菜の花畑



 あたりが暖かくなると、菜の花が咲き始める。
 ポケモン渓谷では、谷に近い平原で菜の花が咲き乱れ、菜の花畑が出来ていた。
 キマワリとライチュウが、菜の花を摘みにやってきた。水にさらして食べると美味いのだ。
「わあーっ、いっぱい咲いてるね!」
 ライチュウは、花畑を見て、思わず声を上げる。キマワリは、ぐるっと頭を回して、菜の花がどれだけたくさん咲いているかを数える。
「去年より多いネ」
「どの菜の花が美味しいかな」
「これなんか良さそうヨ」
 キマワリが指したのは、菜の花の中でも特に綺麗な花をつけているもの。ライチュウは尾を振り振り、菜の花の匂いを嗅いでみる。
「いいにおい。花も大きいし、いいんじゃないかな」
 ライチュウはその菜の花を手折る。
 菜の花畑の向こうから、バタフリーとアゲハントが飛んでくるのが見える。
「やあ」
 バタフリーは、ライチュウとキマワリを見つけて、声をかける。
「何をしているの」
「菜の花摘み。そろそろ水さらしすると美味しい時期だもの」
「そうなの。でもこの辺はそろそろ食べごろだと思うよ。美味しい蜜は取った後だから、とっても構わないよ」
 アゲハントは綺麗な羽根を羽ばたかせ、バタフリーと一緒に、またどこかへ飛び去った。
 ライチュウとキマワリは、菜の花の香りを嗅いだ。
「いいにおいだね」
「このへんの菜の花、よさそうヨ」
 暖かな日差しの下で、菜の花をいくつも手折る。両手に抱えきれないくらい手折っても、まだ菜の花畑は続いていた。
「じゃ、近くの川で、菜の花を水さらししよう」
 菜の花畑を少し下ったところに、細い小川がある。石をいくつか集めて小さなダムを作り、その中に菜の花を浸すと、さらさら流れる小川の水で、菜の花は静かに水面を流れ、石でせき止められた即席ダムにぶつかった。
「半日くらい経ったら、見にこよう。できてたら、皆を呼んで食べようよ」
「そうネ」
 そこへ、小川を下って、ミニリュウがやってきた。
「やあ、何しているの」
「菜の花を水さらししてるの。後で食べるから」
「ふーん」
 ミニリュウは、川の一部をせき止めて作ったダムを見る。そのダムの中に、たくさんの菜の花が水につかっているのが見える。
「美味しいの? 菜の花食べたことないんだけど」
「美味しいよ。水さらししないと灰汁がとれないけどね。たださらすだけじゃ美味しくないから、岩塩を少し削って一緒に食べたりとかするけど」
「僕も食べて良い?」
「いいよ。でも、半日くらいしたら、一緒に食べよう。今は灰汁を抜かないと苦いから」
「はーい」
 ミニリュウは下流へと下っていった。
 一方、ライチュウとキマワリは、一時間ほどかけて川の上流へ登っていた。近くの山の尾根に、真っ白な大きい岩石がある。実は、これは岩塩なのだ。しかし、山は険しいため、登ることは難しい。転落の危険性もある。
「おーい」
 ライチュウが山に向かって叫ぶと、上からエアームドが二羽、降りてきた。夫婦である。
「あら、なあにライチュウ」
「こんにちは。この山の尾根の岩塩、少し削ってきてもらえませんか?」
「菜の花食べるからネ」
 キマワリは首をぐるっと回した。エアームドの夫婦は快く引き受けてくれ、五分ほど経つと、腕の中に抱えるほど大きな岩塩のかけらを持ってきてくれた。
「ありがとー」
 エアームドの夫婦に礼を言った後、ライチュウとキマワリは岩塩を細かく砕いて粉にし、近くのクラボの木の葉をちぎってそれに塩を包んだ。
「あとは色んな木の実を採って、皆を呼んで、日暮れくらいに菜の花を食べようよ」
「そうネ」
 二匹は、塩を包んだクラボの葉を腕に抱え、木の実の森のほうへ歩いていった。

 日が落ちる頃、ライチュウとキマワリに誘ってもらったポケモン渓谷の面々は、腕にいっぱいの木の実を抱えて、川へと向かっていた。この時期、菜の花を食べるのが毎年の行事なのだから。
 菜の花をさらしているダムのそばに、ミニリュウに誘われてきたらしい水ポケモンたちがいる。ダムの中に、ライチュウとキマワリがとった以上の菜の花が浸されている。どうやら、陸に上がれる水タイプのポケモンがまたたくさん菜の花を取ってきたようだ。菜の花を食べる仲間には、ミュウと子ミュウも加わっている。
 菜の花を水から出し、しぼって水気を切る。塩をまぶしてよく揉む。十分もしないうちに完成。
「いただきまーす」
 ミュウと子ミュウの起こすサイコキネシス・ショーを見ながら、ポケモンたちは塩もみした菜の花と、採ってきた木の実を食べる。水から上がれないポケモンたちは、他のポケモンに食べさせてもらった。
 月が出て、辺りは明るい月の光に照らされる。バルビートとイルミーゼの出す蛍の光により、辺りはより一層明るくなった。
 菜の花パーティーで盛り上がったポケモンたちの笑い声が、渓谷にこだましていた。