ランプ屋さん



「バド、お湯沸いてる?」
「あともうちょっと!」
「お茶の葉、ポットに入れた? それからカップの準備はできてるの?」
「できてるよ! コロナこそ、パンケーキこがすなよ!」
「わかってるって」

 バドが、やかんの中で沸いた湯を、紅茶の葉を放り込んだティーポットに注ぎ込んで蒸らす。コロナが4人分のパンケーキを焼きあげるころ、ペンギンのヴァレリが焼きたてのスコーンを籠状の皿に盛り付ける。ドッグピーチのジャムや、ドミナの町で買ったバターと一緒に、パンケーキとスコーンを持っていく。
「お茶どうぞ」
 コロナが大きなティーポットを、テーブルに乗せる。その横で、パンケーキに目を輝かせながらバドがカップを並べていく。
「ありがとう」
 客人の前にティーカップやスコーン、パンケーキの乗った皿が並べられていく。
 4人でテーブルを囲み、ティータイムが始まる。
 客人のセイレーン、リュミヌーは、ポットからカップへ紅茶を注ぐ。
「私、月夜の町ロアに住んでいるの」
 紅茶に砂糖をひと匙いれる。
「あ、そこ知ってる! アナグマたちの住んでる所で、七賢人のポキールがいたよね!」
 リュミヌーの言葉に、スコーンをほおばりながらバドが声を出す。
「ええそうよ。私、その町でランプ店を営んでいて、そこらへんにあるガラクタで奇妙な形のランプを作るのが好きなの。あの町は常夜だから、いつも月明かりやランプの明かりが必要なの。自分のつくったランプの光が夜の闇を照らしてくれるのを見るのが、大好きだわ。どのランプにもない不思議な色の光を放つんだもの」
 リュミヌーは、天井に吊り下げてある大きなランプを見る。明るい昼間なので、まだ明かりはつけていない。
「オシャレなデザインね。でもちょっとほこりをかぶってきたかしら。拭き掃除をしたらもっと明るい光を家の中に届けられるわよ」
「はあ、そうなんですかあ」
 コロナはリュミヌーに倣って、天井のランプを見上げた。まだ昼なので室内は明るく、ランプが汚れているかどうかは分からない。が、リュミヌーが言うからには、やはり埃をかぶって汚れてしまっているのだろう。ティータイムの後で拭き掃除をしておこう。
「あなたのランプ、よろしかったら一つ見せて下さいません?」
 スコーンにジャムをぬりながら、ヴァレリが言う。リュミヌーは快くランプを荷物から取り出し、皆に見せる。
「まだ作りかけなの。材料が全部揃っていなくてね。外側だけは出来ているのよ」
 確かにそれは作りかけのランプであった。土台となる板と持ち手と思われる曲線は白金で作られており、ランプの明かりを保護するガラスにはステンドグラスを細かくちりばめてあった。
「このランプは、目で見て楽しむために作っているの。ただ生活するだけなら、何の飾りも要らずにただ照らせばいいんだけどね。でもこれは、火をともすと、赤や青の光も部屋の中にあふれるのよ、まるで夜空に輝く星たちのようにね」
 まだ完成してはいないランプであるが、火をともしたランプから、柔らかな黄色の光だけでなく赤や青の光が室内にあふれる……のを想像する。
「すてきですね」
 ヴァレリの言葉に、
「きっときれいでしょうねえ〜」
 賛同しているらしいコロナはうっとりとした顔をしている。が、バドは首をかしげる。
「えー、でも色とりどりの光より、ただ照らしてくれる方が好きだよ。色んな色の光があると、目がちかちかして落ちつかなさそうだし」
「バド、あんた何て事を!」
「いいのよ、喧嘩しないで」
 リュミヌーはランプをしまいこみ、パンケーキを切り分ける。
「同じランプの光でも、その光をどう感じて受け止めるかはその人次第だものね」
 彼女は紅茶のおかわりをポットに注ぐ。
「このポットの形いいわね。装飾はほとんどないけどそれがいいわ。シンプルイズベスト。そうだわ、家庭のテーブルを飾るランプなんて面白そう。リビングに置いて温かな光を……ふふ、いいわね」
 ポットをランプの材料にするつもりかと、バドとコロナは身構えたが、それは杞憂であった。

 ティータイムを楽しんだ後、リュミヌーはランプの材料になりそうなものを探すべく、ドミナの町へ発った。そして、ヴァレリとバドが食器を洗っている間、コロナは、天井のランプをごしごしと雑巾で拭いていた。
「綺麗になったら、きっともっと明るくなるわよね……?」