残暑と水泳
「毎日暑いでチュ」
末っ子ピチューは、冷えた木の実ジュースを飲みながらつぶやいた。そろそろ、ポケモン渓谷へ秋が訪れる頃なのだが、今年は残暑が長い。冷たく冷えたジュースは手放せない。毎日ジュースを飲んでもまだ喉が渇くような気がしている。もちろん、ママの言いつけを守って、寝る前には何も飲まないようにしている。だが、日中ジュースと水ばかり飲んでいるので、結果は想像に難くない。またしても、おねしょの毎日だった。
「うーん、今日も飲みすぎたでチュ」
眠る前にピチューはいつも通りトイレを済ませる。ジュースの飲みすぎで、今日は時間がかかった。
「木の実も入らなくなっちゃったでチュ。さすがに飲みすぎでチュね。そのぶん、トイレは念を入れておかないとまたおねしょしちゃいまチュ」
ピチューはトイレを済ませて小川で手を洗うと、さっさと巣穴に戻って藁の中へもぐりこんだ。
「むにゃむにゃ」
夢の中、ジュースの洪水に押し流される夢を見ていた。
「うーん、ジュース、ジュースがあああ……」
テッカニンが朝も早くから鳴き出す。太陽の光がポケモン渓谷を照らし始める時、末っ子ピチューは目を覚ました。
「あっ……」
馴染んだ、しかしおさらばしたはずの感触が、足元にあった。
藁が、ぐっしょり濡れていたのだった。
「やっぱり飲みすぎたんでチュ。一滴も水を飲まなければおねしょはしないけど、そんなの耐えられないでチュ」
木陰ですずみながら、ピチューはぶつぶつつぶやいた。
「やっぱりジュースを飲む回数を減らすしかないかもしれないでチュ……」
言った矢先、喉が渇いてきた。風がないので、じっとしていると汗がダラダラ流れてくる。ピチューは近くのツボツボにジュースを分けてもらい、葉っぱを編んで作られた間に合わせのコップで飲んだ。あまみがあって、それでいてしつこくなく、さっぱりしておいしい。何杯でも飲みたくなる。だが今日は一杯だけで止めることにした。昨日は十杯も飲んでしまって、木の実を食べられなくなった上におねしょしてしまったから。
「暑いなら、水浴びすればいいんでチュ!」
葉っぱのコップを放り出し、ピチューは川に飛び込んだ。
その日の夜は風がないために蒸し暑く、寝苦しかった。兄弟たちが寝静まった後、末っ子ピチューはこっそり起きだして、トイレに向かった。また寝る前に水を飲んでしまったからだ。
蒸し暑い。巣穴にいても外にいても、何にも変わらない。
「やっぱり眠れないでチュ。暑いでチュ……」
トイレを済ませ、それから手を洗う。気温がまだあまり下がらない上に、風もほとんどない。ピチューはしばらく、サラサラと流れる静かな小川を見つめた。少しぬるい川の水……。明るい満月の光が、川面を照らしている。何と涼しげな川なのだろうか。
思いついた!
「ひと泳ぎでチューッ」
ピチューは勢いよく川に飛び込んで水浴びを始めた。
しばらく遊んでいると、辺りに風が吹いてきた。ピチューはさすがに体が冷えてきた。昼の暑さが抜けきらないぬるめの水とはいえ、水につかって泳いでいれば体は冷えてくる。
「そろそろ冷えてくるでチュ。もうくたびれちゃったし、帰るでチュ」
水から上がり、葉っぱで体を丁寧に拭いてから巣穴に戻って眠りについた。
それが何日か続き、夜間の気温も少しずつ下がり始めたが、それでも水浴びをやめなかった。暑いと思ったら遠慮なく川に飛び込み、冷たくなってきた水を存分に浴び続けた。
「涼しくなってきたでチュ。でもまだ少し暑いし、もうちょっと浴びるでチュ」
その結果、
「はーっくしょん!」
とうとう、末っ子ピチューは風邪をひいてしまった。
ヤンヤンマとメガヤンマの飛び交う、ポケモン渓谷に秋が訪れてきたからだった。
「……もう、川で遊ぶの、やめるでチュ」
ピチューは洟を葉っぱでかんだ後、藁の中へと潜り込んだ。