VSメタルマン



 ザシャッ!

 壁に突き刺さった刃。一見はドーナツのようだがその外周はノコギリのような形をしている。そしてそのとがった個所は一か所一か所、鋭く研ぎ澄まされ恐ろしい切れ味を誇る。ロックマンのヘルメットをかすったそれは、メタルブレード。
「臆したか、ロックマン!」
 冷たい声で怒鳴ったメタルマンは、次のメタルブレードを取り出す。
「ドクター・ワイリーから貴様を始末するように言われていたんでな、ここまで突き進むからにはそれなりに手ごたえのある奴と思っていたが、俺の見当違いだったようだな! 所詮は家庭用ロボット、純粋な戦闘用ロボットの俺とは釣り合わないということか」
 挑発の言葉に、ロックマンはバスターを構えなおす。彼の頭脳内部に組み込まれた、メタルマンとの戦闘データが解析を高速で開始する。戦いが始まって十分以上経過した。だがロックマンはメタルマンに一度もバスターを食らわせる事が出来ない。解析によると、メタルマン自体の装甲はクラッシュマンよりも遥かに弱いはずなのだ。だがそれを補うために高い跳躍とメタルブレードによる遠距離攻撃で敵を近づけさせないようにしている。懐に飛び込めさえすればバスターをたたき込めるのに……。
 バスターを打ち出す直前、メタルマンはメタルブレードを投げつけてくる。
「危なっ……」
 とっさに横に飛んでかわしたロックマンだったが、メタルブレードの一か所にヘルメットがひっかかったのか、ヘルメットは外れてしまった。伏せたところを狙ってメタルマンがまた新たなメタルブレードをいくつも投げつけてくる。軌道を計算した正確な投げ。とはいえ、クイックマンとの戦いで集めたデータにより、ロックマンがとっさに跳び上がったおかげで、メタルブレードの攻撃はロックマンの装甲を若干傷つけただけで済んだ。
 戦いがさらに続き、やっとロックマンはメタルマンに一発バスターをくらわせることができた。コアの近くを狙ったらしく、メタルマンの動きが鈍る。爆発に耐えられるようにクラッシュマンの装甲は厚かったが、メタルマンの装甲はさほど固くはなさそうだ。解析は当たっているようだ。
「おのれ!」
 装甲を傷つけられたメタルマンは、距離を詰めて、メタルブレードを直接手に持った状態で切りつけてくる。先ほどよりも動きが鈍っているので、回避することは出来た。
 ロックマンは、先ほどの戦闘で手に入れた情報チップからプログラムを起動させる。バスターの作りが変わり、内部で新しい武器が構成される。
 ロックマンは、クイックブーメランを装備した。
 メタルマンは新たなメタルブレードを取り出した。ロックマンはバスターの発射口をメタルマンにもう一度向けなおした。使うのはこれが初めて。バスターより広範囲を攻撃してきたクイックブーメランの試し打ちだ。跳躍を得意とするメタルマンの動きを封じられるかもしれない。
 ロックマンはバスターからクイックブーメランを発射した。高速で撃ちだされる三日月のような刃。メタルマンは飛び上がって回避し、大きくバック転して距離をとった。
「その武器、クイックマンのものだな」
 メタルマンは、壁に突き刺さったブーメランに目をやる。
「あのせっかちは貴様に敗れたのか。情けない奴よ、ナンバーズともあろう者が、こんな貧弱な奴に敗れるとは」
「それでもお前なんかよりずっと戦い甲斐のある相手だったよ!」
 あくまで正々堂々とロックマンと戦おうとしたクイックマン。対して、メタルマンは純粋に戦いを求めるのみ。同じワイリーナンバーズの一体同士だが、ロックマンにとっては、独自の美学を持つクイックマンの方がはるかに立派なロボットだと感じられた。
 ロックマンは再びブーメランを発射する。今度はメタルマンのメタルブレードで弾き落とされる。
 次々にブーメランを打ち出す。武器のエネルギーは少しずつ減ってしまうが、それとは別に、命中精度は徐々に上がっていく。メタルマンめがけて飛んで行くのだ。メタルマンは次々とブーメランをはじき落とし或いは飛んで回避する。だが、急にロックマンは声をあげた。
「あっ、エネルギーが……!」
 クイックブーメランのエネルギーメーターが、ほんのわずかになってしまったのだ。あと一発撃てばおしまい。試し打ちをするつもりが、つい撃ち過ぎてしまった。
 メタルマンは、ロックマンが万策尽きたと考えたらしく、
「ロックマン、覚悟!」
 大きな跳躍で一気に間合いを詰めてきた。近距離のメタルブレードによる連続攻撃がロックマンを一気に切り刻む。一時的に内部の回線やパーツが回復したのか、素早さが一気に上がっている。一気にボディが切り刻まれるが、いずれも急所は外れている。クイックマンの攻撃回避データが活きているおかげで、メタルマンの攻撃の軌道がなんとか分かるのだ。ロックマンはしゃがみ、落ちていた自分のヘルメットを拾い、落ちてくるメタルマンにむかって投げつけた。次のメタルブレードを取り出そうとしたメタルマンは腕を振ってヘルメットをたたき落とした。
「メタルマン、くらえ!」
 ヘルメットをたたき落とすために振りあげた腕で相手の攻撃が一時中断されたのを狙い、ロックマンのバスターの発射口から、クイックブーメランが飛び出した。メタルマンが回避行動をとる間もなく、高速で飛びだしたブーメランは、メタルマンのヘルメットを直撃。エネルギーの無くなったクイックブーメランの装備が解除され、通常のロックバスターに戻る。ロックマンは、ブーメランがぶつかった衝撃で頭ののけぞったメタルマンが体勢を立て直す暇も与えずロックバスターを連射した。
 弱い装甲を無数の弾が直撃した。

「俺が、この俺が……こんな奴に……」
 集中攻撃を受けた装甲にたくさん亀裂が入り、その下で守られていた稼働システムやコアを傷つけられたメタルマンは、立つこともできなくなった。攻撃が激しい半面、解析の通り、やはり装甲は貧弱だった。
 ロックマンもボロボロだったが、メタルマンほどではない。ロックマンは、横たわるメタルマンにロックバスターの発射口を向けて言った。
「降参するんだ、メタルマン」
「降参だと……?!」
 動いたメタルマンの目の色が緑に変わったり赤に変わったり。
「降参などできるものか! 俺を何だと思っている! 貴様とは、貴様とは違うのだぞ!」
 そう、メタルマンは戦闘用ロボット。負けを認めることはできない。戦いだけが己の存在意義、敗北を認めることは己の死を意味することなのだ。
「ねえメタルマン、これ以上戦えないってことは、もうわかってるだろ……」
「うる、さい……!」
 メタルマンの目の色は赤に変わったが、やがて緑に戻ってしまった。メタルマンのボディは、彼の意志に反して、もう戦える状態ではないことをあらわしていた。視界もノイズが走り、目の前にいるはずのロックマンの姿が見えなくなってくる。
「ど、ドクター……もういちど、チャンス、ヲ……」
 メタルマンの電子頭脳は停止した。

 ロックマンは去り際、動かなくなったメタルマンを振り返る。動かぬボディ。うつろな目から流れ落ちるオイルは、涙のようにも見えた。
 ロックマンと戦うためだけに作られたロボット。ロックマンに敗れれば、その役目は終わる。
(メタルマン……)
 ロックマンはヘルメットを装着し、こぶしをぐっと握りしめ、駆けだした。
「絶対にワイリーを倒す!」
 これ以上、戦いしか知らぬロボットたちを作らせないためにも……!