食べ過ぎにご用心



「困りましたね、カービィさん」
 シミラは、帽子の位置を直した。
 カービィは、グルメットから戻ってきたばかり。食料のたくさんあるあのグルメットで、デデデ大王とグルメレースをしたのだ。結果、カービィの圧勝に終わった。が、戻ってきてからどうも息苦しい。何かが喉につかえたのではないだろうかと思い、シミラの元へ相談しに行った。
「喉に何か詰まったみたいといわれても……」
 シミラは、あんぐり口をあけたカービィの口の中をのぞく。大きな口。これで何でも吸い込む、掃除機並みの吸引力。
「あなたの喉なんてないんですよ、残念ながら。それに、何か詰まっているようにも見えません」
 が、カービィは譲らない。息苦しいのだとシミラに訴える。
「そりゃただの食べすぎじゃないんですか? 満腹で息が苦しいだけでは?」
 しかしカービィの胃袋の消化力はポップスターいちと言われる程のスゴさ。飲み込んだものを秒単位で消化してしまうのだ。そんなカービィが喉に(そもそも、このピンク玉の体のどこに喉があるのかすら不明なのだが)ものを詰まらせるとはとても思えない。
 カービィがしつこくせがむので、シミラは折れた。
「わかりましたよ。もう一度口を開けてください。でも、ワタシを飲み込まないでくださいよ」
 カービィはうなずいて、口を大きく開けた。口の奥にはおそらく胃袋があるのだろう。体内に取り込んですぐに消化する仕組みになっているのかもしれないが、あいにくカービィを誰も解剖した事が無いので、詳しい事は全くわからない。メタナイトは別だろうが……。
 シミラがカービィの口の中に深く顔を突っ込んでいると、そこへ通りかかったのは、風呂敷いっぱいに果物を包んだタック。どうやらタックもグルメットの果樹園に遊びに行っていたらしい。片手にはバナナを持っている。
「オ、シミラのだんな。何やってるんで?」
 シミラは、何とかカービィの口から頭を引っ込めた。
「ああ、タックさん。ちょうどいいところに。実はですね――」
 シミラが説明を終えたところで、カービィは口を閉じた。
「タックさん、協力してもらえませんか?」
「そうでやんすか。ま、いいでしょ。あっしに任せておくんなせえ」
 タックはシミラの頼みを引き受けた。そして、
「カービィ親分、大口開けておくんなせえ」
 カービィは大きく口を開けた。タックは、シミラよりも深くカービィの口の中に頭を突っ込み、隅々まで見回してみた。そして、
「おっ。もしかしてコイツか」
 おそらく胃袋の入り口に当たるだろう場所。そこに、りんごの芯が引っかかっている。タックは何とかカービィの口の中へ、片手を突っ込んだ。そして、りんごの芯を掴み、取った。
「ぷう。これが胃袋のあたりに詰まってやした」
「おお! これが原因だったんですね! ありがとうございます。カービィさん、どうですか」
 カービィは、しかしながら、まだ息苦しいと言った。タックは目を丸くした。
「りんごの芯が詰まってたのを取ったのに。ということは他に原因があるってことですかい?」
「でしょうねえ。いっそ食べたものを全部戻してもらう……わけにもいかないですね。カービィさんの消化力は半端ではないですし」
「でもやってみる価値はあると思うッス」
 そこへ、
「よー、なにやってるんだー? 新しい遊びでも考えてんの?」
 ナックルジョーとボンカースが通りかかって声をかけてきた。そこで、シミラは思いついた。
「おお、お二人ともちょうど良いところに。実は、ちょっとお願いしたい事があるんですよ」
 シミラとタックは説明した。カービィはまだ息苦しさを感じながら、早く皆が何とかしてくれるのを、待っている。ナックルジョーとボンカースは、話を聞き終えると、互いに顔を見合わせた。
「カービィの胃袋でも消化できないモンがあるってこったろ?」
「んだらば、おれさまのハンマーでたたき出させるのが一番だ!」
「そうでやんす」

「おーし、準備完了!」
 ナックルジョーは、額の鉢巻を結びなおした。カービィは、ちょっと不安になった。口をあけているカービィを、ナックルジョーとシミラとタックが固定し、カービィの後ろからボンカースがハンマーを振り回してカービィにぶつけ、息苦しさの原因を吐き出させようというのだ。成功しそうな気はするが、カービィ自身へのダメージもすさまじそうだ。
 ボンカースは大きく息を吸い込み、自慢の怪力でハンマーを勢いよく振り回した。

 ボカン!

 カービィの背中に勢いよくハンマーがぶつけられ、その勢いの強さに、カービィを押さえていたナックルジョー、シミラ、タックは思わず手の痺れを感じ、うっかり手を放してしまう。支えをなくしたカービィは、わけのわからない叫び声をあげながら、前方に勢いよく飛ばされた。五メートル以上も飛んで、やっとこさ地面に落ちた。
「大丈夫か、カービィ!」
「怪我はないですか?」
「親分、大丈夫ですかい?」
「おう、大丈夫か? ちっと強すぎたようだ」
 皆が駆け寄ってきた。カービィは、めりこんだ地面から何とか顔を上げた。
 息苦しさが、なくなっている。
 息苦しさの原因となる何かを、吐き出したのだ。
「……そりゃそうだよ。あんなにでっかければ」
 ナックルジョーは、カービィの少し前にあるあなぼこに目を向けた。皆もつられて目を向け、目を丸くした。
 深さ五センチほどの穴ぼこの中に、吸われたショックで気絶したワドルディが、奇跡的に消化されないままで吐き出され、目を回していたのだった。