死神の憂鬱



 死者の世界にて。
 膨大な数の魂をこの世界に放してしばし休息をとらせ、《死神の血》は身を震わせながらも住居に戻った。
「お帰りなさいませ、マスター」
 住居から、どくろ形の使い魔スカールが飛んできて彼を出迎える。
「こわかった……」
「如何なさいました?!」
 スカールの尋問が開始されるも、《死神の血》は話したくなかった。
 彼が魂を大量に集めた場所は、戦場だった。激しい銃撃戦、突入する兵士の足元で爆発する対人地雷、戦車を大爆発に巻き込んだ戦車用地雷。兵士、生物、微生物、あらゆる魂が《死神の血》の元へ一斉に飛んできた。
 死神である以上、役目は果たさねばならない。凍てつく寒さを誇る雪山から海底まであらゆる場所へ行った。肉眼ではとらえられぬほどのサイズの微生物や病原菌から、人間まで、あらゆる魂をあらゆる場所で回収し、死者の世界へ連れていくのが死神の役目なのだが――何度行っても慣れないのが、戦場。
 ばらばらに飛び散る人間の体や凶弾を受けて倒れる人間。最初に戦場で見たその光景があまりにも衝撃的過ぎて、《死神の血》はショックで気絶、次には泣きだしてしまったほどだ。今まで殺人とは無縁の場所で暮らしてきた彼にとって、このようなおぞましい光景は、出来れば二度と目にしたくないものであった。
 だが、死神である以上、行きたくないと我がままは言えない。
「いや、ちょっと休めば治るから……」
《死神の血》は、よろよろした足取りで、寝台に座る。スカールは見回りのために住居の外へ飛び出していった。こんなとき異常なまでに口やかましい使い魔がいない方が、とても助かる。
 ほんのわずかにその身が震えている。
「駄目だ……慣れない……」
 屠られる家畜や埋葬されるペットなど、見ていて胸が痛む場面は非常に多い。数えきれない死をこの目で見た結果《死神の血》は精神を病んだが、身にまとうローブの力が、彼が眠っている間に、それを『癒して』しまった。死神としての務めを果たす異常、心を病まれては困るのだろう。もちろん《死神の血》はローブの力が己にはたらきかけていることなど、全く知らない。
 それでも《死神の血》は、死を迎えた肉体から魂を切り放し、死者の世界で休息を取らせるために、地上へ迎えに行かねばならない。その死に際の姿が、目を覆いたくなるような、おぞましいものであろうとも。彼は未だに慣れる事が出来ない。
 ……。
 ひとやすみしてから大理石のテーブルの上に料理を呼び出す。食欲が不十分なままだが、それでも霊力を摂取するために食べなければならない。仕方なしに食べていると、使い魔が飛びこんできて話を始める。
「マスター、お食事中失礼いたしますが――」
 そら始まった。スカールの得意技、長話。
「なに?」
 心ここに在らずといった顔で《死神の血》は返事をするが、使い魔はおかまいなしに喋り始めた。
 スカールの長話をBGMに食べる料理は――味が無かった。