双子のおねだり



『おにいちゃーん、お菓子作って!』
 スロートの双子・エクゥとルゥは、ジャガイモの皮をむいているジャックに、キラキラ輝いた目でおねだりをした。
「いいですけど、これ終わるまで待って下さいよ」
『うん、いいよー』
 夕食用のジャガイモを全て剥き終わり、水につける。それからジャックは、あまった材料がないかを確認した。
「スイートポテトなら作れますけど?」
『うん、それでいいよ!』
 双子の返事を受け、ジャックはさっそく菓子づくりにとりかかった。

 スロートの双子は、ジャックの作る菓子が大好きだ。彼が買い物に行く際には必ずついてきて露店の菓子をねだるのだが、彼が買い物に出かけないときは、彼に菓子を作ってもらっている。ジャックは料理が嫌いではないので、作れと言われれば作る。なぜか普通の料理よりも菓子作りの方が得意なのだから……。
 あまった材料を用いて、ジャックは手際よくスイートポテトを作る。このサーカスにスカウトされる前は包丁など握った事もなかったはずなのに、今ではすっかりサーカス専属のシェフになってしまっている。毎日指に怪我をしながら料理を続けていれば、いずれはサーカスの誰よりも上手くなる。それは当り前の事であった。菓子作りもおなじこと。双子のために色々作っていたら、いつのまにか双子専属のパティシエになってしまったのだ。
「できましたよ」
『わーい! ありがとー!』
 双子は大喜びでおやつにかぶりついた。
 ジャックは、双子がおやつに夢中になっている間に、夕食の支度にとりかかった。公演までにあと三時間しかない。それまでにこなすべき仕事はまだまだあるのだ。舞台装置の確認、ビラまき、器具の準備、などなど……。
(肉団子入りの野菜スープと、固パンでいいな)
 スープは火にかけておけば勝手に出来上がる。ジャックは大きい鍋に野菜と肉団子を放り込み、塩と胡椒で味をつけて弱火にかけた。
「さあ、公演の準備だ!」
 そのままジャックはテントを飛び出した。

 公演が終わり、観客は帰っていく。ジャックは後片付けを開始する。
『おにーちゃーん』
 ごみを集めていたところで、双子が舞台衣装のまま、ジャックに話しかけてきた。ジャックはまだピエロの衣装のままだったが、とりあえず応えた。
「はい?」
『おなかすいた! なんか作って!』
 育ち盛りの双子なのだ、ショーの後はすぐ空腹を訴えてくる。
「じゃ、掃除が終わるまで、待っててください」
『はーい』
 双子は大人しく待った。ごみを集めて捨ててから、ジャックは双子に声をかける。
「じゃ、テントに行きましょ」
『はーい!』
 双子はテントに向かって駆けていった。やれやれとジャックは歩いてその後を追った。食堂のテントには、ジャックが昼のうちに作ったスープがまだ鍋に残っており、腹を減らしているハッティーがスープをぐいぐい飲んでいる最中だ。だが、双子はスープには目もくれず、ジャックにべつのものをリクエストする。
『おにーちゃん。オムレツつくって!』
「えー、卵は一日一個までって、団長が決めてるでしょう」
『えー』
 双子は同時に不満をあらわにした。
「おにーちゃんケチだよねー」
「ねー」
 エクゥとルゥはそれぞれ言いあった。
「ケチとかそういう問題じゃないんだってば……」
 卵は日持ちしにくいので、あまりたくさん買ってはいけない。団長からそう言われているのだ。
「いーじゃねーか。ちょっとくらいふるまっても」
 スープのおかわりを皿にそそぎながら、ハッティーが言った。
「今日は卵なんて食ったおぼえないしよ。いいじゃん、別に」
 実際はスープに混ぜてあるのだが……。
 ジャックはしばらく頭をかいた。が、
「じゃ、しょうがないな。つくりますかね」
 とうとう折れたのだった。
『やったー!』
 双子は大喜びだ。ハッティーはまた席に座ると、我関せずとばかりにスープに取り組んだ。
 ジャックは卵をわり、ボウルに調味料を入れて混ぜ合わせ、熱したフライパンに溶き卵を流し込んで、焼いた。
「さ、できましたよ」
『ありがと、おにいちゃん!』
 双子は嬉しそうに、オムレツの乗った二つの皿を受け取った。
『いただきまーす!』
 食堂のテントに、オムレツのいい香りが満ち溢れた。