初雪



 ポケモン渓谷の初雪。
 今年最初に降ってきた雪。雪はしんしん降り積もり、渓谷を一面の銀世界に変えた。
 氷ポケモンたちは住まいから外へ出て、雪の中を歩き、冷たくて寒いこの季節を楽しんでいる。春の訪れで雪が溶け始めるまで、彼らはつかの間の冬を楽しむのだ。あるいは、冬眠から一時的に目覚めたポケモンたちが、雪遊びを一緒に楽しむ事もある。どんな季節も、ポケモンたちにとっては新しい遊びの季節でしかないのだ。

 冬眠しているポケモンの中で、たった一匹だけ、目を覚ましているポケモンがいる。
「ううう、さぶい」
 寒がりのブースターは、たくさんの葉っぱを敷き詰めた小さな洞穴の中で、それでもぶるぶる震えている。洞穴の入り口は、酸素がちゃんと入ってくるように少しだけ穴を開けてある。そのため隙間風も入る。かといって、隙間を完全にふさいでしまえば、窒息してしまう。
「なんで冬なんて来るんだよ! 年中春なら嬉しいのに」
 炎ポケモンなのに、このブースターは極度の寒がり。冬が大嫌い。眠っていたのに、隙間風に体を撫でられて眼が覚めたのだ。この時期に最もよく活動する氷ポケモンやごく一部の他のポケモンを除けば、他の住人たちはもう冬眠している。冬眠しているポケモンの中で起きているのは、ブースターだけだ。
 体を動かし、尻尾と腕で葉っぱをさらにかき集めて暖を取る。しかしそのたびに隙間風が入ってきて、葉っぱをあちこちへどかしてしまう。ブースターは再び腕で葉っぱをかき集める。エンドレスのこの作業に、ブースターは十分も経つとうんざりしてしまった。
「全くもう。寒くて眠れやしないよ」
 毛を逆立てると少しは寒さが和らぐのだが、それでも眠るにはまだ寒かった。
 外から、雪をふむサクサクという足音が聞こえ、続いて、ユキワラシがひょっこりと覗いてきた。
「やあ。起きてたの。寝てるとばかり思ってたよ」
「だって、寒くて眼が覚めちゃったんだ」
 ブースターは身を震わせる。洞穴の入り口に立っているユキワラシがある程度風を防いでくれているので、先ほどよりは寒さが弱くなっている。
「来年からは南へ越冬しに行こうかな?」
「それがいいんじゃない? ブースター寒がりじゃん」
「でも翼とか持ってないからさー。ぶるっ。歩いていく事になりそう」
「そうしなくてもさ、誰かの背中に乗せてってもらえばいいじゃん。物識り博士だって、たまにエアームドの夫婦の背中に乗せてもらってるしさ」
 ユキワラシはそう言って、手近な雪を丸めて、洞穴の入り口に固めた。雪の壁が、風をある程度防ぐ。それからユキワラシはバイバイと手を振って、どこかへ行ってしまった。
 ユキワラシの作ってくれた壁のおかげで、寒さがだいぶ和らいだ。ブースターは相変わらず毛を逆立てたままだが、それでも、少しは暖かく眠れそうだった。

 ポケモン渓谷に、しんしんと雪が降り積もっていく。
 やがて、ブースターは眠りについた。