木の夢
ケーシィは、いつもどおり、気に入りの木にもたれかかって眠っていた。一日の睡眠時間が十八時間あるいはそれ以上。ケーシィは、木の実を食べる以外はほとんど寝ていると言ってよい。いつも寝てばかりいる。
ある、うららかな春の日の午後。
ケーシィは気に入りの木にもたれかかり、すぐに目を閉じた。もともと閉じているのか開いているのか分からぬ目だが。木の実をたらふく腹に入れた後なので、すぐに眠気がやってくる。そして、ケーシィは眠りについた。
「むにゃむにゃ」
不思議な微風が、木々の枝葉をなでる。サワサワと柔らかな音がする。
微風は、そっとケーシィの頬をなでた。
ケーシィの目の前に、苗木がある。とてもか弱く、今にも折れそうな苗木だ。ケーシィはその木にどこか見覚えがあるように感じた。小さな苗木だが、それでいて、これから何とか生きていこうとする小さな鼓動を感じ取れる。
「何だろう?」
細い目を開け、ケーシィは苗木に触れる。苗木は微風もないのに、細い枝葉をワサワサ揺らした。
次にこの苗木が、ケーシィよりも頭一つ分背の高い木に変わる。まだ木というには小さすぎるが、それでも、先ほどの苗木よりは大きい。
「いつのまに成長したんだろう?」
まだ枝は細くて頼りないが、それでも根を一生懸命に張り巡らせている。何度か風雨にさらされていたらしく、木の幹には少し傷がついている。ケーシィはまた幹に触れてみた。鼓動が伝わってくるが、先ほどの苗木よりは力強い。しかしまだまだ弱い。
さらにこの木がもう一回り大きく変わる。ケーシィの数倍以上もの背丈にまで伸びている。
「でっかくなったなあ」
ケーシィは呟いた。この木に、どこか見覚えがあった。幹に触れると、かなり力強い鼓動が感じ取れる。台風でもあったのか、枝の何本かが折れているのが見える。しかし幹はしっかりと立っていた。もう十分、誰かの支えが無くても生きていける木だった。
最後に、もう一回り大きくなった木が、ケーシィの目の前に現れる。立派な大木に成長している。力強くそびえたっている木。
そして、月日が過ぎたうららかな春の午後、丘の上に立っている木。そしてその根元で眠っているのは――
眼が覚めた。
微風が、ケーシィをなでる。
もう夕暮れだ。丘の向こうへ夕日が傾き、ゆっくりと沈んでいくのが見える。丘が赤く染まり、眩しく輝く夕日が目をくらませる。
ケーシィは、今までもたれかかっていた木を振り返る。何十年もかかってここまで大きく伸びてきた木。どんな苦難にあっても耐え抜いてきた木。いつもいい昼寝の場所だったのでもたれかかって眠っていた。
「あ、そうか。あの夢の中の木は――」
微風が吹いてきて木の枝葉をなでた。大木の枝葉は優しく揺れて、葉を散らしている。ケーシィは、ゆっくりと首を上げ、枝から葉を優しく落とす木を見つめた。
大木は微風に応えるように、優しく枝をゆすり続けた。
微風の音が、まるで過去を懐かしんで笑っているように聞こえたのは、ケーシィだけのようだった。