ヤドンな一日



 ヤドンがどれだけのんびりとしたポケモンかは、皆、承知の通り。ナマケロ以上にぼけっとした顔つきは、何を考えているのかさっぱり分からない。一日中岩の上に寝そべって、滅多な事では動かない。まぬけポケモンと呼ばれるヤドンであるが、きちんとレベルアップすれば強力な技を身につけ、戦力として役に立つ。だが、普段はおそろしく呑気なポケモンなのである。

 ヤドンの朝。
 朝日が昇ると同時に、ヤドンは目を覚ます。水辺から少し離れた所にある、乾燥した岩場が、ヤドンの住まいである。雨の日はその側にある洞窟の中で過ごしている。
 眼が覚めると、ヤドンはまず水辺にむかって、のんびりのんびりと歩いていく。普通に歩けば十秒足らずでたどり着けるのに、ヤドンは一分かけて水辺に行く。そして、のんびりと川の中へ入り、水を浴びる。浴びるといっても、ただ川の中に浸かっているだけで、傍から見れば、人間がちょうど温泉を肩まで浸かって堪能するような感じである。
 水浴びが終わると、これまたのっそりのっそりと岩場の上に戻り、ごろんと寝転がる。そして、大きくため息をついた後、空を眺める。雲が流れ、太陽が南へ昇るころには、ヤドンの体はすっかり乾いている。

 ヤドンの昼。
 太陽が真南へ昇りきると、じっとして動かなかったヤドンがようやく動きを見せる。仰向けになっていた体をひっくり返して、今度はうつぶせになる。そして、また大きなため息をついた後、今度は草原を眺める。太陽が西に傾いて、そよかぜがヤドンの頬を優しくなでて通り過ぎる頃には、ヤドンはうつらうつらしている。
 時折、他のポケモンたちが水辺へ遊びにきた声が聞こえる。この暑さなのだ、水棲ポケモン以外の、水を弱点としないポケモンたちは、涼みにやってくる。皆、ヤドンには構わず、水に入り、水遊びを楽しんでいく。冷たい水を跳ね上げるバシャバシャという音が聞こえ、続いて水をかけられたポケモンたちの嬉しそうな悲鳴が上がる。そしてかけられた側は水をかけ返す。その応酬が長いこと続いて、涼んだポケモンたちは、水辺から上がって体から水気を払い落とし、そのまま帰っていく。ヤドンは岩の上に寝そべったまま、半分眠っているような状態で、長い尻尾をのんびりと動かしながら、帰って行くポケモンたちを見送っていた。

 ヤドンの夜。
 夕日が沈み、空に宵闇のカーテンがおろされて、月がのんびりと昇る。ヤドンは岩の上からやっと身を起こして、のそのそと水の中へ顔を突っ込み、ごくごくと水を飲む。まるで、今日一日の水分を補給しているかのように。長いこと水を飲んでいたが、やがて顔を上げ、ぬれた顔のまま、ねぐらである近くの洞穴まで、これまたのんびりのんびりと歩く。苔の生えた洞穴の中へ、のんびりと歩いていき、ごろんと寝転がる。
 月が夜空を明るく照らして、星が光を放って空を彩る。その頃には、ヤドンのまぶたは閉じられ、静かな寝息が洞穴にこだましているのだった。

「嗚呼、スローライフ……」
 そんな寝言が、ヤドンの口から漏れた。