作った雪だるま



「寒いでチュ」
 末っ子ピチューは、寒い風に吹かれながら、寝る前のトイレを終えた。
「あー、気持ちいいでチュ。あっ、おしっこしたところから湯気が立ってるでチュ!」
 さらさら流れる小川にさっと両手を浸し、その冷たさに全身を震わせて、すぐ手をあげる。そして木の皮で手を拭いてかわかした後、先ほどトイレを済ませた場所へヨチヨチ歩く。
「あ、もう湯気がなくなったでチュ。おしっこってすぐ冷えちゃうのでチュ……」
 冷たい風が一層強く吹いてきたので、ブルッと身を震わせた末っ子ピチューは、巣穴に戻った。兄弟たちはもう眠っている。末っ子ピチューは、よく揉まれた藁の中に身をうずめ、すぐに眠りについた。温かな藁はすぐ末っ子ピチューを夢の世界へと連れて行ってくれた。

 冬が訪れると、ポケモン渓谷に雪が降り始める。ほかの場所で越冬するポケモンたちは秋の間に渓谷を出る。渓谷のほとんどのポケモンは冬眠に入り、起きる事はあまりなくなる。氷ポケモンは氷の洞窟を出て自由気ままに歩きまわり、つかの間の散歩を楽しむ。冬眠しているポケモンたちは、たまに目覚めてはすぐ眠るが、外が晴れている時は雪遊びを楽しむ。
 ピチュー兄弟は、皆、よく晴れたある日、目を覚ました。最初は寒さで身を震わせるが、子供は風の子とよく言ったもので、すぐ皆そろって巣穴を飛び出した。目的はもちろんたった一つ、雪遊びである。
「あ、その前に、おしっこ」
 兄弟たちは、そろって、凍った川の傍でトイレをする。眠っている間に溜まった、放物線を描く黄色い液体は、雪にかかると、その場所を溶かしていく。
「おしっことばしでチュ!」
 兄弟たちは末っ子の提案に賛成した。一番よく飛んだのは長男ピチューであった。どうやら結構我慢していた模様。
「わー、面白いでチュ!」
 末っ子ピチューは思わずはしゃぐ。
「でも、おしっこはあったかいのに、おちんちん、冷たいでチュ……」
「寒いんだもん、しかたないじゃん」
 川の水にちょっとだけ手を浸し、その冷たさに飛び上がる。ぱっぱと手をはたいて水気を簡単におとしたあと、ピチューたちは雪だるまを作り始める。ぶさいくなピチューの雪だるまが五つできたが、彼らはその出来に満足した模様。木の枝や小石をつかって、腕や目や鼻などのパーツをくっつけていく。やはりぶさいくなままだが、やはり彼らはその出来に満足した様子だ。彼らにとってはゆきだるまの出来の良しあしよりは、作ること自体に意義があるのだ。
「雪合戦しよー!」
 雪だるまをつくるのをやめたピチューたちは、にぎりこぶしほどの雪玉を作り、たがいにぶつけ始めたのだった。
 夕方ごろ、くたくたになるまで遊び疲れたピチュー兄弟は、巣穴に帰って、木の実をほおばり、そのまま藁の中へもぐりこみ、すぐにぐうぐう寝息を立て始めた。

 その夜はおそろしくふぶいていた。散歩するユキメノコは、激しく吹き付ける猛吹雪に一度か二度飛ばされてしまいそうになった。
「いやですわねえ、この吹雪。きゃっ」
 身を切り裂いていくような暴風。だが、風がどんなに冷たかろうと、氷ポケモンにとってはただの強風だ。
「今日は早く帰った方がよさそうですわね。飛ばされてしまいますわ。あらま」
 ネイティの群れが風に飛ばされて、ユキメノコの目の前を横切っていった。
「まあ、こんな吹雪の中をお散歩だなんて、とっても無茶なことですわね。こんな大吹雪、氷ポケモンでなければ耐えられませんことよ」
 ユキメノコはのんびりと歩いていく。
「あら、こんなところに変なものが」
 それは昼間ピチュー兄弟がつくった雪だるまだった。だが、あいにく猛吹雪にさらされて、余計な雪をかぶってしまい、原形をとどめていない。
「一体何かしら? 雪だるまかしらん? でも、形が分からないのでは、直しようがありませんわねえ」
 ユキメノコはそう言って、吹雪の中、散歩を再開した。

 翌朝、吹雪が止んできれいな青空が広がった。
「あーっ、ゆきだるま、なくなったでチュ!」
 末っ子ピチューは、昨夜の猛吹雪によって、作った雪だるまがただの雪の塊となってしまったのをみて、悲痛な声をあげた。
「せっかく作ったのに、ひどいでチュ!」
「しょうがないよ」
 長男ピチューが仕方なさそうに言った。
「昨日はすっごい吹雪だったしさ、ゆきだるまがうずもれちゃったんだよ、きっと」
「またつくろうよ」
 三男ピチューの提案に、皆は賛成した。
 昨日と同じく、雪だるまを作っていく。だが今度は、簡単に吹雪にうずもれぬよう、彼らの倍の背丈を持つ(それでも一メートルに満たないが)三段重ねの雪だるまをつくりあげた。
「これならきっと大丈夫でチュ!」
 末っ子ピチューは満足した。
 のっぽのピチューの雪だるまが、夜間に降った大雪のためにただの小さな雪山と化して、末っ子ピチューを大泣きさせる未来は、他の兄弟には予想がついていた。

「うわああああん! ゆきだるまがああああああ!」