おねしょの原因



「うう、まだ寒いでチュ」
 ピチューはぶるっと身を震わせながら木陰で用を足した。このまま巣穴で眠りなおしてしまったらまたしてもおねしょしてしまうからだ。やっと最近になって、一人で用を足す事が出来るようになったのだから、また怒られるのは嫌だ。
「さっぱりしたでチュ」
 ピチューはすっきりした表情。手を洗おうと思ったが、川の水はサラサラ流れていてもとても冷たい。てをつけようかどうか迷ったが洗うことにした。
「つ、冷たいでチュ!」
 水につけてすぐに手を上げた。パッパと手をふるって水気を払い落とす。
「は、早く寝るでチュ。寒くて仕方ないでチュ」
 急いで巣穴に戻る。兄弟たちはぐうぐうと眠っている。温かな巣穴の藁にもぐりこみ、ピチューは眠りについた。
「あったか〜い」
 あっというまに夢の世界にいざなわれていった。

 翌朝。
「わああああん! またおもらししちゃったあああ」
 ピチューは起きるや否や、泣き出してしまった。昨夜トイレに行ったはずなのに、巣穴の藁はぬれていたのだ。
 兄弟たちは、「またか」と言いたそうな表情。末っ子のピチューがおねしょをやっと卒業できたと思ったのに、まだ卒業しきれていないようだったから。
「今度こそおもらし卒業できたと思ったのにいいいいい!」

 ピチューは今夜もトイレを済ませた。
「こ、今度こそおもらし卒業でチュ! 今夜こそ卒業でチュ! あああ、気持ちいいでチュう」
 スッキリした後、川で手を洗い、パッパと水気をふるって巣穴に戻る。そして自分の藁の中へともぐりこんで、夢の世界へと旅に出た。
(もうおねしょは卒業でチュ〜)

 翌朝。
 巣穴の藁がまたしてもぬれていた。
「何で? 何で、どうしてでチュ? ちゃんとおしっこしてるのに!」
 ピチューはわんわん泣いた。兄弟たちは顔を見合わせた後、言った。
「そんなら今夜おきて見張ってみるよ。そしたら、いつおねしょしたかわかるし」
「えっ、ホント?」
 泣いていたピチューの顔が、パッと晴れた。

 というわけで、兄弟たちの協力も得て、ピチューは自分がいつおねしょをしたのか突き止めることにした。いつもどおりにトイレを済ませ、手を洗い、寝床に着く。ピチューの兄弟たちは眠い目をこすりながらも、互いの耳を引っ張り合って何とか起きている。
「むにゃむにゃ」
 末っ子ピチューは眠りに着いた。
 しばらくすると、末っ子は寝返りを打つ。まだ十分に乾いていない手が藁を掴む。すると、つかまれた藁が湿った。ピチューはその後も、夢の世界で冒険でもしているのか、頻繁に藁をいじった。藁はどんどん湿っていく。これでは朝になっても乾かない。
「ああなるほど」
 兄弟たちは納得した。

 翌日。兄弟たちから、自分のおねしょの原因を聞いたピチューは、
「じゃあ、これからはもう、おトイレした後手を洗わないことにするでチュ」
「いや、それはキタナイから、ちゃんと洗ってよ」
「でも洗うと藁がぬれるんでチュ」
「完全に乾かせばいいじゃん。葉っぱで拭くとかさ」
「でもこの時期、葉っぱはまだほとんどないんでチュ。かといって冷たい風にさらすと手が冷たくなりすぎて嫌なんでチュ」
 しばらく考える。そのうち、兄弟の一人が思いついた。
「こうすればいいんじゃない?」

「なるほど、これなら手も乾かせて便利でチュ」
 トイレを済ませて手を洗った末っ子ピチューは、スベスベの木にぬれた手をゴシゴシこすり付けていた。ちょっと痛いが、樹皮が水気を吸い取ってくれている。手についた木のくずはパンパンと手をはたけばすぐに取れてしまうので、後は帰って寝るだけ。
 いつもどおり巣穴に戻り、藁の中にもぐりこむ。
「おやすみなさ〜い」
 ピチューは眠りに着いた。
 明日こそ、藁が乾いていることを祈りながら。