。あんな怖い目に遭ったというのに、懲りてはいないようだった。
後日、機械が動いた理由が、コラッタのかじった絶縁シートの破れから電流が流された為だと分かった。それが分かった後、廃工場からは、何日かに一度、機械の稼動する音と、ポケモンたちの楽しそうに騒ぐ声が聞こえてくるようになった。
廃工場は、町中のポケモンたちの小さなアトラクションとして、有名になったのであった。