散歩
毎朝の日課。寝床から起き出した後は、眠気覚ましのために散歩をする。くわああ、と大きな欠伸を一つして、大きく伸びをした後、ガーディは庭から外へ出た。
早朝だが、巣へ帰るヤミカラスたちが、空を飛んでいくのが見える。あと数時間もすれば、今日はゴミ出しの日なのだから、ゴミ捨て場に群がってくるだろう。あるいはポケモンセンターに餌をねだりに行くだろう。
ガーディは商店街を通る。朝早いので、見かける人間はわずか。ランニング中だったり、ポケモンセンターから早朝トレーニングにでるトレーナーだったり、帰っていく牛乳配達人だったり、新聞配達人だったり。
商店街の外れに小さな定食屋がある。早くも、いいにおいが漂ってきた。下ごしらえの最中らしい。この定食屋は、朝の軽食も出すからだ。七時を過ぎる頃には開店するだろう。
くんくんと、店内から流れてくる匂いをかいで、ガーディは舌なめずりをした。
「そうか、今日の軽食は、トーストとコーンスープ、それとお茶だな。あとはこの塩の匂いからすると、ゆで卵をつけてだすんだろうな。後で何か貰いに行こうかな」
嗅覚の優れたガーディなのだ、その匂いをかいでメニューを間違えたことなどない。飼われているガーディだが、愛嬌があり、この商店街いちの人気者。しっぽをふって近づけば大概の人間は、何かおすそ分けしてくれる。自分で食べることもあるが、大抵、公園や裏通りのポケモンたちに持って行ってやることの方が多い。
さて、公園に着く。公園の遊具を寝床代わりにするポケモンたちは、何匹か起きて、公園の水道水で顔を洗っている。ガーディを見つけると、そろって声をかける。
「やあ、おはよう。今日も早いね」
最初に声をかけたのはゴニョニョ。声をかけているが、ぼそぼそと喋っているので、聞き取りにくいことが多い。
ガーディは耳の裏を掻いた後、流れ落ちてくる水道水を飲む。
「今日は、暑くなりそうだね。ここ数日、こんな天気なんだもの」
時期は既に五月の終盤。雨天が多くなり、雨が降っていなくても空は曇りがち。そして、なによりも蒸し暑い。
「今日は晴れているけど、この空気の湿っぽさと匂いからして、午後には曇ると思うよ」
「しめりけ、だいすきい」
ガーディのとなりで、水道水をぐびぐびと飲むゴクリン。全身が胃袋で出来ているようなポケモンなので、当然のことながら食欲も半端ではない。しかしながら何故か人間の食べる食料はあまり好まず、ポケモンフードの方を好んで食べる。そのためポケモンセンターの近くにある側溝の中に住んでいる。おかげでいつもどぶ臭いため、ポケモンたちはゴクリンと一緒にいるときは風上に立つか、ゴクリンの体を洗わせてどぶ臭さを落とさせている。
「ところで」
ポチエナが耳の後ろをポリポリかきながら聞く。
「今日の定食は? 味噌汁出る?」
「味噌汁はでないよ。コーンスープが出るけど」
「あ、オレ好きなんだ。スープん中にはいってる、サイコロみたいなカリカリしたやつ」
舌なめずりをする。このポチエナに好き嫌いなどないようだ。
ポチエナが物ほしそうに尻尾を振るのを後にして、ガーディは公園から出て行った。
公園を通り過ぎて、裏通りに着く。少しゴミのにおいがするが、ここで寝泊りしているポケモンもいるのだ。
「おはよー」
体をふるって伸びをし、ピチューはガーディに声をかけた。ガーディは尻尾を振って挨拶を返す。
「おはよう」
「ねえ、今日も湿っぽいよね」
「うん。これから暑くなりそうだよ。だから公園で水浴びしてきなよ。冷たくて気持ちいいよ」
「うん」
ピチューはよちよちと走っていった。水浴びの後はポケモンセンターや八百屋にいって、売れない野菜やポケモンフードを貰うのだろう。
ガーディは裏通りを抜けて、また商店街へ出る。先の定食屋で、ポチエナが店員から欲しいものをもらって満悦の笑みを浮かべながら食べているのを見た。定食屋の残り物をよく貰っているポチエナは、定食屋の裏のお得意さんなのだ。おかげで定食屋では生ゴミを捨てる量が減らせている。
ガーディは、美味しそうに食べているポチエナの邪魔をするのも悪いと思い、少し遠回りして家に戻った。そろそろ朝ごはんを食べたくなったのだ。
「おかえりなさい」
「ガウ!」
家の中に、ガーディの好物であるビーフの匂いが満ち溢れた。