試合の後
「格闘王への道」は終わった。
「……聞いてますか、カービィさん」
シミラはカービィに向かって言った。
「無駄デスヨ。話ナンカ聞イテヤシマセン」
カプセルJ2は地面に座り込んでカービィを見る。カービィは目の前のトマトを食べるのに夢中である。誰の話も耳に入っていないようだ。優勝賞品のマキシムトマトは目の前に山ほど積まれていたのだが、数秒も経たないうちに半分に減っている。
「今回、うまく優勝までこぎつけられただけでも上出来じゃねーか」
ナックルジョーはあくびした。
「なにせ軽量級のカービィがつぶされずに済んだんだし、カービィもそこまでのろまじゃあなかったってことだし」
今回の「格闘王への道」は、カービィがなんとか優勝した。最後のボスには少してこずったものの、何とか勝利を収めたのだ。
「でもこの先はまだまだ強敵がいるッスよ。油断禁物ッス」
タックの言葉に、他のものもうなずく。
「でもカービィより僕らがそれを心配するって……」
帽子の先をいじくりながらの、ポピーブラザーズJr.のつぶやき。そう、皆そろってカービィ以上にこれから先のことを心配しているのだ。当のカービィは心配なんぞより目の前のトマトの山を片付けることの方が最優先だったけれども。
「しょーがねーぜポピー、カービィは元からこうなんだからな。それより、明日の試合に出る奴を決めるぜ」
ボンカースは勢いよくハンマーを振り回した。明日の勝ち抜き戦はカービィではなく、カービィのヘルパーたちだけが参加できるのだ。
「よーし、あみだくじやるぞ! みんな集まれ!」
「おーっ」
皆、ラインを引いてあみだくじを作り始めた。その後ろで、カービィはいまだにマキシムトマトをほおばり続けていた。
ゴングが闘技場に鳴り響いた。
「いけいけー、ゲイザースパイラル!」
「そこだーっ、ヨーヨーぶちこめえっ」
「あっ、そこはだめーっ」
勝ち抜き戦の開始。参加するのはギム。得意のヨーヨーを自在に操り、変幻自在に攻撃を繰り出している。ヘルパーたちは客席から身を乗り出して応援した。だが応援もむなしく、最後の最後で、疲労のたまったギムは敗北。敵のパンチであっけなく場外。
「あと一撃だったのに〜!」
くやしがるギムを、皆で慰める。カービィは相変わらずトマトをほおばったままだったが、ふいに立ちあがり、ギムにトマトをわたした。
「カービィ……?」
食べて、と言っている。
「ありがと……」
食べかけだが……。
「さ、くよくよしててもしょうがない。明日の出場者決めよう」
チリーは自分の周りに綺麗な結晶をいくつも作り、笑顔で言った。
「明日はカービィと一緒に戦うんだから、頑張らないとな!」
あみだくじが地面に作られ、皆めいめい好きな小石を選んで、スタート地点に置いた。それから自分の選んだルートをたどり、ゴールにたどりついた。
「うむ、拙者が明日カービィ殿と共にたたかうでござる」
バイオスパークは意気込んだ。ヘルパーたちが応援の言葉をかける一方で、カービィは相変わらずトマトをもぐもぐ食べ続けていた。
翌日の「格闘王への道」は曇り空の中開催された。雨の降りそうな日だが、客たちはそんなことなどいっこうに気にしていなかった。
「えー、本日はあいにくの曇り空、しかし日が当らないからこそ却って闘志を燃やしてヒートアップし、戦ってくれることでしょう! さあ大変お待たせしましたっ、勝ち抜き戦スタート五秒前……試合開始です!」
ワドルディのアナウンスで、ゴングが闘技場に大きく鳴り響く。闘技場は歓声に包まれる。
「いざ参る!」
カービィとバイオスパークは飛び出した。
「がんばれーっ」
「負けるなーっ」
「あんな奴ぶっとばせーっ」
ヘルパーたちは応援した。
カービィとバイオスパークの奮闘により、見事優勝することができた。優勝賞品は、もちろん、カービィの大好物・マキシムトマトの山。
「バイオスパークかっこよかったよ! あのフォローのクナイ投げすごかった!」
「カービィやるじゃん! あんな場面で吸い込みやるなんてビビったけど、ちゃんと考えてたんだなっ」
「お手柄でしたね、アニキ」
「おめえならやってくれるって信じとったって」
「我が目に狂いはなかったのである!」
皆口々にカービィとバイオスパークをほめたたえる。カービィは顔を赤く染めたが、何かを思いついたのか、山のように積み上げられたマキシムトマトの方に走る。そしてそこから一つずつ取って、ヘルパーの皆に渡していく。
応援してくれてありがとう。だから、皆、トマト食べていいよ。
「カービィ親分……」
タックの目がやけにうるんでいた。
皆、カービィと一緒にトマトを食べた。
赤い夕陽の光を浴びながら食べるマキシムトマトは、いつもよりずっと美味しかった。