縄張り争い



 公園は町の中央にある。その公園から、東と西、北と南。四つに大きく分けて、町に住むポケモンたちの縄張りが存在する。
 公園は共同で使うという取り決めがあるため、異なる縄張りのポケモン同士が公園にいても争いは何も起きない。しかし、公園を出て、他の縄張りへ入ってしまうと、たちまち縄張りへの侵入者として攻撃され、たたき出される。縄張りを広げるために、他の縄張りへ攻撃を仕掛ける事もある。傷ついたポケモンたちがポケモンセンターに運ばれることすらあるその縄張り争いの凄まじさは、他の町のポケモンたちにも、鳥ポケモンを通じてよく知られていた。
 他の町からやってくるポケモンが泊まる宿として、まず公園があげられる。この縄張り争いの激しい町の中、もっとも平和な場所はこの公園しかないのだ。しかし、平和と言っても和やかに談笑したりするわけではない。攻撃はしないが、始終警戒している。それでも、攻撃されないだけ随分マシなのだ。

「よう、来たぜ。今日こそ決着つけてやらあ」
 町の東側の縄張りのボス・マニューラは、腕を組んで、自信たっぷりに言った。後ろにはニューラやニャースが大勢控えている。
「はん。そのセリフ、何度も聞いたぜ」
 町の北側の縄張りのボス・ヘルガーは唸り声を上げる。その後ろにはポチエナやデルビルが大勢控えている。
「おっと待ちな! 俺も貴様らとはいい加減に決着つけたいと思ってたとこだ」
 町の南側の縄張りのボス・ハッサムがはさみを振りながら、廃ビルの陰から姿を現す。その後ろにはストライクやニドランが大勢控えている。
「お前ら、アタイの縄張りに、勝手に入るんじゃないよ!」
 町の西側の縄張りのボス・ブニャットがズンズンと巨体を動かしながら、どこからともなく現れる。その後ろには、ニャルマーやペルシアンが大勢控えている。
 四軍は、にらみ合った。火花が飛び散るほどすさまじい敵意を込めて。
 ポッポが空を羽ばたく音が聞こえると同時に、それぞれの縄張りのボスは突撃を命じた。
『かかれっ』
 今日も、縄張り争いが始まった。

 一時間後、ポケモンセンターに、裏道での戦いで傷ついたポケモンたちが一斉に運び込まれた。ちょうど体力回復のために立ち寄っているトレーナーはいない。ラッキーとハピナスは手分けして、看護婦ジョーイの指示に従いつつ、てきぱきと手当をした。
 手当されているポケモンの中に、それぞれの縄張りのリーダーはいない。

「くうっ、腕を上げたな」
 メタルクローで引き裂かれた鉄骨を見て、ハッサムはマニューラに言う。マニューラはニヤリと笑い、爪をとぐジェスチャーをする。
「へん。当然だ」
 ブニャットはヘルガーをその巨体で押しつぶしていたが、ヘルガーは怯まず噛み付き返して何とか逃れる。
「へっ、脂肪だらけじゃねえか。お前の攻撃なんぞ脂肪で削がれてるぜ」
「その脂肪がアタイを守ってくれんだよ。スリムなのが必ずしもいいわけじゃないんだ」
 互いに互い、にらみ合う。手下達がポケモンセンターに運ばれても、ボス同士の戦いはまだ続くのだ。全員が同時に倒れない限りは。
「行くぞ!」
 縄張りのボスは、相手の三体のボスに向かっていった。縄張りを守るため、あるいは縄張りを広げて勢力を拡大するために。

 夕方になるころ、ポケモンセンターにそれぞれの縄張りのボスが担ぎこまれた。もうこのポケモンセンターの常連客となってしまった四つの縄張りのボスたちは、治療室に運び込まれながらも、相手を倒そうとして弱弱しくもがいていた。
 今回は特に怪我がひどく、しかも空いている部屋がなかったものだから、皆、同室の寝台に寝かされる事になった。喧嘩しちゃいけません、とラッキーに言われても、敵同士なのだから、隙あらば倒してやろうという気が満々。ラッキーが退室して五分もしないうちに、怪我した体に鞭打って争い始め、結局はラッキー軍団の歌で無理やり寝かされる羽目になってしまった。
 が、夢の中でも、相手と戦い続けていた。

 ボスたちは、退院後、手下達に迎えられた。嫌と言うほど怪我をしてきたボスたちは、自分の体の調子をよく理解できており、ポケモンセンターをでて当分は争いが出来ない事を知っていた。
「当分は休戦だ」
 四つの縄張りに、同じ命令が下った。