みんなの秋
「ふわあああああ」
退屈そうに、エネコは大あくびした。空き地の古タイヤに肘をついて、傷物の果物をかじりながら、スリープが問うた。
「なんだい、こんな真昼間から眠いのかい」
「うん。最近どれだけ眠っても、眠り足りないの」
エネコは尻尾で耳の後ろをかいた。
「春眠暁を覚えずとは言うけどさ、秋で昼寝をしたがるなんてあまり聞かんねえ。むしろ食べたり運動したりしたくなると思うんだが」
「いいじゃないの。睡眠の秋」
エネコは大きく背伸びをした。そして、積み上げられたタイヤの一番上に載って、寝転んだ。風は冷たくなってきていたが、日差しは暖かく、それなりに気温もあった。
「おやすみい」
すぐに、エネコは夢の世界に旅立った。
「こっちは食欲の秋だねえ」
果物をかじりながら、スリープは日差しを浴びた。暖かな日差しは、気持ちのよいものだ。同時にスリープの食欲も増してくる。
「さて、もうひとかじり」
秋は色々ある。スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋……。秋になると待ってましたとばかりに人間は色々なことに挑戦するのだが、それはポケモンたちも同じ。そして食欲の秋。実りの季節であるだけに、店に届く果物や野菜を楽しみにしている。
「今年は何だろうね。栗もきのこも大好きだけど、たまには違うのがイチオシだといいな」
公園で、ジグザグマは、上から舞い降りてくる葉を、ふっと息を吹いて払った。
「そりゃそうだけど、焼いたり煮たりするだけで同じ素材なのに全然別の料理に化けちゃうじゃん。そこを楽しみにしろよ」
ポチエナは後ろ足で耳の後ろをかいた。どんな食材が出回ろうが、生で食べるよりも調理されたものの方を好むのは、定食屋でおこぼれをもらっているせいだろう。
「同じ栗でもさ、焼き栗とかモンブランとか色々あるぜ?」
「まあ、そうなんだけどね」
ジグザグマは身を震わせた。
「ちょっと冷えるね、風が」
「もう秋だしね」
そこへ、ガーディが散歩に来た。
「やあ、こんにちは。今年のイチオシ食品は、柿だってさ」
「へー、干し柿用?」
「ううん。普通に食べるの。ここ数年で一番の出来なんだってさ」
「へー、柿はあんまり好きじゃないけど、イチオシってなら食べに行ってみようか」
「うん。お店に柿のお菓子のコーナー出来てるよ」
「お菓子? じゃ、さっそく行こう」
早速、甘いもの好きのジグザグマは駆け出した。ポチエナとガーディはヤレヤレと呆れながらもその後を追った。
商店街に着くと、大勢の人々が行きかっている。特に大型店舗にはいつも以上の客が出入りしている。ジグザグマはデパートには目もくれず、商店街の外れまで走る。外れにある小さな和菓子の店にたどりつく。客はそんなにたくさんはいない。いつものことだ。
店の主人である老女に柿の菓子をもらう。甘く、ちょっとしつこいが、ジグザグマはこの味が大好きだった。
「やっぱり、スポーツの秋だよな!」
町の外れにある廃工場。ポケモンたちの小さな遊園地として残されたその工場では、連日たくさんのポケモンが遊んでいる。
「今年もいろいろやるぞーっ」
コンベアを動かしたり、リフトをいじったりと、電気ポケモンの力を借りて色々なことに挑戦している。いつもやっていることではあるが、秋になるとそれが激しくなる。放電のし過ぎによる部品のショートはもはや当たり前。修理する方法が分からないので、ゴミ捨て場にあるビニール紐を拾ってきて落ちた部品を縛り付けておくなど、応急処置しかできない。そのたびに、月に一度無償で点検に来てくれる、工場の元作業員たちを呆れさせている。
それでも、毎年懲りないで、部品を最低でも十個は壊し続けているのである。スポーツの秋という理由で。
「今年はどこを改造しようか?」
「ベルトコンベアの逆回し!」
「えー、あそこ改造しちゃったらリフトに乗れなくなるじゃん。滑り落ちるのがすきなのに」
「乗るために一生懸命ダッシュして勢いつけて乗るってやり方できるよ」
「そうか。そういう方法もあるか。疲れちゃうけど」
「そうと決まったら、改造改造!」
修理を眺めているので工場の機械の構造はだいたい把握できているポケモンが多い。そのため、改造も一時間あれば何とか成る。そして、リフトに飛び乗るために逆回転ベルトコンベアの上を必死で走るポケモンたち。
いい運動になりそうだった。半日後にベルトコンベアが壊れるまでは。
秋。それは、イベントの季節。
町に住むポケモンたちのイベントは、まだまだこれから続くのである。