双子とたくさんのお客と



「でっけーパンプキンボム! 俺のカボチャよりでけー!」
 バドは、自分で採ったパンプキンボムの大きさに驚いた。コロナはホウキでイカレモンの脚を引っ掛けようと頑張っている。
「バドったら、はしゃぐよりも手を動かしてよね! 感動にひたる暇なんかないわよ!」
「ちえー、せっかくでっかいのを採ったのに。まあいいや」
 バドはかごに巨大なパンプキンボムを入れ、デザート用のビーダマンベリーを取った。
「ほら、バネバナナも! 後で使うんだから採って」
「一つくらい、おやつにしてもいいだろ?」
「しょーがないわね! 一つだけよ。あとは全部使うんだから」
「わかったよ。じゃ、さっさと収穫しちゃうか」
「あわてなさんな。まだたくさん実っているのだからね」
 双子のやりとりを見ながら、己の枝にたくさんの果実を実らせているトレントは微笑んだ。

 彼が早朝に家を出発した後、双子は一生懸命料理に励んでいるのだった。庭にいる巨木のトレントに頼んで色々な果実をこっそり育ててもらい、足りない分を急いで収穫して、彼が戻ってくるまでになんとか間に合わせようと必死になっている。慣れない包丁で何度か手を切ったものの、魔法薬で治して料理を続けた。
「今度は、あの珠魅のひと来るかな? ネコみたいなウサギみたいな人も」
 鍋でスープを煮ながら、コロナは椅子に腰掛けて脚をブラブラさせた。バドは、バネバナナの皮をむこうとして悪戦苦闘。
 コロナは、スープが煮えたのを確認して、火を消した。
「そのうち、きてくれるんじゃない? あ、バド。オーブン見てて」
 ペリカンが郵便を届けに来た。コロナはそれを受け取り、駄賃として小さな魚を口に放り込んでやった。
「誰からだよ?」
 ようやっとむきおわったバネバナナを頬張りながら、バドはコロナの肩越しに手紙を覗き込む。
「あっ、あの珠魅のひとからだね」
「バド! オーブンは!」
「いっけね!」
 バドは慌ててオーブンから焼き菓子を取り出した。コゲ過ぎていないのを確認し、フウと安堵のため息をついた。
「大丈夫、食えるよ」
「よかった」
 双子は手紙を見る。綺麗な封筒に、二枚の便箋が入っている。一枚は、胸に真珠の核を持つ真珠姫からの手紙。もう一枚は、胸にラピスラズリの核を持つ瑠璃からの手紙。真珠姫は色々ととめどなく書き連ねている。とりあえず、お礼が言いたいこととまた家に遊びに行きたいことだけは伝わった。瑠璃の手紙は簡潔そのもので、真珠姫が世話になったことや自分が色々助けてもらったことに対する礼が記されているだけ。粗野な瑠璃らしい内容だった。
「元気そうだね、よかった」
「うん。あっ」
 ドアのノック音。コロナはバドに手紙を押し付けて、ドアを開けた。
 外に立っていたのは、綺麗な羽を持ったセイレーンだった。
「こんにちは」
「こ、こんに、ちは」
 コロナは思わず固くなる。奥のバドはバネバナナを食べるのも忘れて、セイレーンの美しさに見とれた。
「突然お邪魔してごめんなさい。ここがあの人の家だと聞いたものだから」
 あの人。
「え、そうですけど……」
「ああよかった。今、いらっしゃる?」
「出かけてます……」
「そうなの。残念ねえ、私に外に出る勇気をくれたあの人へ、ちょっとした用事があったんだけど……」
「ま、待ってれば帰ってきますよ」
「そう……じゃあお言葉に甘えてお邪魔させていただきますね。私は、セイレーンのエレと言いますの」
 客人はそれだけではなかった。ドアを開けるとそのたびに誰かがいた。ドラグーンの姉弟、ガトの寺院の僧兵、ネコのようなウサギのような商売人、珠魅たち、ドミナの空き地の旅芸人、月の町のランプ売りのセイレーン、海賊たち、豆一族、草人や花人。最後にはジオの学生や教師たちまで訪れた。
「か、カシンジャ先生、一体どうして?」
「まあ、なんだ。ちょっとばかし用事があったもんでね、野外実習のついでに寄っただけよ」
 元・教え子に、カシンジャは、照れくさそうに双子から壁に目を移した。その頃には、大勢の訪問客が居間にぎゅうぎゅうづめとなっており、台所へ行くのも一苦労。客たちは思い出話や互いの冒険談を語り合っていた。コロナとバドは台所で紅茶のポットに新しく湯を入れて、客たちに紅茶を振舞う。
 一体どうしてこんなにお客が集まってきたのだろうかと、双子はしばし考えた。だが、すぐに二人は顔を合わせてニヤリと笑った。わかったのだ、ここに皆が一度に集まってきた理由が。
 客たちは、最初は喋っていたが、やがて室内の飾り付けを始めた。紙の輪や宝石の飾りが飾られていく。魔法の光が室内を美しく彩り、ガラスの珠が光を反射してキラキラと輝いた。コロナとバドも負けずに、台所に戻り、せっせと支度をする。そのうちジオの学生たちが何人か姿を見せ、双子の手伝いをし始めた。双子が学園にいた頃の懐かしい話をしながら。
 そのうちサボテンが二階から降りてきて、皆の注目を浴びた。そのとき、またノックが聞こえたので、今度は誰なのだろうと双子はドアを開けた。

「ただいま」

 水を打ったように、室内が静まり返り、皆が一斉に入り口を見た。
「……どうしたの、みんなそろって」
 彼は不思議そうな顔で室内を見渡し、自分を出迎えた双子に聞いた。
「今日は誰かの誕生日会でもあるの?」
 しばしの沈黙。
「はい……今日は、お兄様の誕生日です……」
 真珠姫が顔を真っ赤にしながらもじもじ言った。

 今日は彼の誕生日だった。
「誕生日、おめでとーっ」
 バドは大声を出し、コロナは台所から大きな手作りのフルーツケーキをはこんできた。学生たちも料理を山ほど運んでくる。それにつられ、皆も各々持ってきたプレゼントを取り出し、
「誕生日、おめでとう!」
 そろって、彼の誕生日を祝った。

 マイホームに、あたたかな笑い声が満ち溢れた。