観覧車
町の遊園地。
「でっかいねー、これ」
ミジュマルが驚きと喜びの声を上げて、観覧車を見上げた。
「かんらんしゃって言うんだぞー」
こたえたのはフタチマル。ミジュマルは目を輝かせ、父ダイケンキを見る。
「ねえ、これ乗りたい!」
「乗るのはいいけど、いっぱい並んでるから、いっぱい待たなくちゃいけないぞ。それに、一度乗ったら、しばらく降りられないんだぞ」
「それでもいいよ、乗りたい!」
ミジュマルの熱心な言葉に、フタチマルとダイケンキは折れた。
「それじゃあ、父ちゃんはあっちのベンチで休んでるから、ふたりで乗ってきなさい」
「はーい」
ミジュマルとフタチマルがポケモン用観覧車の列に並ぶと、その前がツタージャとジャノビーの兄妹であった。ミジュマルとフタチマルが声をかけ、木の実ジュースを飲んでいた草の兄妹は振り返った。雑談をしている間にも列は少しずつ前に進み、観覧車はゆっくりと回った。
「やった! やっと乗れる!」
どのぐらい待ったのか分からないほど時間が過ぎた頃には、ネタのつきた子供たちのおしゃべりはほぼ止まってしまっていた。そこでちょうど観覧車の車両のひとつが降りてきてくれた。ミジュマルは大はしゃぎで、「足元に気をつけてね〜」と軽く注意を促すエモンガの案内係の言葉を聞かず、乗りこもうとするが、先に並んでいるツタージャとジャノビーがささっと車両に入った。
「わーん、いちばんのりしたかったのに」
「順番だもん!」
悔しがるミジュマルに、ツタージャはべえっと舌を出した。
四人乗り観覧車に皆が乗ると、観覧車の扉が閉まり、ごとんと鈍い音と揺れを伴いながら観覧車はゆっくり動きだした。
「わー、動いた!」
さっそくミジュマルがはしゃぎながら窓ガラスに大きな鼻を押しつけて外を見た。
「うわー、遊園地がちっちゃくなってく!」
ゆっくり動く観覧車から見える景色。地上に並ぶ大きな遊具がだんだん小さくなり、遊んでいる客たちの姿も豆粒ほどの大きさになっていく。ミジュマルとツタージャは鼻をガラスにくっつけてそれを眺めた。
観覧車はゆっくり周っていく。この観覧車は一周するのにおよそ十分かかるが、子供たちを飽きさせるのには十分な時間と言えた。
「早く降りないかなー」
ミジュマルは席に座って、短い足をぶらぶらさせた。先ほどまでのはしゃぎぶりが嘘のようだ。
「なんか、おトイレいきたいの……」
ツタージャも大人しく座って、全身を震わせている。
「ジュースの飲みすぎだろ。今、観覧車が降りてるから、待ってろよ。ほら、地上がだいぶ近くなったろう?」
ジャノビーの言う通り、彼らの乗っている観覧車は、ゆっくりと地上へ近づいていた。
「おトイレえ」
「我慢しろってば、もう! ジュースを飲み過ぎるなってあれほど言ったのにお前がきかないからだろ!」
「うー」
草兄妹の言いあいの最中も、観覧車はゆっくりと周った。そして、ガコンという鈍い音と震動と共に、車両が地上に固定された。
「にーちゃん」
ミジュマルが、フタチマルを見上げる。退屈で船を漕いでいたフタチマルは、呼ばれて鼻ちょうちんを破裂させた。
「へ、ふえ?」
「ついたよ、早く降りよう!」
「えー、やっと着いたの?」
フタチマルはねぼけまなこをこすり、座席から立ち上がる。係員のエモンガがドアを開けてくれた。
「足元に気をつけてね〜。おつかれさまでした〜」
言い終わるより先にツタージャが飛びおり、一目散に駆けだした。その後を慌ててジャノビーが追った。
「おトイレー」
「待てええええ!」
その背中を見送りつつ、ミジュマルとフタチマルも車両から降りる。ちょうど、父ダイケンキがのっしのっしと歩み寄ってきた。
「観覧車、楽しかったか?」
「うん」
ミジュマルは頷いた。フタチマルは大あくびをした。
「ねえ!」
ミジュマルはいきなり父の背中に乗った。その小さな水色の体をわずかに震わせながら。
「……おトイレつれてって」