空の巻の地を探して
「まぶしーな」
思わず声が出る。時刻は昼間、明るい太陽がさんさんとまぶしい光を投げかけている。
「さっきまででっかいアリどもの巣の中にいたから、おてんとさんがまぶしくてしかたねーや」
アミヤクイ村のゴンドラ小屋付近に、巨大アリの巣への入り口があった。ムサシは単身乗り込み、気持ちの悪いアリの巣の奥深く、風の紋章の封印を解放すべく、四体目のクレスト=ガーディアン・アントヒルクィーンを撃破したのだった。羽蟻とも蛾ともつかない巨大な虫は気色悪かったが、何とか風の紋章を解放できた。
「やっと地上に戻ってきたって感じだぜ! 明るいなあ」
ムサシはのんびりとアミヤクイ村へ向かった。村へ行く途中、ジャンからもらった不思議なメモを握り締めて。
「空の巻ははるか天空……よぉし!」
「空の日とか大樹とかって書いてあるけど、一体どういう意味なんだあ、これ」
ヤクイニック城の自室で一眠りしたあと、ムサシは今、ふたご山の頂上にいた。背後で、癒しの水の流れるサラサラと気持ちの良い音が聞こえてくる。村の雑貨屋新発売のワギュウおにぎりをもぐもぐ食べながら、ジャンからもらったメモを読み返している。オサメル村長にもらったル・コアールのカレンダーを見る。
「空の日ってのは、空曜日のことだよな。今日は確か土曜日だっけ。次の空の日までまだ日があるな。それまでに探さないと」
三つ目のワギュウおにぎりを頬張り、さっき水筒に汲んだ癒しの水を喉に流し込む。キリリと冷えた水が喉を通っていく。
「ぷはーっ、うめー!」
一気に水筒の水を飲み干した。おにぎりと癒しの水で腹は完全に満たされた。天気もいいし、一眠りしてもいいくらいだ。だが、ムサシはそれどころではない。探さねばならない場所があるから。
ジャンのメモを懐につっこみ、荷物をまとめたムサシは座布団代わりの石から立ち上がる。
「よし、行くぜ!」
「しかし、一体どこのことを指してんだ? 大樹ってのは。木のあるところだろ?」
早くも風曜日。明日は空曜日だ。さっさと、メモに書かれている場所を発見しなくては。木の生えている場所のうち、行ける範囲で全て探したつもりだ。睡魔の森、さまよいの森、スチームウッド、ふたご山、フリーズパレス周辺……。
「あーっ、ちくしょー、どこにあるんだよ! 大樹があって、空曜日で、ええとええと、そこには風の紋章があってそいつを解放しないと進めないって思ったんだけどなあ」
頭の中がこんがらがった。
「ヒゲじいに聞いても、占ってもらっても、図書室に行っても駄目だったなあ。村の人が知っているとは思えないし……ジャンのくれたメモだけしか手がかりがないんだよなあ」
ムサシは、六個めのライスボールを頬張る。数日間ひたすら走り回った上、何も食べていないので、我慢の限界に達したムサシはアミヤクイ村の雑貨屋に駆け込んだのだった。パンも美味いがやはりムサシの口には握り飯が合う。
大きなみかんをデザートにして、最後にジャンのメモをもう一度読み直す。何か欠けているところがないだろうか。読み落としはないだろうか。だが、何度読み返しても分からない。
噴水に腰掛けてうなっていると、いつものテムとミントがきゃっきゃと走り回っているのが目に入る。あいつらくらい、おいらものんびりしてえよなあ。ムサシは思った。
「くもってきたね、明日雨だよ、きっと」
ミントが、自称伝説の兜(と名づけたザル)を被りなおしながら、空を指す。テムは自称勇者の兜(と名づけた鍋)を剣(に見立てた木の棒)でカンカンと叩き、「そうだよねー」と相槌を打つ。
「最近さ、空曜日に限って雨が降るよな。しかも、スチームウッドのほうにだけ。何かあんのかな」
二人の会話を聞いて、ムサシはハッとした。そういえば、スチームウッドには登れるところがあったはず。
「忘れてたぜっ」
噴水から飛び降りて、猛然と突っ走ったムサシを、二人の子供はぽかんとした顔つきで見送った。
相変わらずスチームウッドの森は微妙に暑い。それというのも、パイプを通る熱で辺りが温められているからだ。
木々の奥に隠れて見えなかったが、ベンケイブレスをつけていれば登れる岩壁があったのを、今頃になって思い出した。
「ここにあるんだな、きっと!」
確信は持てなかったが、他に思いつける場所はない。まあ、これがはずれだったとしてもまた探しなおせばいいだけのこと。
ムサシは岩壁に雷光丸とレイガンドを交互に突き刺し、岩壁を登り始めた。辺りは少しずつ暗くなり、雨が降る前のしけったにおいがする。ムサシは登りながら、ジャンのメモに書かれていたことを思い出す。空曜日、大樹。見落としていたこと。それは、雨のことだ。
てっぺんまで登りつく。そのころにはもう日が暮れていた。だが、ムサシは喜びの声を上げた。
「やったぜ!」
岩壁を登りきったその場所には、風の紋章の描かれた陣があったのだ。
「後は、明日を待つだけだ! とうとうやったぜ!」
ムサシは大歓声を上げた。あとは雨が降るのを待つだけ。空曜日に雨が降ったとき、風の巻の力をここで使えばいいのだ。
「あー、良かった。でも、一眠りしなくちゃな。明日にならないと雨はふらないし」
ムサシは急に疲れを覚えた。ろくに寝ずに走り回ってばかりだったので、今頃になって疲れたのだ。そのまま紋章の上で、エイランチお手製の寝袋につつまって眠ることにした。
「さ、寝よう。疲れた……」
心地よい寝袋に身を任せると、ムサシのまぶたはすぐに閉じられた。
ぽたん。
顔に冷たいものが当たり、ムサシは目を開けた。
寝袋から這い出し、ここはどこかとしばらく悩む。スチームウッドの森だと思い出し、ここに来た目的もついでに思い出す。風の紋章を解放し、その風を使って、天空へと向かうのだ。
朝日は見えないがあたりは明るい。そして、ポツポツと雨が降っている。
「いよいよだな」
空へ行けば、後戻りは出来ないかもしれない。だが、行くしかない。最後の空の巻を手にいれ、レイガンドの力を完全なものにして、フィーレ姫を助け出すのだ。
「行くぜ! レイガンド!」
ムサシは、レイガンドを風の紋章につきたて、風の紋章を解放した。