大雨の日
「あーあ、暴風雨かあ」
ガーディはつまらなそうに大あくびした。
「朝も早くからこのお天気かあ。ついてない。公園に行こうと思ったのになあ」
いつもの日課である散歩は、今日は中止だ。仕方がない。ガーディは炎ポケモン、多少の雨ならば平気だが、暴風雨となると話は別だ。
「雨って嫌だなあ。濡れるし、じめじめするし、体力を消耗しちゃうし」
ごろん、と座布団の上に寝転がりなおした。
「ふあああ、少し寝ようかな」
ガーディはそのまま目を閉じて寝息を立て始めた。
外で稲光が光り、ゴロゴロと雷鳴も聞こえてくる。だがガーディはおかまいなしにぐうぐうと眠っていたのだった。
激しい雷。ピチューは落雷の直撃を受け、吹っ飛ばされた。自分の頬袋で受け止めきれない分の電気がパリパリと全身を包んでしまう。
「あうー、きいたあ」
ピチューは目を回していた。
「こんなときじゃないと充電できないとはいえ、きびしー。でっかいのが落ちてくるとは思わなかったなあ」
おきあがり、あまった分の電気を放電する。パリパリと微弱な電流が周りを走った。頭がしっかり働くまでしばらく待つ。それから、
「もう雷はいいや。充電は終わったし、これ以上雷にうたれないうちに、早く帰ろっと」
が、そのピチューにもう一発、雷が落ちたのだった。
「うわーん!」
毛の薄汚れたイーブイは、激しく降り注いでくる土砂降りの雨に、体を打たせているところだ。なぜそんなことをしているのかと言うと、シャワーを浴びているつもりなのだ。公園に水道はあるが蛇口をひねるのが面倒なのと、必要な量の水が出てきてくれないのとで(飲むには困らないのだが)、大雨が降ったらこれをシャワーの代わりにして、体を洗っていると言うわけ。
「あー、すごい大雨! でもこれくらいがちょうどいいなあ」
目をろくに開けていられないほどの大粒の雨がひっきりなしに降り注いでくる。だがイーブイにはちょうどいいくらいの雨量だ。ずぶぬれの毛皮についたよごれが、雨で流されて行く。
「あとは、風さえなければ」
イーブイは、後ろから吹きつけてきた強風にあおられ、水たまりの中に頭から突っ込んだ。起き上がって体をぶるぶるとふるわせる。だが、いくら泥をはねとばしても、雨がどんどん毛皮をぬらして泥を洗い流していくので、意味がない。
「だいぶきれいになったし、もうそろそろ引き上げようかな。風邪ひくと困るし……」
いきなりの稲光と、直後に激しい雷鳴。イーブイは思わず飛び上がった。
「うわ、今のはでっかかったぞ。落ちたかな、どっかに。いやいや絶対おちてるだろ、光った直後にあんなでっかい音があったんだしさ……」
「やばいネー、下水の増水がハンパじゃないねー」
ちっとも危機感の無い声で、ヤブクロンは下水を見つめる。いつもの倍以上の水位で、激しい流れとなっている。ゴクリンもベトベターも、それを見つめている。
「落ちたら、おぼれちまうな、こりゃあ」
「でも、雨やんだら勝手に水はひくダナ」
「今日いちんち雨がふってりゃあ、水なんか勝手にひかないぜ」
何やら話をしている時に、遠くから「たすけてえええええ」とか細い声がした。
「ほれ、ゴックン。いってこいや」
ゴクリンの突起をつかんだヤブクロンは、ゴクリンを下水の水流すれすれまでおろす。何かが下水で流されてきた。ゴクリンはそれをすいあげる。下水と一緒に吸い上げたのは、エネコだった。エネコはしっぽをゴクリンにくわえられ、助けられた。
「あ、ありがと……」
エネコは体を振るって汚い下水を跳ね飛ばした。そのしっぽの先には赤いボールをつかんでいる。また下水に落してしまったのを採りに行こうとして、下水に落ちてしまったようだ。
「いいっていいって。おれらもここからちょっとはなれるつもりだったしさ、お前、運が良かったなあ」
ベトベターはそう言って、排水溝の傍に作られた土管の奥へともぐっていった。ゴクリンとヤブクロンもそれに続く。エネコはとりのこされたが、とりあえず外に出ることにした。土管には入らず、そのまままっすぐいくと、階段がある。作業用に使われていたものだ。その階段を上ると、もう地上。
「あーあ、下水のにおいでくっさーい。どこかに石鹸でも落ちてないものかしら」
エネコは雨の中、飛び出していった。
「えー、まだ雨降ってんのか……」
目が覚めたばかりのガーディは、窓の外の景色を見て、ぶつぶつ文句を言った。時計はもう夕方なのに、まだ雨は止んでくれない。それどころかますます激しく雨が降ってきているようにも感じられる。雷も頻繁になっている。
「風は止んでいるみたいだけど、でもこの雨、一体いつになったらやむんだろうな。空も暗いし、当分は無理なのかなあ。せめて明日の朝……」
ガーディは背伸びをして、立ち上がった。
「おなかすいたなあ」
大あくびを一つして、ガーディは台所へ向かった。
(明日の朝には、晴れてほしいなあ)