間欠泉
間欠泉。
渓谷から離れたところに火山帯があり、間欠泉が噴きだす。火山帯に間欠泉が在るのは珍しくもなんとも無いことである。
ポケモン渓谷にも、間欠泉が噴き出すところが一箇所だけある。火山帯に最も近い、渓谷の切れ目だ。
例に漏れず、間欠泉で遊んではのぼせるポケモンで毎日が賑やか。特に冬になると、雪遊び以外の娯楽として、あるいは単に体を温めるためだけに、間欠泉へ来るポケモンもいる。中には、地面ポケモンの協力を得て、近くに温泉を掘った者もいるくらいだ。
「あー、あったかあい」
寒がりのブースターは、温泉の中に浸かる。炎タイプのポケモンのため、あまり長くは浸かれない。湯から上がった後、ある程度時間を置いてまた浸かりなおすため、冷えて暖まっての繰り返しだ。蓄えのオレンの実は体力回復に欠かせない。
その近くで、間欠泉が勢い良く吹き上がる。間欠泉で飛ばされるポケモンたちのはしゃぎ声が響き、噴出の際の地鳴りも、はしゃぎ声に応えるかのようにゴゴゴゴと揺れる。
「んもう、うるさいなあ。静かに浸かりたいのに」
不満たらたらのブースターとは正反対に、間欠泉で遊ぶポケモンたちは楽しく吹き上げられていた。
「きゃっほ〜い!」
のぼせたポケモンたちは、ユキメノコ特製の鎌倉に敷かれたチーゴの葉の上で寝そべり、元気を取り戻すまで休憩する。それが終わるとまたしても、のぼせるまで間欠泉で遊び始める。
吹き上がったポケモンたちは、間欠泉が湯の中に引っ込むや否や、派手な水しぶきをたてて、ただの温泉の中へとダイビングした。
「きゃーっ」
笑い声を上げて、タッツーが湯の中へと落ちた。水ポケモンのため、簡単にはのぼせないが、一時間以上も遊んでいるため、そろそろ体中が熱くなってきている。
「ヤー、そろそろ休もうかな」
湯の中から飛び上がり、その勢いで鎌倉へ転げ込む。休んでいるほかのポケモンの邪魔にならないよう、葉のじゅうたんの隅に寝転がった。雪風はすこし寒かったが、体を冷やすにはちょうど良かった。
氷ポケモンは熱い湯が苦手だが、凍りついた木の実を温泉に浸けて暖め、食べに来ることもある。
「ところで」
暖かくなって食べやすくなったモモンの実を湯から上げて食べながら、ユキワラシが聞く。鎌倉の中で休んでいるチコリータは、頭上の葉っぱを動かし、起き上がる。だいぶ体が冷めてきたらしく、少し身震いした。
「なあに」
「あれって楽しい?」
「間欠泉? うん、楽しいよー。すっごい勢いで吹き上げられてさ、ばしゃーんて落ちるの。ちょっと痛いけど、楽しいよ!」
チコリータは起き上がり、温泉に向かって駆けていく。ユキワラシは瞬きした後、呟いた。
「オイラにはわからんねえ。湯に浸かれんから」
チコリータは湯船に浸かる。同時に地鳴りがして、間欠泉が勢い良く噴出する。湯に入っていたポケモンたちは間欠泉で吹き上がり、しばらく湯柱のてっぺんで揺すられるのを楽しむ。やがて間欠泉が湯の中へ戻ると、ポケモンたちは支えを失って、湯の中へ落ちる。
ユキワラシはよちよちと温泉の側へ寄る。ブースターは湯から上がり、ブルブルと体をふるって湯を落していた。そうしないと毛皮の湯が冷えて風邪をひくからだ。
「温泉って楽しいの?」
ユキワラシの問いに、ブースターはぶるっと勢い良く体を振るって答えた。
「楽しいっていうかさ、僕はただ体をあっためたいだけで、遊びに来てるわけじゃないんだけどな。楽しいっていうなら、たぶん、あっちの事じゃない?」
ブースターが視線を移したのは、吹き上がったばかりの間欠泉。ポケモンたちが湯に乗って跳び、きゃあきゃあ騒いでいる。楽しそうに。
「ふーん。でもオイラにゃわからんねえ。湯に浸かれんからねえ」
「かもねえ」
ブースターはまた温泉に浸かった。
ポケモン渓谷は冬半ば。
今日も間欠泉で遊ぶ、ポケモンたちの声が響く。