寒がりブースター



「ふえっくしょん!」
 ブースターは住まいの中で、大きなくしゃみをした。
「うううう! 何で冬なんか来るんだよお! 今年こそ南で越冬しようと思ってたのに結局行けなくなっちゃったし……!」
 雪の降り積もるポケモン警告。寒がりブースターは例によって、巣穴の中で落ち葉を山ほど体に寄せて少しでも体を温めようとしている。今年こそ越冬のために南下しようと決めていたのに、肝心なときに足を怪我してしまい、治療のためにしばらく巣穴に引きこもっていたため、行く機会を逃してしまったのである。足が治ったときにはすでに紅葉が散り始め、ポケモンたちは冬篭りのための支度を始めていた。結局ブースターは南下を来年の秋に延ばすことにして、今年は大人しく冬篭りの支度をしたのであった。
「うううう、寒いよおお」
 ブースターは縮こまった。巣穴の入り口をできるだけ雪でふさぐ。窒息しない程度の隙間はあけておいた。風の通り道をできるだけ狭くしたことで、巣穴はだいぶ暖かくなった。
「あ、そうだ。もう少し通り道を何とか……」
 ブースターは寒いのを懸命にこらえ、巣穴から出る。そして、ふさいだ穴周りの雪をいったん崩した。
「これをこうして――はくしょっ!」
 雪を集めて固めなおす。自分が通れるくらいの広さと高さを作る。その通路を、巣穴の出口から三十センチほど先まで作っていく。
「できた」
 簡単なかまくらの完成だ。ブースターは得意になって穴をくぐり、巣穴に戻る。先ほどふさいだより若干寒くなったが、それでも暖かい。
「これでぐっすり眠れるかも。寝ている間に春が来てくれたら、うれしいなあ」
 もう一度丸まりなおして、ブースターはまた眠りについた。

「ふえっくしょん!」
 ブースターは、大きなくしゃみとともに目を覚ました。
「さ、寒いよ。ま、まだ冬なの……?」
 ブースターはかまくらの出口を通して、外を見てみる。
「ああああっ」
 いつのまにか、かまくらの通路が崩れてしまい、巣の中めがけて風が吹き込んでいたのだ。そのため、体を冷やしたブースターは目が覚めたというわけ。
「もう!」
 ブースターは、雪を固めなおした。今度はかまくらにはせず、ただ単に穴の出口に雪を積み上げて足で硬く踏んづけたものだ。臨時のバリケードだが、風はあまり入ってこないので、ブースターは満足した。
「さて、もう一眠り」
 近くの雪を掘ってみたが、ふきのとうはまだ芽吹いていない。春が来るのはまだまだ先のこと。ブースターはため息をついて穴を埋め戻し、巣穴に入った。
「今度こそ、春が来てくれよっ」
 ブースターはクラボの実を食べて、辛さで体を温め、また目を閉じた。
「むにゃむにゃ」

 目が覚めた。
 巣穴の外を見ると、雪はやんでいた。晴れの日だろうか、春が来たのだろうか。どちらかわからないので、ブースターは巣の外に出た。
 雪は、すっかり溶けていた。そして、あたり一面、草が芽吹いているのが見えた。木々の枝からは若芽が少しずつ伸びようとしているのが見える。
 冬が、終わったのだ。
 ブースターはうれしさのあまり、飛び跳ねた。
「やったああああ! 冬が終わったんだああ!」
 周りに誰もいないのをいいことに――いや、誰かいてもそうしたかもしれないが――ブースターはぴょんぴょんと飛び跳ねていった。
 足を滑らせた。
「わああああ」
 ごろごろ転がって、冷たい川の中へずぶりと落ちた。
「わあああ! 冷たいいいい!」
 冬が終わったばかりの春の川は冷たい。ブースターは必死でもがいた。
「助けてえええ!」

 目が覚めた。
 ブースターは巣穴の外に寝転がっていた。
「はっ」
 起き上がる。
「なあんだ。夢だったのか」
 雪はやんでいて、少し暖かかった。しかしブースターにはあまり慰めにはならない。それでも、春まであとどのくらいなのかを確かめるために、雪を掘ってみた。
 わずかに掘っただけで、ふきのとうが姿を現した。
「わああ。春はもうすぐだ!」
 ブースターはうれしさで飛び跳ねた。そして雪で足を滑らせ、近くの雪だまりの中へと盛大に飛び込んでしまったのだった。

「こ、これだけは……正夢……」