免許はとれたけど



「やっと免許取得にこぎつけたわー!」
 ヨランダは大喜びで、教習所から家に帰ってきた。
『そりゃおめでとう』
 男二人の反応は、相変わらず冷めきっていた。ヨランダはその反応に、頬を膨らませた。
「んもー、ちょっとは驚くとか、喜ぶとか、してちょうだいよ! これだから男ってのは――」
「わかったわかった。で、仮免許なのか? それとも本式の?」
 スペーサーの仕方なさそうな問いに、ヨランダは免許証をまるで印籠のごとく重々しく見せた。
「もちろんホンモノよ」
「ホントウに?」
「ホントウか?」
「ほんとよ、ほんと! 偽造なんかじゃないんだからね!」
 それでも男二人は疑わしげに免許証を見た後、互いに顔を見合わせ、肩をすくめたのであった。
「それなら、君の運転技術を見せてもらおうか?」
「もっちろん!」
 ヨランダは胸を張った。
「で、どこでやるの?」
「私の大学の駐車場。あそこなら広いし、明日は休みだからほとんど人は来ない」

「最近の教習所の教官てのは、質が悪いんだな」
 後部座席に座っているアーネストは呆れかえった声を出す。それもそのはず。スペーサーが彼女の運転の腕のほどを確認するために、大学の駐車場でちょっと運転させてみた結果、無残なものだったからだ。
「のっけからギアをバックに入れっぱなしで発進する奴がこの世のどこにいやがるってんだよ……。ホンモノの道路でそれやらかしたら間違いなく事故るぜ」
「筆記試験はともかく、これで本当に教官がオッケーを出した事が信じられないな。一体どこを運転したんだ? 車の来ない田舎道か?」
 男二人に散々言われるヨランダ。
「ちゃんと高速道路も通ったし、車の多いところでテストもやったわよ! ちゃんと、オッケーだって言ってもらったし!」
 筆記試験なら、まだわかる。これは猛勉強すれば合格点は採れるのだ(アーネストが合格しているくらいだから)。だが実技がこれほどダメなのになぜ彼女は免許をとれたのか……。彼女の実技試験の担当をした教官がよっぽどダメな人物だったに違いなかろう。この二人が呆れかえるくらいなのだから。
「だが、免許をとれたからと言って、このレベルの実技で車を運転させるわけにはいかん。事故を起こすのが関の山だ!」
「えー、駄目なのお」
「駄目に決まってんだろ、オイ」
 今度はアーネストに再び駄目だしを喰らった。
「俺が教官だったら間違いなくアウトにしてる。っていうか、俺じゃなくったって、誰でもそうしてるんじゃねえかあ? そのくらいお前の腕はひどいんだよな!」
「そんなー」
「そんな、じゃないだろうが。お前の運転はヘタクソすぎんだよ。フツーの道路で玉突き事故でも起こしかねないほどにな」
「ぶう」
 ヨランダはふくれっつら。せっかく、がんばって免許をとったのに、男二人にそれをあっさりと否定されてしまったのだから……。

 そんなわけで、ヨランダは、休日ごとに特訓を受けることになった。
「えーと、このレンジを切り替えて――」
「あーもう、それはバックだろうが! そのもひとつ上がドライブレンジ!」
「それはアクセル踏みすぎだからもっとゆっくり加速してくれ!」
 ヨランダが何とか道路に出てもマシなレベルになるまで、半年はかかったに違いない。まる一日大学の駐車場で特訓したのだが、教官は、教習所の教官ではなく、アーネストとスペーサーである。二人揃って教習所の教官以上に厳しく指導するのにはわけがある。
「一台しかない車を事故でなくしたくないからな……」
 それが理由だった。スペーサーは大学へ通勤するのに車が要る。アーネストは私用で休日に使う。それぞれ車をなくしたくないのだ……。
「これなら大丈夫だろう……」
 スペーサーがオッケーを出しても、まだ二人は不安だった。
「だが、運転の際には私かアーネストのどちらかを乗せて行ってくれ」
「あら、どうして?」
『不安なんだよ!』
 男二人は同時に声をあげた。
「アタシってそんなに信用ないの?」
 不満たらたらのヨランダに、
『あるわけないだろ!』
 再び、男二人ともそろって同じ言葉を発したのであった。