VSクイックマン
「また会えたな、ロックマン!」
ロックマンが転送された先の部屋。クイックマンは嬉しそうに言った。会えて嬉しがっていると言うより、また戦えるから嬉しがっているようだ。
「ドクター・ワイリーに修理してもらったんだよ。これが、お前ともう一度戦う最後のチャンスってわけだ。俺達ナンバーズはお前と戦うために作られたんだからな。と、その前に」
クイックマンはロックマンに何かを投げてよこす。キャッチしてみると、エネルギー缶だった。
「ボロボロのお前と戦っても手ごたえ無さそうだからな。エネルギー補充が終わるまで待つから、早くしろよ」
「あ、ありがとう」
クイックマンが他のナンバーズと違うのは、正々堂々とした戦いを好むこと。ロックマンは缶のエネルギーを体内に補充してから、クイックマンに言った。
「エネルギー缶のお礼に、この戦いではタイムストッパーは使わないよ。バスターのみで戦う」
「俺に気を使ってくれたのか。敵とはいえ、お前のそういうところは好きだ」
それからクイックマンは身構えた。ロックマンもバスターの発射口を向けた。
「行くぞ!」
(や、やっぱり早い!)
戦いが始まってから五分も経たないうちに、ロックマンは焦った。クイックマンは速い。その名に恥じぬ速度で室内を走り、バスターを次々にかわす。タイムストッパーで時間を止めることが出来れば、防御装置に欠陥のあるクイックマンの内部の精密機器に過負荷によるダメージを与えることが出来るのだが、この戦いではタイムストッパーを使わないと決めた以上、それを覆すことはしたくない。
クイックマンがブーメランを投げつけてくる。大きな円の軌道を描いたブーメランは、ロックマンの立っている場所めがけて飛んでくる。クイックマンは同時にロックマンめがけて跳んでくる。ロックマンは横転しつつバスターを発射する。宙にいるクイックマンはとっさに右腕のシューターからクイックブーメランを数発打ちだしてバスターを防ぐ。着地と同時に回し蹴りを繰り出し、起き上がろうとしたロックマンを蹴り飛ばした。
ロックマンは蹴られた衝撃で壁にぶつかったが、すぐ転がってブーメランの攻撃をかわす。あのブーメランは、メタルブレードほどではないが、それなりに切れ味がある。直接手に持って攻撃しても十分脅威となりうる武器だ。
(あの戦いのときより動きに無駄がないな。僕との戦闘データが活きてるんだ)
同時にロックマンの頭脳にもクイックマンとの戦闘データが残っている。が、あの時と同じ戦いかたで勝利できるほど、目の前の敵は甘くはないだろう。
「どうしたロックマン!」
右や左に移動しながらクイックマンが怒鳴った。
「手元が留守だぞ!」
いつのまにか傍に近づかれ、手にした大きなブーメランがロックマンを襲う。ロックマンは危ないところでそれをかわし、空いたボディめがけてバスターを撃ちこむ。クイックマンは横に跳んだが、一発、脇に食らった。
「まだまだ!」
ひるんだ様子もなく、クイックマンはブーメランを手に持ったまま切りつけてくる。ロックマンは回避するので精いっぱいだ。バスターを向ける暇もない。バスターによる連続攻撃を防ぐために近距離攻撃に持ち込んできたということは、遠距離からチクチク攻めてタイムストッパーで体力を一気に削り落とした前回のデータ通りに戦っても勝ち目はなさそうだ。
ならば――
ブーメランがふりあげられたところで、ロックマンは相手にタックルした。不意をうたれたクイックマンはタックルをかわせず、もろにボディに食らってバランスを崩し、尻もちをついた。ロックマンはすかさず後ろに跳んで、相手の握るブーメランが届かない程度まで距離をとり、バスターを発射した。クイックマンはすかさずバック転で後ろに跳び下がったが、回避行動を予期していたロックマンがバスターを少し上に向けて発射したので、クイックマンは何発かを背中や足に食らった。
「やるな」
その言葉の直後、立ち上がったクイックマンの腕が振りあげられたかと思うと、次の瞬間には空を切り裂いた二つのブーメランが左右からロックマンに襲いかかってきた。それを認識した時には遅く、ロックマンの両腕がブーメランに切り裂かれる。ブーメランはその勢いを殺さぬまま、壁に突き刺さった。
「しまった……!」
配線がいくつか切断されたらしく、腕がうまく上がらない。
「これでおあいこだろ。俺も脚のブースターをいくつかやられたんだからな」
先ほどの攻撃の際にバスターが何発かあたったようで、クイックマンの脚には傷がつき、箇所によっては小さく煙を出している。超加速を可能にする脚のブースターを壊されたのだ、もう先ほどのように素早くは動けまい。とはいえ、ロックマンも腕をやられており、バスターによる攻撃がしにくくなった。
ロックマンは何とか腕を上げる。少しふらふらしていて、左手で支えていても狙いが十分に定まらない。クイックマンは駆けだしたが、目でも軌道を認識できるほどスピードは落ちている。だが、やはり速い。駆けだしたと思った時にはもうすぐ近くにいるのだ。ロックマンは一発撃ちだしたが、バスターはあっけなくかわされた。一発撃った反動で腕が大きくふらついた。クイックマンはロックマンの目の前に近づくが早いか、その丈夫な脚でまた蹴りを繰り出した。膝がロックマンのみぞおちにめり込み、ロックマンは後ろに飛ばされ壁にぶつかった。
(そうだ、壁――)
クイックマンの、ロックマンを蹴飛ばした左足が、ビリッと電流を走らせる。ロックマンを蹴ったことで、傷の付いた足に負荷を加えてしまったようだ。構わずクイックマンはブーメランを手に持ち、
「ロックマン、覚悟!」
跳躍で一気に距離を詰める。そしてブーメランを振りあげた。立ち上がったロックマンは壁にもたれた状態で腕を上げた。
ブーメランがロックマンのボディを切り裂き、同時に、バスターの渾身の一撃がクイックマンのボディを貫いた。
ロックマンのボディは大きく切られたがぎりぎり急所を外れていた。クイックマンは、ボディそのものをバスターで完全に貫かれ、装甲からオイルが漏れ始めていた。
「肉を切らせて骨を断つ……やられた」
仰向けに横たわったクイックマンは、力なく笑った。ロックマンは壁にもたれた状態で床に座り込んでいた。
「また負けたな、俺……」
ロックマンに目を向けた。
「お前、本当に強いな……土壇場まで追い詰められても、あきらめない……」
「あきらめたら、そこで終わってしまうもの……ワイリーの野望を止めるために、僕はここへ来たんだから」
「そうだったなあ。お前は、ドクター・ワイリーの願いを邪魔しに来たんだった……。何でお前ナンバーズの一員じゃあないんだろうなあ、そんなに強いのに――」
バチッとコアの付近から電流が走った。配線が何本かさらに切れる。
「クイックマン!」
「行けよ、ロックマン……」
かぼそくなってきた声で、クイックマンは転送ポートを指した。
「大丈夫。俺のことは心配いらん。ドクター・ワイリーに直してもらえばいい。だから、行け……」
クイックマンは目を閉じた。
応急処置を施したロックマンは、転送ポートに乗った。光に包まれ転送される直前、ロックマンはクイックマンを振り返った。
赤き神速の戦士は、やすらいだ表情で、その機能を停止した。