土地探険



「寒いのは嫌だけど、長いおしゃべりにつきあわされるのもなあ」
 寒がり屋のブースターは、岩盤に寝転がってため息をついた。
 ポケモン渓谷は冬の真っ盛り。しかし寒がりなこのブースターは越冬のために、皆が木の実をたらふく食べて冬に備えている間に、渓谷から火山帯へ出掛けたのだ。今は温泉のわくこの温かい土地で日々岩盤浴を楽しんでいるが、岩盤浴の常連でおしゃべりの長いコータスに見つからないよう、時間帯を選んでいる。話の長い相手に見つかると延々と長話をされて、まさかブースターの性格からして居眠りもできず、気を使うばかりのくつろげない岩盤浴になってしまうからだ。

「あの若いブースター、最近見ないのお」
 ある日、岩盤浴をしているコータスの群れの中で、特に歳を取ったのがぽそりと呟いた。
「いろいろな話につきおうてくれるから、重宝しておったんじゃがなあ」
「そりゃ爺さんが毎日長話をするからさ、飽きられちゃったんじゃないの」
 応えたのは、隣で岩盤浴をする年若いコータスである。その年老いたコータスは鼻の穴からブハッと黒い煙を吐き出し、憤慨した様子。
「長話とは失敬にもほどがある! よいかな、話をきちんと聞くと言う姿勢こそが重要であり――」
 長々と話し始める老コータスに、若コータスはフウと小さな白い煙を鼻の穴から吹いた。
「そんなふうに、長々話してるから飽きられてもしょうがないじゃん。どんなに真面目に聞いてたってね、毎回毎回おんなじ話聞かされるこっちの身にもなれよな、退屈極まりない」
「退屈とはなんじゃ! これだから最近の若いのは――」
「あーあ。また始まったよ、じいさんの長話」
 老コータスがくどくど説教を始めた一方、若コータスはあくびを一つした。

 火山帯とはいえ、季節は冬なのだから気温の低い日は多い。しかし気温の上がる昼ごろになると、コータスの群れが現れ、岩盤浴をしにくる。遠くからでもわかるほど大勢のときもあれば、ほんの数体しか来ない時もある。その様子を、離れた木陰からブースターは観察していた。今回、コータスは大勢で岩盤浴をしに来ている。
「フムフム。この時間だとまだコータスたちが陣取ってるな。あとどのぐらい岩盤浴してるかな」
 コータスの群れが岩盤浴を止めたのは夕方近くであった。そのころにはブースターはすっかり待ちくたびれて、木陰にうずまって居眠りをしていたが、いたずら者のヤヤコマに小石を頭の上に落とされ、目をさました。
「あっ、いつのまに寝ちゃったんだろ……」
 ブースターは慌てて起き上がった。周りを見ると、岩盤浴をしていたコータスたちはとっくの昔にこの場所を去っていた。
「もう夕方だもんね。おなかもすくから帰っちゃったんだ」
 そして自分の腹もグウと鳴ったので、ブースターは引き上げることにした。それに、夕方になってから岩盤浴をしてもちっとも体は温まらない。太陽が昇って気温の高い時にやってこそ、岩盤浴は気持ちがいいのだ。
「また明日来てみよう」

 あいにく、翌日は雨だった。このあたり一帯は主に炎タイプのポケモンが生息しているので、自身に影響を与える雨のときは、よほどのことがない限り巣穴から出てこない。当然、誰も岩盤浴なんてしに来ない。
「今日はハズレの日だなー」
 巣穴から、絶え間なく降ってくる雨を見つめるブースター。自身も炎タイプであるから、当然巣穴から出ることはない。まあ、巣穴と言っても、既に別の土地へ引っ越したジグザグマの残した穴を使わせてもらっているだけなのだが。
 蓄えているオレンの実をかじりながら、ブースターはふと思った。
「そういや、この谷に来たのは数回ぐらいしかないけど、他に岩盤浴とか日光浴とかできる場所ってないのかな」
 元々、この土地に来ているのは越冬のためだ。だから、温かな場所さえあればそれで満足だった。しかし今は、この土地に対してもっと興味がわいてきたのだ。この土地がどのぐらい広いのかも知らないし、岩盤よくできる場所はほかにもあるかもしれない。もしかしたら土地のポケモンすら気づかなかった、秘密の場所もあるかもしれないではないか。
 そう考えると好奇心がムクムクと首をもたげてくる。
「よーし、明日探しに行ってみよう!」

 さて、一夜あけた今日は昨日の雨などどこへやら、朝から綺麗な青空が広がっている。一方で、ポケモン渓谷の方はいまだ厚い雪雲が空を陣取っているので、おそらくまた雪が降っているだろう。氷タイプのポケモンや冬期活動のできるポケモンを除けば、皆は冬眠の真っ最中。春が来るのはもっと先の話だ。
 ブースターはオレンの実を食べて腹を満たしてから、背伸びをした。今日はひとりで岩盤浴のできるところを探しに出かける予定なのだ。いつもの場所ではコータスたちに陣取られてしまうので、ひとりでのんびりできる場所が欲しかった。この土地は火山帯のために温泉がわくし、地熱で暖められた場所も多いのでブースターにとって過ごしやすい場所だが、たいていの「良い場所」はこの地域に昔から住むポケモンたちが陣取っている。よそ者の自分が彼らの縄張りに侵入しすぎるのは良くないので、ブースターは自分ひとりで心おきなく越冬ライフを楽しめる場所を探すのだ。さらに、これまではこの寝床と岩盤浴のできる岩場と火山帯麓の温泉ぐらいしかこの土地を知らないので、もっと色々な所を知りたくなったのだ。
「さーて、行くぞ!」
 ブースターは勢いよく巣穴から飛び出し、駆けだした。