かき氷を作る



「あー、すずしいでチュー」
 末っ子ピチューは、気持ち良さそうな声をあげた。ほかのポケモンたちもピチューと同意見である。
「なんだよう、俺ばっかり凍える風ださせやがって」
 ニューラは不満そうな声をあげた。さっきから、ニューラはこの場の皆に、凍える風を当てていたのだ。真夏なので、ちょうどいい涼しさだ。こごえる風の丁度いい冷たさが、夏の暑い風によって適度な冷たさに温められるため皆の体をちょうどいい具合に冷やしてくれている。が、皆を冷やしているニューラは自分が全然涼しくないので、さっきから不満たらたらなのだった。
「俺だって暑いんだぞ! 何とか涼しくしてくれよ!」
「でも、氷タイプのわざなんて使えないんでチュ……」
「そんならさ、川に飛び込めばいいよ。流れる水につかると、本当に気持ちいいんだからサー」
 そう提案したのは、ブイゼルだった。が、ニューラは首を振った。
「俺が泳げないって知ってるだろ!」
「それか、さあ」
 次に提案したのは、ヨマワルだった。
「ものしり博士の、今年の怖い話を聞きに行くってのはどーだい? きっと今年もコワ〜イもんを聞かせてくれるだろーよ」

「だめっ!」

 その場の全員が首を振って否定した。
「だって、またあの悲鳴で中断させられんの、やだよ、おいら」
 ツチニンはカリカリと木の根っこを引っかきながら、片方の鉤づめでピチューをさした。ピチューは真っ赤になった。去年、初めてヨルノズクの怪談を聞きに行ったのだが、まだ盛り上がりの場面でもないのに悲鳴をあげて泣き出してしまい、「帰りたい帰りたい」と母親に泣きついて、皆を呆れさせたものだ。
「他に皆いっぺんに涼しくなる方法ってないのかな。ツボツボの木の実ジュースを飲んでみようかな」
 マンキーの言葉に、ブイゼルは言った。
「ジュースばっかり飲んでたんだけどさあ、こないだ、とうとうおなか壊したよ、かえっておなかを冷やし過ぎたんだ」
「北の洞窟へ遊びに行かない? 氷が敷き詰めてあるんだもん、きっと涼しいよ!」
 渓谷の北にある氷の洞窟は、氷ポケモンの住まいだ。年がら年中氷におおわれている場所なのだから、入ってみればきっと涼しかろう。嬉しそうなプリンの言葉に対し、呆れたようにブースターは言った。
「涼しいのは一瞬、凍えちまうよ。あそこは氷ポケモンにとっては天国だけど、ほかのポケモンにとっては寒すぎて、体がコチンコチンに凍るかもしれないよ? でも、僕みたいな炎ポケモンが出かけりゃ、すぐ氷が溶けちゃって追い出されるに決まってる。僕は寒いの苦手だからさ、遊びに行くつもりなんて無いけどね」
 そこで、ニューラが思いついたようだ。
「いや、俺が行けばいいんだ。それに、いい事思いついたんだ」
「何、何?」
「腹を壊すかもしれないけど、涼しくなる方法だよ!」
「どんなの?」
「まず、氷の洞窟から氷をちょっとばかり分けてもらうのさ、それからツボツボのジュースをいっぱい用意して――」

 ニューラは、このポケモン渓谷に来る前は人間社会にいた事もあった。そこで、人間たちがどのように涼をとっているか、多少なりとも知っているのだ。
 ニューラは氷ポケモンなので、氷の洞窟に出かけても平気だ。氷をひとかたまり、ユキメノコから分けてもらい、溶けないうちにと外へ運び出す。皆が、ツボツボのジュースを持って、待ち構えている。
「よーし、じゃあ行くぞ!」
 ニューラは、氷の塊に、みだれひっかきをおみまいした。氷の塊はあっという間に細かく砕かれていく。更に細かく砕かれていく。そうして、雪のように柔らかな手触りの氷の小さなかけらの山が、切り株の上につくられた。
「よーし、溶けないうちに器に盛って、ジュースをかけるんだ!」
 葉っぱで作った間に合わせの器に、めいめい氷を盛る。そしてジュースをかける。少し氷が溶けてしまったが、お構いなし。皆はその冷たいものを口に入れた。
「おいしーっ!」
 冷たいジュースと氷があわさり、キンキンに体が冷えたような感じ。
「すげーだろ、かき氷ってんだ。人間たちはこういうのも食べてるんだぜ」
「へー、すごいや。氷にジュースかけただけでこんなにおいしく食べられるなんて」
「でも喰いすぎはやっぱり駄目なんだよな。腹壊すからさ」
「そりゃ、こんなに冷たいんだもの。でも何杯でも食べられそうだよ!」
「うーっ、頭がいたいー」
「焦って食うからだよ。ゆっくり味わって食べればいいんだって。溶ける前にな」
「おいしー、おかわり!」
「わーん、おなか痛い……」

 ニューラの提案により、新しい納涼として、新しいデザートとして、あっというまにポケモン渓谷にかき氷が広まったのだった。