ラズベリー



「あーあ、もう飽きてきた」
「そんなこと言わないでよお」
「俺、甘いもん、あまり好きじゃねーんだよ」
「だって、しょうがないじゃない」
「他に料理の仕方はねえのかよ、もー」
「果物だもん、これしかないわ」
 テーブルの上に並んでいるのは、パイ、タルトなどの菓子や、ジャムのびん。そしてそれらの菓子やジャムに使われているのは、庭で採れた大量のラスベリー。
「ちゃんと剪定してたのに、大量に実るんだもの」
「選定して枝が減った分、実つきがよくなったんだ」
「これでもちゃんと取ってるのよ、かごいっぱいになるまで」
 ヨランダは、テーブルの上に新しくジャムの瓶を置いた。それももちろんラズベリーのジャムだ。
「ジャム作る程度取れればよかったのに、予想外の収穫だったしい」
 というわけで、大量のラズベリーが収穫され、毎日毎日食卓に出される。菓子やジャムだけでなく、料理にもラズベリーソースがかけられるようになった。そうして、三人とも、その甘酸っぱい味に、いいかげん飽きてきていた。最初はちょっとしたおやつやデザートとして楽しめたのだが、さすがに何日も続くと、当然飽きが来る。
「これでもご近所にはいっぱいおすそわけしたのよ。学校帰りの子供たちもおやつがわりにつまんで行ってくれるの。でもどんどん実るのよねえ」
「五株も植えれば当然だろうに、まったく」
 スペーサーは立ち上がった。もう出勤せねばならない時間だから。彼はラズベリージャムのかわりに普通のマーガリンを塗ったトーストを食べながら食堂を出た。いいかげん、ベリージャムには飽きてしまっていたのだ……。
 スペーサーに続いてアーネストも席をたち、急いで食堂を出ていった。
 ひとり残されたヨランダは、目の前にあるモノを見る。ベリージャム、タルト、パイ、ベリー入りのパン、などなど……。食堂にあまずっぱいかおりが立ちこめている。
「こっちだって飽きてるわよ。でも、捨てるのはもったいないのよねえ」
 小さな苗だと思って植えた五株のラズベリーは、数年であっというまに成長し、花を咲かせ、実をつけるにいたった。そして、ヨランダは現在、大量のラズベリーと格闘中なのだ。隣近所、学校帰りの子供たちにも、大量に摘みとってもらった。そして同居の二人にも、ラズベリーを使った料理や菓子を毎日食べさせているし、彼女も食べている。それなのに、
「なかなか減らない」
 実りの時期が終わるまで待つしかないだろう……。それまでに腐らなければいいのだけれど。
「一株だけにしておけばよかったわねえ」
 庭の一角を占領するラズベリーを見ながら、ヨランダはため息をついた。
「今日のごはん、どうしよう。もうラズベリーは飽きちゃったしなあ。でも食べないともったいないしなあ」
 実がなったときはとてもうれしかった。その甘酸っぱさもよく憶えている。やっとここまで育ってくれたんだと実感した。だが今はその甘酸っぱさと別れたくて仕方ない。
「ジャムもジュースもアイスもケーキも、いろいろ手は尽くしてみたけど、余るわねえ」
 庭にはまだみのりかけのラズベリーがある。
 ヨランダは、じっとラズベリーを見つめたが、ふといい考えを思いついたので、さっそく受話器を取った。

 その夜、ラズベリーソースがけの料理がでなくなった。
「アタシなりにベリーの処分方法を考えたんだけど、これしかなかったのよねえ」
 ヨランダは庭を見せる。
「あれっ?」
 男二人は同時に声をあげた。それもそのはず。ラズベリーは一株だけになっていたから。
「一体どういう手を使ったんだよ。除草剤でもまいたのか?」
「そんなわけないでしょアーネスト。ガーデニングが趣味の友達にお願いして、四株ひきとってもらったの。剪定の仕方が悪いって、呆れられたけどね。でもこれでよかったでしょ、一株だけならアタシたちでベリーを消費できるもの」
「……残った一株に実ったラズベリーが今ここにどれだけあるか、わからないがな」
 うきうきした顔のヨランダとは反対に、スペーサーは苦い顔だ。目の前に並ぶ料理には確かにラズベリーがないのだが、冷蔵庫には、ジャムやジュースが大量に入っているだろうし、まだ庭のラズベリーはいくつか実っているままだ。
 アーネストはうんざりした顔で苦い声を漏らした。
「まだ甘酸っぱいのがあるのかよ……」
「で、でもちゃんと全部食べきれるわよ、アタシだって、食べ過ぎて体重増えちゃったんだしさ」
 ヨランダは何とかこの場を明るくしようとするが、どうやら無駄だったようだ。まだ消費し切れていない大量のベリーが、家の中にあるのだから。
 ラズベリー地獄は、まだ終わりそうにない。