不気味な笑い声



 銀河全てを破壊しつくさんとした破神エンデ・ニルの魂ソウル・オブ・ニルを撃破し、強いきずなを結んだフレンズたちと共に、カービィはポップスターへと戻ってきた。
 デデデ大王は城へ帰り、メタナイトは剣術修行の旅に出る。フレンズたちはポップスターのそれぞれの住まいへ、そしてカービィは草原グリーングリーティングへと向かう。
 日頃から事故や事件がなくて呆れかえるほど平和なプププランドを襲った、遠い銀河からの邪悪なたくらみは消えうせた。だからカービィは今度こそ幸せなお昼寝タイムを満喫するのだ。
 すう、と寝息が響く。
 青空の下を吹く優しいそよ風が草原を撫で、寝転んだカービィがその草に顔を撫でられるが、カービィは寝転んだ時点で昼寝を始めていたので気にも留めなかった。

「カービィ!」
 あと一歩で、美味しそうな果物が山積みになっている大皿に飛び付けるところだったのに、激しい揺れと共に大皿は消えてしまった。
 果物が!
 そこでカービィは夢から覚めた。飛び起きたカービィは勢い余って、自分の体を揺さぶっていた誰かに激突。悲鳴が上がった。
 カービィが額をさすりながら見ると、なんと、カービィをゆさぶっていたのは、ニンジャ・バイオスパークではないか。
 いったいどうしたの。
 果物の夢を邪魔されたこともあって、少々機嫌の悪いカービィに、バイオスパークは言った。
「午睡をしている場合ではござらぬ! まだ探険していないエクストラエクレアに、なにやら不気味な笑い声が響いているのだ。もしかするとあのジャマハートを落とした連中の仕業かもしれぬぞ!」
 ええ、でも皆やっつけたはず……。
「確かに、きゃつらの最期は拙者も見届けた。しかし万が一ということもある、ついてきてはもらえんか? 最寄りのフレンズは既にエクストラエクレアへ向かっている。そしてジャマハートに操られたデデデ大王が奪っていたランドじゅうの食べ物だが、もしかするとあの森の果物にはまだ手をつけられていないかもしれん」
 しょうがないなあ。
 お昼寝タイムを邪魔されたのは嫌なことだが、まだ手をつけられていない果物があるかもと聞いて、カービィのやる気が一気にあがった。
 バイオスパークはかたじけないと礼を言ってカービィを背負うと、その俊足を生かして南東へ走った。

 エクストラエクレアに来ているフレンズは、ロッキー、ビビッティア、ボンカースであった。彼らはバイオスパークがカービィを担いで駆けてくるのを見つけると、「おーい」と呼んだのだった。
「おう、来たなあ!」
 ボンカースは大きなハンマーをぶんぶん振るった。
「待っていましたわ!」
 ビビッティアは嬉しそうに頭上の、髪とも絵筆とも言えるパーツを振ったので、絵具が四方に飛び散った。
「わあ、来てくれた! 昼寝してたらきっと起きないと思ってたのに!」
 どうやらこのメンバーの中ではカービィの到来を期待していなかったらしいロッキーは目を丸くしていた。
 バイオスパークの背に担がれたまま、カービィはフレンズ達に手を振り返した。そして、
 じゃあ、行こう!
 口元から一筋のよだれを垂らしながら、叫んだのだった。

 エクストラエクレアは、プププランドの南にある小さな原っぱで、雑木林もある。バイオスパークによると、このおだやかな地から、不気味な笑い声が聞こえてくるのだという。
「それにしても、こんな穏やかな土地にまだ不穏の種が残っていたとは」
 バイオスパークはうなった。
「笑い声の正体って一体なんでしょう? 破神エンデ・ニルをあがめてた神官たちでしょうか?」
 ビビッティアは周りを見回しながら不安そうに言うが、頭上の筆が左右に強く動くのを見る限りでは、その正体を突き止めようと意気込んでいる。
「そいつを確かめに行くんだろうが」
 得物の大きなハンマーを肩に担ぎ、ボンカースは鼻を鳴らした。その隣をのそのそ歩くロッキーは、
「もうエンデ・ニルは倒したんだよ? 神様を失った今、あいつらに何ができるってのさ」
 辛辣に言ってのけた。
 バイオスパークの背から降りたカービィはフレンズの雑談には加わらず、この土地で採れる食べ物についてあれこれ想像をめぐらしていた。

 キャハハハハ……!

 カービィたちが雑木林に入ったところで、その声は聞こえた。
 皆は同時に脚を止め、周囲を見回す。
 キャハハハハ……!
 雑木林の奥から、やはり声は聞こえてくる。
「あちらか!」
「よし、行くぜよ!」
 バイオスパークとボンカースはほぼ同時に駆けだすが、脚の速いバイオスパークがあっというまにボンカースを追い越す。ビビッティアとロッキー、そしてカービィは完全に出遅れたが、全力疾走してなんとかボンカースに追いつけた。
「バイオスパークさん、どこ行ったのー?」
 ビビッティアの呼びかけは、するどい金属音によって返された。続いて空気を切る音が響き、前方から何か光るものが飛んできたので、とっさにボンカースがハンマーを盾がわりに前へ突き出してそれを受け止める。
「何がささった?」
「クナイだね。バイオスパークの愛用品……」
 ハンマーにささったのは、ロッキーの言う通り、バイオスパークが攻撃に使うクナイだ。
「なんでクナイなんぞ投げつけてくんだ?」
「確かめればわかるよ。さ、行こうか」
 しかしロッキーが言うまでもなく、今度は前方から大きな影が、続いてクナイの持ち主であるバイオスパークが後から飛び出してきた。
「のがさんぞ!」
 バイオスパークはクナイを投げつける。複数のクナイのうち、前方を飛ぶ影に一本が刺さり、影は悲鳴を上げた。よろめく影に向かってボンカースが鬼殺しハンマー投げを繰り出す。ぐるぐる回って遠心力をつけたボンカースがハンマーを投げると、勢いよく飛んでいき、よろめいた影にみごと命中。よろめく影は悲鳴を上げてさらに低く飛んでいく。
「ビビッティア、アレやるよ!」
「はい!」
 影に向かって、ロッキーが高く跳躍して岩石変身、そしてビビッティアがロッキーに絵の具をぶちまける。

 フレンズ合体技、ヌリクルオブジェ!

 ペイントまみれの巨大な岩石が、よろめいた影を上からズシンと押しつぶした! 再び悲鳴が石の下から上がった。
 あれ、この声は……。
 近くの木からおちたリンゴを拾ったカービィは、ペイントまみれの岩石の下から聞こえた声に、目を丸くした。そして駆けよってみる。ロッキーは岩石変身を解いて元に戻る。ほかのフレンズたちも集まってきた。
「あっ、こいつ……!」
 それは誰の声だったか。ロッキーの下で目を回しているのは、見覚えのある大きな翼ととんがり帽子、そして愛らしい靴と大きな目玉。
「こいつはマルク!」
 かつて、喧嘩した太陽と月の仲裁をするためと嘘をつき、カービィに宇宙の果ての大彗星ノヴァを呼び出させ、自分の願いたる「ポップスターを自分のものにしたい」と言った。それがマルクの計画だった。ところが、カービィがノヴァを内部から破壊したので、マルクの野望もついえた。後にマルクはカービィへの憎しみからノヴァの残骸を吸収してマルクソウルとして生まれ変わったが、カービィに再び敗れてしまったのだった。
 どこから現れたか知らないが、エクストラエクレアに響く笑い声の正体はマルクで間違いなさそうだった。
 マルクはやがて目をさました。自分の周りを囲むカービィとそのフレンズを見るなり、あの時のことはゆるしてちょーよと軽い調子で笑いながら言うものだから……どうなったかは皆さんの想像に任せたい。