午前のうたたね
「くわああ」
思わず欠伸が出た。
美味いビーフの朝食を終えて、ガーディは朝も早くから眠気を感じていた。ここのところ、どれだけ寝ても寝足りない。散歩の後、食後、夜、いつだって眠い。
「お昼まで、ちょっと寝ようかな」
いつもの縁側に寝転び、すぐに寝息を立てた。
が、その眠りは、十分も経たないうちに妨げられた。
近所で、町の区画に縄張りを持つボスたちが、手下を引き連れて大規模な縄張り争いを起こした。その喧しさで眼が覚めたのだ。
「んもう、うるさいな」
規模の大きい争いなので、見物に出かけるポケモンはそんなにいない。巻き込まれるからだ。仮に出かけるとしても、廃ビルや裏通りに面した建物の屋上から見下ろすくらい。ガーディも一度見に行ったことがあるが、ボスたちの攻撃に巻き込まれそうになって、仲間と急いで逃げ出した記憶しかない。十分も見ていなかった。
「あいつらも好きだな、縄張り争い」
互いに技をぶつけ合い、叫び声や怒鳴り声でギャーギャーうるさい。室内から聞こえるテレビの音の方がよほど静かだ。運の悪い事に、ガーディの飼われている家は裏通りに面した場所にある。つまり、ガーディは嫌でも縄張り争いの騒音を耳にしなければならないのだ。
耳で聞いてみると、どうやら北地区の連中が東区の連中におされているようだ。ボスの勝ち誇ったような声が聞こえ、手下どもの攻撃がよりいっそう激しいものになる。劣勢の北地区の連中は必死で防戦している。そのまま三十分ほど経つと、北地区の連中はボスに従って撤退。それでも東区の連中にかなりの打撃を与え、実質上は引き分けとなった。
静かになったので、ガーディはまたうとうとし始めた。今度は何の邪魔も入って欲しくないなあ。
が、その願いはかなわなかった。いつも聞こえるスクラップ収集車の心地いい音楽の中に、南地区の連中の手下どもの声が混じっていたからだ。どうやら、二つの地区が縄張り争いによって勢力を殺がれたのをスパイしに来たようだ。また来たのかとガーディは片目を開けた。何匹かのニドランがちょろちょろしている。争いの跡を見つけると、うん、と頷いて、どこかへ去っていった。今度は南側の地区の連中が来るのだろう。また縄張り争いがおきそうな気がするなあ。
「くわああ。何で寝かせてくれないんだよう」
ガーディは欠伸を繰り返した。
目を閉じてどのくらい経ったのか。かすかだが、南区の連中が少しずつこの近くへ現れる足音が聞こえてきた。やがて、見張りに来たらしい東区の連中と鉢合わせして、まずは小さな争いが始まった。その小さな争いは、やがて東区の連中の増援によって、次第に大きな争いへと発展を始めた。
ああ、こりゃきっと南区の連中が勝つな。うとうとしながらガーディは思った。
目を閉じてさらに時間は経った。別地区同士の争いはまたしても大きくなり始めた。消耗した東区の連中はおされ、南区の連中が優勢になった時、南区の連中は、ボスの一喝で引き上げた。どうやらボスに命じられていないのに勝手な行動をしたのがバレたらしかった。
「ああ、終わったんだな」
ガーディはこれで眠れると安心しながら、ゆっくりと眠りについた。今度は、何の騒音も聞こえてこなかった。
目の前に、野菜の山がある。野菜はあまり好きではないし、今は食べたくない。そう思っていると、野菜の山が消えた。次に現れたのは果物の山。しかし、好きな果物も今はあまり食べたい気分ではない。そう思っていると、またしても、果物の山は消えた。今度は何が出てくるのかと待ち受けたが、今度は何も出てこなかった。肉の一かけらでも出てこないものかと思って、じっと待っていると、そのうち、周りが暗くなり始めた……。
「ごはんよー」
ガーディはその声で目を覚ました。
もう昼。自分の腹が、ぐうぐうと鳴っている。
「あ、もうお昼なんだ!」
起き上がって伸びをすると、飼い主に向かって駆けていった。
大好物のコーンビーフの山が、皿に盛られていた。