グレイシアの憂鬱ふたたび



「またこの季節がやってきたのね」
 グレイシアは、自分の作りあげた氷のかまくらの中で、ため息をついた。
「暑い夏。もう、いい加減にしてほしいわ。いっそ、引っ越そうかな。工場の冷凍室なんてよさそうね。でもつまみだされちゃいそうだわ」
 氷ポケモンには辛い、暑い夏が、今年も到来する。
「そりゃ春夏秋冬があるんだから、夏は毎年訪れて当たり前だわね。やっぱり引っ越した方がいいかしら」
 とはいえ、どこへ引っ越せばいいのか、グレイシアにはわからない。
「今年の梅雨はそんなに蒸し暑くなかったけど、反動で夏は暑くなりそうね」
 またしてもため息が出てきた。

「あー、気持ちいい」
 グレイシアは、かまくらの中に寝そべりながら、自分の周囲に氷の塊を侍らせる。一方で、
「おいしー」
「冷たいねー」
 ほかのポケモンたちは、グレイシアの作った氷の塊をジュースで溶かしながら、即席かき氷をつくって食べている。
「麦茶の水割りいー」
「ただ薄めただけじゃーん」
「だから水割りなんだよー」
 きゃっきゃとさわぐポケモンたち。グレイシアは、頼まれる度に、氷の塊を一つ作った。そしてその都度、自分にも作った。自分の傍に侍らせるためだ。
「この暑さだもの。朝から氷を作っておかないと、もたないわ……」
 かまくらを作る時も、氷をなるべく分厚くしている。それでも、太陽が昇って時間が経つと気温が上がり、少しずつ、かまくらの氷が溶けてくるのだ。完全にかまくらが溶けてしまうのは夕方を過ぎたころで、そのころには夜用のかまくらをつくりあげている。そして、朝が来れば、とても分厚い氷でまたかまくらを作る。その繰り返し。
 グレイシアは、何度か噴水遊びにも参加した事がある。だが、結局、氷のかまくらほど涼しくなることはできなかったので、そのうち止めてしまった。代わりに、噴水の中に氷を混ぜ込んで、冷たいシャワーを降らせた。当然その氷水は、普通の水より遥かに冷たいわけなので、浴びたポケモンたちはその冷たさに最初は驚きつつも、すぐに楽しみ始めた。
 梅雨は明け、連日の気温は軽く三十度を越える日々が続く。グレイシアは日中ずっとかまくらに閉じこもって、ほとんど動かない。これが、九月ごろまで毎日続くのだ。
「あーあ。早く、秋になってくれないかしら。それにしても、こんなに暑くてだるいのに、どうしてあんなに元気いっぱいに走っていられるのかしら?」
 かまくらの外を走り回るポケモンたち。なぜあれだけ暑い中を平然と走り回っていられるのだろうかと、グレイシアは首をかしげるばかり。
 そして、夏はまだ始まったばかりだ。