ダイナブレイド



「ひゃー」
 キャンディ山の頂上から、何かが勢いよく降ってきた。ダイナブレイドを追って山を登っていたカービィは、上を見上げた。ピンク玉は、その落下してくるものを見つけた。
 炎に手足をくっつけたような、いかにも熱そうな――
「ひゃああああ!」
 バーニンレオが、突き出た木の枝にひっかかった。枝は揺さぶられ、実りかけのりんごがいくつかカービィの上に落ちてきた。遠慮なくカービィはりんごを口に入れたが、あいにく美味しくはない。
「おおーい、そこにいる奴、誰でも良いからさ、りんご食ってないで助けてくれよおおお」
 ひっかかったバーニンレオは、じたばたしようにも身動き自体が出来ない。それもそのはず。バーニンレオの頭は、メラメラ燃える炎で出来ているのだ。うかつにうごいて木に火がつけば、快晴の続くこの数日、下手をすると山火事になる。
 カービィは大きく息を吸い込んで、ホバリングをはじめた。そして、枝にひっかかったバーニンレオの後ろ側まで飛ぶと、吸い込んでいた空気をポンと吐き出した。空気弾が枝を押し、バーニンレオの体が枝から外れる。枝から地上までは三、四メートルあるが、バーニンレオはくるりと一回転して着地した。
「さんきゅー、あっ。カービィだったのか。遠くてよく見えなかったよ」
 カービィは自分も地上に降り立った。バーニンレオは早口でまくし立て始めた。
「ここらへん危ないぞ。最近妙に凶暴化したでっかいダイナブレイドが飛び回ってるんだぜ? オレさ、ダイナブレイドに餌と間違えられて巣に運ばれそうになったんだ。で、暴れたら火傷したらしくて、オレをあんな上空で放しちまった。ところでお前、この山に散歩にでも来たのか? あぶねーぞー」
 カービィは、なぜダイナブレイドが作物を荒らしているのか突き止めにいくのだと言った。バーニンレオは頭の炎を強く燃やしたり弱く燃やしたりしながら、カービィの話を聞いた。
「へー。お前勇気あんなあ。じゃあ、がんばって行けよ。オレ、帰るから。あんなおっかないとこ行けないよ」

「ギャーッ」
 バーニンレオの悲鳴が、空に響いた。カービィは、両足でバーニンレオの腕を挟みながら、フワフワとホバリングでキャンディ山を登っていた。
「なんでオレまでつきあわせるーっ! オレもう行きたくないよおおお! 食われるのヤだよお!」
 悲鳴は上げたが、あまり暴れない。それもそのはず、かなり高いところを飛んでいる。高度はもう二十メートルを越えた。カービィから落ちてしまったら、一環の終わりだ。
 頂上が近づくにつれて、鳥の鳴き声が耳に入る。ダイナブレイドの鳴き声だ。巣に近づいているのだ。カービィはがんばって羽ばたき、もっと速く上昇する。バーニンレオというある意味でのお荷物さえなければ、もっともっと速く上昇しているのだが……。
 羽ばたきの音が聞こえた。続いて、ビュッと何かが空を横切り、たちまちマシュマロ城付近のブドウ畑に姿を消した。
「あああ、あれがダイナブレイドだぜ? 知ってるだろ?」
 バーニンレオはおびえた声を上げた。しかしカービィは構わず飛び続ける。ダイナブレイドがいない今、頂上へ先にたどり着いてしまえば、なぜダイナブレイドが作物を荒らすのかその原因を調べる事が出来るのだ。
「かあびい〜、もう引き返そうぜー。後生だからさあ〜」
 涙声のバーニンレオの訴えにも耳を貸さず、カービィは更に飛んだ。

 頂上。
「ああ〜、助かったああい」
 やっと解放されたバーニンレオは、むき出しの地面に座り込んだ。草のほとんど生えていないキャンディ山の頂上は、枯れかけの木が何本か見えるほかは、目を引くものは見つからない。
 カービィは周りを見回した。どこに巣があるのだろう。ダイナブレイドがこのキャンディ山の山頂に巣を作るのは知っている。だが、どこにも見当たらないのだ。あれだけ大きな鳥なのだ、きっと巣も大きいだろう。
「あっ、カービィ隠れろっ」
 バーニンレオがカービィを体当たりで突き飛ばし、岩陰に転がり込ませた。
 ギャアアと鳥の鳴き声が聞こえ、ダイナブレイドが姿を見せた。大きい。カービィの体の大きさがダイナブレイドの頭程度しかない。さすがに巨木ウィスピーウッズよりは小さいが。
 ダイナブレイドが、くちばしに何かを挟んでいる。よくよく目を凝らして見ると、大きなブドウの房だ。ダイナブレイドはのしのしと歩き、カービィたちの隠れている岩陰を通り過ぎ、
「ピイピイ」
 いきなり、やかましい声が聞こえた。カービィとバーニンレオは、岩陰からそっと頭を出して、覗いてみた。
「あっ」
 思わず小さく声を上げる。
 木の陰に隠れて見えなかった、大きなくぼみに、枯れ枝をいくつも重ねて作った巣があった。その巣の中に、大きな雛鳥がいたのだ。ダイナブレイドはその雛鳥たちに、持ってきたブドウの房を与えていた。
「そっか……ダイナブレイドは雛のために餌を持ってきてたんだ。だから派手に作物を荒らして――」
 バーニンレオは一人ごちた。カービィはじっと見つめていたが、次第に腹が減ってきた。口からよだれを垂らすのだけはおさえきれなかった。
 ぐううううう。
 辺りに、異様に大きくこだまする、カービィの腹の音。バーニンレオとダイナブレイドが同時にカービィを見た。
「ば、馬鹿っ! 腹鳴らすなよ、この大食漢! 見つかったじゃないかあ」
 ダイナブレイドは翼を大きく広げて威嚇し、雛を守ろうと巣の前に立ちはだかった。ついばまれたら頭に穴が開きそうな大きくて鋭いくちばしが、太陽の光を反射した。カービィは口からたれる涎をぬぐい、ダイナブレイドに言った。
 もっと、たくさんの食べ物がある場所を知ってるよ。

「なるほどねえ。こいつなら、際限なく食べ物落としてくれるな」
 バーニンレオは、雛鳥の巣を押しやって、フウと息を吐いた。ピイピイとやかましく鳴く雛たちは、上から落ちてくるたくさんのりんごを、遠慮なく口の中に入れた。ダイナブレイドが、ウィスピーウッズの枝をゆすって、りんごを落としているのだ。ついでにカービィも雛と一緒になってりんごを食べていた。

 ダイナブレイドの雛たちは、たらふくりんごを食べて、すっかり元気になった。りんごのように赤い夕日にむかって、雛たちは巣から飛び立ち始めた。ダイナブレイドは雛を送り出し、自分も翼を広げたが、カービィとバーニンレオに向かって、ちょっと体を下げた。
「乗っていいの?」
 バーニンレオの問いに、ダイナブレイドは首を下げてうなずいた。そしてカービィとバーニンレオが乗ると、ダイナブレイドは雛鳥を追って飛び立った。まぶしい夕日。一生懸命飛ぶ雛鳥。はるか前方に広がる広大な海。
「いい眺めだよなあ。羽があるって羨ましいな。この雛たちも大きくなったら、もっと優雅に飛べるようになるんだろうなあ」
 バーニンレオは、涼しい風を受けてにっこり笑った。カービィは満腹になって、もう何も言うことはなさそうだ。
「ところでよ、カービィ」
 ふと、バーニンレオが口を開いた。
「オレ、何のためにお前につきあったわけ?」
 カービィは寝息を立てていた。

 あっ、こら寝んなカービィ! お前が勝手にオレを連れてきておいて知らん振りかよ! 夕焼けの空に、バーニンレオの喚き声が遠く響いていった。