対話



「手合わせ出来る時を楽しみにしていたぞ、ガリークラン」
 ユトランド・カップにて、優勝候補として目されていたホップクロフトを倒したガリークランの前に現れた最後のクラン・ガードナー。バウエン一家同様、賞金稼ぎとして、少しずつその名前を知られ始めたクランだ。東国出身のヒュムの剣士をリーダーとして結成されたクランで、メンバーはいずれも腕利き揃いだ。当然、リーダーはいわずもがな。
「最近頭角を現してきた賞金稼ぎのクランとは、奴らの事か」
 シドは、リーダーの後ろに控えるメンバーを見る。シークのレンジャー。バンガのマスターモンク。ヴィエラのアサシン。モーグリの銃使い。ン・モゥの白魔道士。そしてリーダーはヒュムの用心棒。刀を二本帯にさしている。
「クランの精鋭たちだろうな、あいつら。さぞかし腕がたつんだろう」
「でも優勝できたら賞金とアクセサリがもらえるんでしょ。絶対勝たなくちゃ!」
 アデルは気合を入れ、ほどけかけたリボンをさっと結びなおした。
「がんばるクポ!」
 ハーディは最後のエンゲージということで気分を奮い立たせるべく、自慢の楽器を取り出す。
「……」
 フリメルダは何か気になる事があるらしく、リーダーを見ている。だが口には出していない。
 ガードナーのリーダーはルッソを見て、言った。
「我らは相手が誰であろうが手加減はせぬ。貴殿らのような強豪クランが相手ならば尚の事」
「望むところだ!」
 ルッソは、連戦の疲れなどどこへやら。元気いっぱいにリーダーに向かって言った。リーダーはそれに満足したようであった。
 エンゲージ開始の合図。
「参る!」
 リーダーは刀を片方だけ抜いた。

 強い。
 ガリークランは思った。ガードナーは賞金稼ぎだけあって、戦闘能力も高いが、何よりチームプレイが上手い。さらに皆リーダーの腕を信頼しきっており、前線に立つリーダーを必ず誰かがサポートしている。逆にリーダーがクランのメンバーを手助けする事も多い。一方でガリークランは、多くのエンゲージをこなしてきた実力が十分反映されている。ルッソ、シド、フリメルダが主戦力であり、すばしっこいアデルと詩えるハーディはサポート役。
「ホントにこいつら強いよ……! さっき戦ったホップクロフトがずっと弱く感じる」
「仕方ねえだろう、それくらい、奴らの腕がすごいってことさ!」
 観客は手に汗をにぎって戦いを見守っていた。
 エンゲージ終了の合図が会場に響いたのは、開始から十五分経過した時。最後まで残っていたガードナーのリーダーが、同じく最後まで残っていたフリメルダの剣術に敗北したのだった。
 優勝は、ガリークラン。

 表彰式が終わった後。ルッソたちは町でめいめい楽しむべく自由行動。その時、フリメルダはガードナーのリーダーを見つけて呼び止めた。リーダーは、彼女が何を言いたいか察したようで、先にクランのメンバーを帰す。
「あの――」
 フリメルダに最後まで言わせず、リーダーは、帯にさしている刀のうち、決して抜かなかった方の刀を帯から抜いた。
「この刀について、貴女はお尋ねになりたいのでは?」
「そうです……」
「この刀は、私がある方からお預かりしたもの。振るうにふさわしい腕になったならば抜いてもよいと、あの方はそう仰った……。貴女はその方についてよくご存じのはず」
「ええ。そしてあなたの太刀筋はあの人に似ていました。お弟子さんだったのですか?」
「私はあの方に弟子入りしていないし、あの方は弟子など欲しておられなかった。……私の太刀筋が似ているのは、あの方の影響に過ぎない。何度か手合わせしたが、あの方には一度も勝てなかった。いつも軽くあしらわれてばかりだった」
「でもあなたはあの人と同じくらい強い方でした」
 リーダーは首を横に振り、刀を帯にさしなおして、フリメルダを見る。
「あのデルガンチュア遺跡での戦い、拝見させていただいた。貴女は本当に素晴らしい、剣聖と呼ばれるにふさわしい方だ。そしてトーナメントで貴女と刃を交えたことで、あの方が己の命を賭した理由がよくわかった」
 フリメルダの顔に驚きがあらわれる。
 リーダーは背中を向けた。
「……申し訳ないが、そろそろお暇させていただく。あまり長く皆を待たせると、皆が私の身を案じるので」
「はい……御引き留めしてごめんなさい」
 リーダーはそのまま歩きだしたが、数歩ほどで立ち止まる。
「ああそうだ。信じていただけないかもしれないが、私たちは十三年後の未来から来た」
「未来から……?!」
「この時代にも私はいるが、まだ二十歳にも満たぬ小僧っ子。齢十五、六の少年だ」
 リーダーは振り返っていたずらめいた笑みを浮かべた。
「もし興味がおありならば、捜されては如何かな」
 フリメルダは呑み込み切れていない様子だが、未来から来た男は、彼女にまた背を向けた。
「またどこかで、お会いできるかもしれん。私のいる時代でも、剣聖フリメルダの名前はユトランドに知れ渡っているのだから。剣聖の名を私に奪われぬよう、精進されよ」
「はい。未来でまたお会いしましょう」
 フリメルダの声を背に受けて、リーダーは歩いて行った。

「リーダー、もう終わったクポ?」
 モーラベルラの町はずれにある小高い丘。ガードナーの時魔道士モーグリが、リーダーを見つけて声をかける。他の皆も一緒だ。
「何もかも終わった。もう帰ろう。私たちが本来いるべき時代にな」
「わかったクポ。とにかく昔の自分の不真面目さに腹が立って仕方無かったから、あの時みたいにぶん殴って更生させてきたクポ! 気が済んだクポ」
「それはよかったな」
 大きな使い捨ての魔法陣に、皆は乗る。一度使えば魔法陣が自動的に消えてしまう不思議な古代の魔術。一度でいいからやってみたかったらしく、時魔道士のモーグリはこの研究に余念がなかった。
「まさか時間を越えるための魔法がまだ残されていたなんてねえ」
「でも、過去の自分には会えなかったなあ」
「会いたくないわよ、あんな黒歴史の自分には! リーダーのおかげでアタシは立ち直れたのに――」
「トーナメントに出るために色々クエスト受けてたけど、いつの時代もクエストの中身って似てるんだね」
 時魔道士のモーグリは術の詠唱を開始する。魔法陣は光を放つ。
(ふたつとない経験をさせていただいた。やはりあの方が言っておられた通り、そして噂にたがわぬ腕を持つ剣聖フリメルダ。直接刃を交えてよくわかった……)
 リーダーは微笑んでいた。そして、帯にさした刀の一本に触れる。
(それでも、私にとって越えるべき存在であり続けるのは、貴方一人だけです……)
 魔法陣がひときわ眩しい光を放って、乗っていた皆は光の中へと消えた。
 十三年後の未来へ向かって、ガードナーは旅立った。