毎年恒例



「もう、冬の雨ってやだなあ」
 ヨランダは愚痴をこぼしながら、洗濯ものを乾燥機へ放り込む。干しておいた洗濯物は、先ほど降り始めた雨でまた湿ってしまったのだ。
「買い物を先に済ませておいてよかったわあ。冷たい雨の中を歩くのは嫌だもの」
 あとはアーネストの食欲が人並みであったならば、尚よいのだが。一時に三人前食べるので、食費が結構かかるのだ。
「さーてと。乾くまで時間がかかるし、ちょっと寒いから暖房つけて――」
 ヨランダは自室のエアコンを入れてから、温まるまでの間、のんびりベッドにねころがった。
「あったかいと眠くなるけど、寝るわけにはいかないのよね」
 あくびをこらえながら、彼女は暖かな風を背中に受けつつ、雑誌のページをめくった。
 時間が経過するにつれ、雨は弱まった。やがて乾燥機が作業終了の音を鳴らしたので、彼女はいやいやながら、温かな部屋を出た。
「うわ、静電気……!」
 乾燥した洗濯物はパチパチと静電気を走らせており、たまに彼女の手に鋭い痛みが走った。それでも冷たい洗濯物をさわるよりはずっといいものだ。乾いて温かなのだから。
 辺りが暗くなってきたので、彼女は近くの明かりをつけて、洗濯物を畳んだ。
「家中が一瞬であったかくなる方法ってないものかしら……」
 遠くから眺める雪景色はとてもきれいなのだが、自分たちが外へ出るために行う毎年恒例の作業たる雪かきはとても面倒なのだった。

「雪が降ってきたのか?! さっきまで雨だったのに」
 講義が終わり、研究棟の自室へ入ったスペーサーは窓から外を見て思わず声をあげた。
「冷えるわけだ。ええと傘は持ってきているはずだが、ああ、タイヤを替えるのをすっかり忘れていたなあ」
 荷物をごそごそ探りながら彼はつぶやいた。
「まあいいや、次の休みになったら、替えよう……」
 窓の外では、大粒の雨に混じって、ぼたん雪が降り始めていた。
「ここの暖房は壊れているし、修理が始まるのは年の終わりの休み明け、全く……」
 この棟全体の暖房が壊れたのは数日前の事であった。
「とりあえず、さっさと帰るか。研究会議は明日だしな」
 手帳でスケジュールを確認した後、彼は荷物をさっさとまとめ、部屋の明かりを消し、施錠して研究棟を出た。
「小テストの答え合わせは家でやるか……」
 コートの隙間からも容赦なく冷たい風が入り込んできた。
「例年通り、今年も風邪でぶっ倒れるんだろうなあ」
 毎年、冬には風邪やインフルエンザで必ず倒れてしまう。恒例の行事のようなものだが、大学の期末試験が近いので、できればそれらが終わった後で倒れたいものである。
 運転していると、窓にゆっくりと落ちてくる雪。視界を遮っていくそれらをワイパーが規則正しくぬぐいとっていく。
「まったく……だから冬は嫌いなんだ」
 彼はつぶやいていた。

 雪と言うものは、適度に降れば、スポーツを楽しんだり雪遊びをする分にはよいものだ。だが降りすぎると、
「また閉じ込められちゃったみたいね」
 二階の窓から階下を見下ろしたヨランダは、肩をすくめた。
「また雪かきしなくちゃねー。毎年の事だけど」
 そう、毎年雪かきをしなければならない。そうしないと外へ出る事もままならないからだ。毎年毎年、このあたりは積雪量が軽く三十センチにもなる。
「てなわけで、貴方達おねがいできるー?」
『手伝え』
 男二人に任せようとしたヨランダだったが、あっさりとつかまったのだった。
「えー、雪って重いからヤダ!」
「柔らかいうちなら軽いだろうが! お前もたまには手伝えよ」
「アタシはあんたみたいな体力バカとは違うのよ!」
「だが、人の手は多いに越したことは無いぞ、枯れ木も山のにぎわいというし」
「んまっ、あてつけ!?」
「ふん」
 あれこれ言ったものの、結局ヨランダは雪かきを手伝わされる羽目になった。
「もー、筋肉付いちゃうじゃないの!」
「いちんち二日くらい我慢しろよ。どーせ力仕事なんてめったにやらねーんだから、たとえ筋肉ついたってすぐ細くなるだろ」
 アーネストは他の二人より遥かに精力的に働いている。体力だけは有り余っているのだから当然の事。スペーサーはヨランダよりは働いたが、結局スコップにもたれかかって休憩中。普段からデスクワークなので(教壇に立つ程度では体力仕事とは言いづらい)、アーネストほど体力はないのであった。
 それでも、昼ごろには、車を公道に出せるまでの道を切り開くことはできた。
「買い物行くんだろ?」
 雪かきの疲れも見せず、アーネストは言った。スペーサーはくたびれきっており、それどころではない。ヨランダも同じくくたびれているが、買い物と聞くと飛び上がった。
「もちろん! 今日はバーゲンセールの日だわあ!」
「なんでバーゲンなんだよ! 俺が言いたいのは――」
 だがアーネストの言葉に耳を傾けず、ヨランダは彼の腕をつかんで、無理やり引っ張った。
「がんばっていってこーい……」
 スペーサーはテーブルにふせったまま、軽く手をふってアーネストを見送った。
 毎年恒例の、冬のバーゲンセールが、今年も始まった……。