雪遊び



 冬が訪れ、雪が降る。
 わずか数日で、ポケモン渓谷は銀世界となった。
 冬眠しているポケモンたちのうち、何割かが目を覚まし、この銀世界を見た。
「わああ、きれいだなあ」
 木の洞の中から、ライチュウは出てきた。たてかけてある鉄の板をどかした時、真っ先に目に入ったのが、この銀世界である。
「きれいだあ」
 つられて、他のポケモンたちも、それぞれの巣穴から姿を現した。そして、銀色の世界に足跡をつけてまわる。やがて、ポケモンたちは冷たい雪をすくって丸め、雪玉を作った。冷たくて柔らかい雪だが、固めると、固くなる。食べると味がないが、腹が冷える。雪玉は、固いが、ぶつけると、あっというまに元の柔らかな雪に戻った。
 最初は雪玉を転がしていただけだったが、ポケモンたちはそれでは飽きたらず、誰かが叫んだ。
「よーし、ぶつけっこだあ」
 雪合戦を始めるポケモンたち。前足で雪を固め、丸めて雪玉を作る。前足がなければ、触手や羽を動かして雪を飛ばす。ポケモンたちの笑い声と、冷たい雪をぶつけられて驚いた声が、渓谷に響いた。

 昼が過ぎ、気温の上昇により雪は少しずつ柔らかくなってくる。ポケモンたちは溶けかけの雪を集め、今度は大きな雪の山を作り上げた。固く固めた後、水鉄砲で所々を溶かし、新しく雪をくっつける。
「できた」
 ライチュウが歓声を上げる。ポケモンたちが作り上げたのは、一体の、ミュウの雪像であった。
「わあ、ボクそっくりだあ」
 ミュウがくすくす笑った。子ミュウもつられて笑う。ポケモンたちはミュウの雪像の次に、ピカチュウ、プリン、ビリリダマの雪像を作った。ミュウや他のエスパーポケモンたちは、雪玉を念力で動かし、くっつける。炎ポケモンの技では雪を溶かしすぎてしまうため、水ポケモンたちが水鉄砲や泡で雪を溶かしていった。そして雪の溶けた箇所にまた雪をくっつけていく。寒さを忘れ、皆、雪像作りに熱中していた。
 一時間ほどたった。
「できたああ」
 ポケモンたちの歓声が響き渡った。
 ポケモンたちの周りには、渓谷のポケモンたちが、それぞれ雪像となって立っていたのである。
 ポケモン渓谷の、ポケモン雪像が完成した。

 昨日よりも暖かな翌朝、ポケモンたちは昨日の雪像がどうなったかと、外に出てきた。だが、雪像はほとんど溶けてしまっていた。
「今日はあったかいからね、仕方ないよ……」
 ミュウが残念そうに尻尾を振る。ポケモンたちもつられるように、しょんぼりとした顔になる。
 ミュウは空を見る。青空が広がって、太陽が優しく照っている。だが、山の方からは黒い雲が見えていた。
「でも、明日なら、また雪が降るかもしれないよ。また明日、雪が降ったら作り直そうよ」
 ミュウの言葉にポケモンたちは皆納得し、また雪遊びをした。雪合戦、坂滑り、雪だるま作り。楽しい時間は、あっというまに過ぎていった。雪は溶けかけて柔らかくなっていたが、昨日にくらべて雪玉を作りやすく、固めやすくなっていた。そのぶん、溶けるのも早かったが。
 夕方ごろ、空はどんよりとした雲で覆われた。その頃には、ポケモンたちは遊びつかれて、めいめいの巣に帰っていた。後には、たくさんのポケモンの雪像や雪玉が残されていた。
 その夜は、吹雪が訪れた。

 翌朝。昨日よりも数倍寒くなっていたが、雪はやんでいた。ポケモンたちは雪を見るために外に出てきたが、今回は、雪がコチコチになっているので驚いた。昨日の雪玉や雪だるまは、冷たく凍っていた上に、吹雪をかぶって原形をとどめていなかった。
「昨日の吹雪はすごかったからね。でもまた遊べるよ」
 今日はミュウのサイコキネシス・ショーが開かれた。凍りついた雪を持ち上げ、様々な形に固めなおし、ばらばらにして粉雪のように撒き散らす。太陽の光を受けてきらきらと輝きながら落ちてくる雪を見て、ポケモンたちは歓声を上げた。太陽は優しく地上を照らし、徐々に気温が上がってくる。最後にミュウが最大級のサイコキネシスで雪を巻き上げ、巨大なカビゴンの昼寝の雪像を作り上げ、ショーはフィナーレとなった。
「これから先、雪はまだまだ降るよ。まだ冬のさなかだからね。でも、時々は遊べると思う。降りっぱなしというわけじゃないからね。じゃ、今日はもう寝ようね」

 渓谷のポケモンたちは、眠りについた。次に眼が覚めるのがいつなのかは、まだ彼らは知る由もない。
 その夜、作られた巨大なカビゴンの雪像は、にっこりと微笑んだように見えた。この真っ白な美しい銀世界を眺めるのを楽しんでいるかのように。

 ポケモン渓谷に、やがて、粉雪が降り始めた。