春の兆し



「そろそろ春が来そうだな」
 ブースターは、ポケモン渓谷にかかっている雪雲を見ながら、つぶやいた。日に日に、雪雲は薄くなっていく。それにつられて、雪が少なくなっていることが分かる。
(おじいさんたちの昔話に付き合わされるのも後わずか。早く雪雲が無くならないかな)
 ブースターは後ろ脚で耳の裏をかいた。ポケモン渓谷から外れた所にある火山帯。コータスやドンメルなどのポケモンが年がら年中たむろしている場所だ。寒がり屋のブースターには、最高の場所。だが、四六時中、年寄りたちの昔話につきあわされている。それさえなければ、ここはとても過ごしやすい場所なのである。
(岩盤浴してから、木の実食べよう)
 ぽかぽかと照りつける太陽の下で、ブースターはごろんと大きな岩の上に横たわった。
「ちょっと昼寝しようかな……」
 三十分後、ごろんと寝相を変えた拍子に、ブースターは温泉の中へ落ちたのだった。

「大吹雪が三回来た。あともうちょっとで春が来るよ」
 ミュウは、外を眺めながら言った。子ミュウは、ふわあと退屈そうに大あくびをした。
「おそとで遊びたいー」
「今日は駄目だよ。大雪が降ってるんだから。明日晴れたら、外に行こうね」
「ふあーい」
 子ミュウはナナの実をほおばって、眠りについた。ミュウは再び外を眺める。ぼたん雪が降りそそいでいるが、空を覆っている雪雲はどんよりした灰色ではなく、明るめの灰色に変わっている。
(あと一週間くらいかな……)
 それからミュウも藁の中へもぐりこみ、もう一度眠りについた。

「うーん……」
 ライチュウは目を覚ました。巣穴の入り口から入り込む冷たい雪風で体を冷やしてしまった。立てかけておいた鉄の板が風で少しずれてしまったのだ。
「あ、まだ雪が積もってるの? そろそろ春になってほしいなあ、もう」
 ぶつぶつ文句を言いながらも、外を見る。
「わあ、まだ雪が降ってる。でも、あの雲はだいぶうすいな」
 薄くなりつつある雪雲を見て、ライチュウはつぶやいた。どんよりした雲が徐々に薄く明るくなっていく。そして、渓谷を襲う三回の猛吹雪。それこそ、春の訪れが近いことをしめすものである。
「あともうちょっとで春が来るね!」
 再びライチュウは鉄の板を巣穴の入り口に立てかけ直し、眠りについた。

「あらあら、雲が薄くなってきましたわねえ」
 ぼたん雪の中、散歩中のユキメノコは空を見上げた。
「もう冬はおしまいなのですねえ。後は氷の洞窟の中で暮らすしかないのですねえ」
 ハア、とユキメノコは深くため息をついた。春から秋の終わりにかけて、一部の氷ポケモンは氷の洞窟の中で暮らしている。そこが一番住み心地のよい場所だから。
「まあ、仕方ありませんわね、ルージュラ奥様にもお伝えしなくては。きっとがっかりなさいますわ、奥様」
 ユキメノコはこの冬最後の散歩を楽しみながら、氷の洞窟へと向かっていった。

 ぼたん雪がやみ、東の空を覆っている雲の隙間から明るい太陽が姿を見せる。これまでより気温が上がり、雪が少しずつ溶け始める。
 春は、近い。