一夜明ける



「ぎゃー!」
 ジグザグマは、思わず大声をあげた。
 なぜって、頭上にドサドサと派手に雪の塊が落ちてきたからだ。小さな山が出来たが、すぐにそれは壊れてしまう。ジグザグマはぶるっと身を震わせ、自分が壊した雪山の中から出てきた。
「ううう、冷えた冷えた」
 ポケモンセンターへ急ぐ。ラッキーが出迎えてくれた。タオルで体を拭いてもらった後、ポケモンフードを少しもらい、ジグザグマは食べている間、施設の暖房で体を温めた。
「ひどい雪になるとは思わなかったなあ」
 食べ終わると、急いでポケモンセンターを出る。ポケモントレーナーの一団がどやどや入ってきたからだ。暖を求めて入ってきたのかポケモンの回復のために入ってきたのかは、わからないが。
「さーてと、今夜はもう寝た方がいいな」
 ジグザグマは廃ビルに入り、古い毛布の中にもぐった。
 ジグザグマが眠りに落ちてから、外は激しい吹雪となった。

 腹いっぱいポケモンフードを胃袋に詰めた後、ガーディは気に入りのクッションの上に寝転んだ。カーテンの隙間から見える外界は、大雪。明日は世界が真っ白けになっているに違いない。
(明日も除雪作業かあ。せっかく頑張ったのに……)
 飼い主の手伝いをして一日中雪を溶かし続けていたのに、夜になってまたしても大雪。結局、除雪作業は意味の無いものになってしまった。まあ、雪かきをサボッて道が埋もれてしまうよりはずっといいが。
 ガーディはあくびして、時計がまだ七時半を指しているのに、眠りに落ちた。今日はもうくたびれてしまった。
「むにゃむにゃ」
 夢の中で、ガーディは巨大な雪ダルマと格闘していた。
「うーん、うーん」
 クッションから転がり落ち、木の床にゴチンと頭を打って、ガーディは目を覚ました。
「はっ……」
 周りを見ると、明かりは消えて暗くなっている。時計は、十一時半を指している。もう夜中前だ。
「やな夢みたなあ」
 ガーディは背伸びしてから、またクッションの上に戻り、体を丸めて眠りについた。今度こそ嫌な夢を見ませんようにと願いながら。
 ガーディが眠りに落ちた後も、外はゴウゴウと荒れ狂う吹雪によってあっというまに雪景色になっていく……。

「あーあ、大雪じゃねえか」
 スリープはスルメをかじりながら、窓の外を眺める。割れた窓は板をはりつけてふさいであり、風はそんなにはいってこない。
「どうしようなあ」
「べつにいいじゃねーの、おっさん」
 ゴーストが話しかけた。
「たっぷり食料を商店街から仕入れてきてるんだろ。数日くらいは籠城できるじゃん」
「おれの心配してるのは、食料の事じゃあねえのよ」
 ガジガジとスルメを乱暴にかじると、スリープは言った。
「この天気だと、奴が出るかもしれんのよ。お前なら見えるだろ、墓地の隅っこにいる奴」
「え。ああ、あの冷たい変な奴だろ」
 墓地の隅に、冬になると必ず現れる、幽霊。生前このあたりで凍死したらしく、雪をかぶった姿で現れる。墓場に住むゴーストポケモンたちからは、冷たい無口な奴だとして有名だ。特に害はないと思っている。根暗な奴だとも思われているので、ゴーストポケモンたちは相手にしない。
「でもあいつ何もしねえだろ、おっさん」
「しねえよ、ちょっかい出さなければな。ちょっかいって、何かわかるか?」
「いんや」
「あそこに、生きた連中がわんさかおしよせることさ。奴はみんなにとりついて、凍死させようとするんだよ」
「マジかよ」
「おれは嘘は言わん」
 ゴーストの目が真ん丸になった。
 その言葉を確かめるためにゴーストは墓地に出かけてみた。
 墓地の隅っこ。確かにいる。雪まみれになって、隅にうずくまっている。なんだかこちらを恨めしそうに見つめている。かかわらない方がいい、ゴーストの直感が告げていた。スリープの言った通り、ちょっかいをだすと「とんでもない」目に会うのは間違いなさそうだった。
「おーこわ。仲間たちにもこのハナシしてやるか」
 物知りスリープの言葉に間違いはないことを、このあたりに住むポケモンは皆知っているのだ。

 朝。ポッポの群れが空を横断する。
「一晩ですんげえ雪がつもったな」
 ポチエナは、周りを見てあぜんとした。自分が簡単に雪の中にズブズブ埋もれてしまうほどに、雪は深かった。
「これじゃあ、歩くのもつらいや」
 なるべく高いところを選んで飛び移り、気に入りの定食屋へ行く。店の前はきれいに雪かきされている。ポチエナは自分の体についた雪を、身をふるって払い落す。
 店の主人が裏手から出てきた。厚手の防寒着とシャベル。さっきまで雪かきしていたようだ。
「おお、きおったな」
 しっぽをふるポチエナをなでてやり、主人は店に入る。そして、あつあつの味噌汁を持ってきた。
「ほれ、冷めないうちに飲め」
 ポチエナは喜んで味噌汁を飲み始めた。
(うーん、この熱い味噌汁が大好きなんだよなー!)
 味噌汁を飲み終えて体がほてった。ポチエナは上機嫌で定食屋を後にした。
 まぶしい日差しが辺りを照らす。今日は晴れてくれそうだ。
「さてと、雪だるまでも作りに行こう!」
 ポチエナは塀の上を飛び移りながら公園に向かって駆けだしていった。