S・G停電ショック
セカンド・ギャラクシーの環境は徐々に整い、本格的な宇宙ステーションとして機能することが出来るようになった。貿易船も増え、開発途中のステーションを休憩所として利用する客人が増えてきた。
だがそんなある時。
ステーション全体のメンテナンスが行われ、旧型部品が全て取り替えられた後の事である。
突如、ステーション全体の電気供給が完全に断たれた。
「一体どういう事なんだ? 部品は全部取り替えたし、しばらくはちゃんと点いてたのに」
懐中電灯を使って、各壁の電源を調べながら、アーネストはぶつぶつ言った。管理課は急遽手分けして、各場所のブレーカーを調べている。電気を供給するための部屋には何も異常がなかったためだ。
「電源に異常がないってことは、ほかの場所がおかしいってことなんだろうけど」
調査中。だがいっこうに異常は見つからない。ニィにかじられたというわけでもない。ニィはこのごろ、管理課専用の部屋のペット用ケージの中にいるからだ。今も、アーネストはニィをつれてきていない。
「ここにも異常はないか……じゃあ、一体何処に原因が?」
他の管理課の面々から通信が入る。どのブレーカーにも異常はないという。
「どこもおかしくないって? じゃあ、一体何処に?」
また電力炉の部屋に戻る。数名の管理課も戻ってきて、また一から調べなおすようだ。他の端末に異常がなければ、残るはこの部屋しかない。手分けしての調査が開始された。
「ここは大丈夫、ここも大丈夫……」
部品の一つ一つ、パーツの一かけらにいたるまで、チェックが入る。
「あれ?」
アーネストは、ふと、動力炉から伸びている一本のチューブに裂け目が入っているのを見つけた。懐中電灯の光で入念に照らしてみると、どうやら何か鋭利なもので裂いたらしい。応急処置として、そのチューブの一部に特殊金属のハンダをあて、熱でそのハンダを溶かして裂け目を塞ぐと、電力がたちまち供給され、ステーション全体は明るくなった。
「おっ、直った」
直ったといっても所詮は応急処置。チューブを取り替えなければ、またハンダの隙間から電気がもれ出てしまう。
「とにかく、さっさと申請してこいよ、新しいチューブ」
同僚の一人が急いで出て行ってしまうと、他の管理課の面々は、そろってそのチューブの傷口を見る。
「一体何でつけた傷なんだ? ただの刃物でさえ、このチューブを傷つけることは難しいんだぜ」
皆、口々に言い合っていると、ふと、背後からカサカサと物音がする。とっさに振り向くが、そこには何もいなかった。
とりあえず、新しいチューブが配送されるまでに後一時間ほどかかるというので、管理課の面々は一休みすることにした。
部屋に戻ったアーネストは、ケージの中のニィを出してやり、手のひらに載せて、鉄くずを食べさせてやる。ニィは鉄くずをパリパリかじっていたが、ふと、全身の毛を逆立て、彼に向かって威嚇を始めた。
「な、何だよいったい……」
威嚇された理由が分からず、アーネストはうろたえる。ニィは、彼の腕を伝って肩に乗り、さらに威嚇を続ける。何かいるのだ。
振り返る。
「あっ」
部屋の壁に、カメレオンに似た生物がいた。この部屋の壁とよく似た体色だが、目玉だけはギョロギョロしていたので、すぐわかったのだ。
その生き物は、カサカサと音を立てながら部屋の壁を移動し、あっというまに部屋を出て行った。
「あいつが犯人かっ?!」
唸るニィを胸のポケットへ入れて、アーネストは部屋を飛び出した。
あの生き物には見覚えがある。地球で開催されている、宇宙動物園の展示用の生き物。グレードカメレオンだ。体長はアーネストとほぼ同じくらい、舌は鋼鉄にも等しい固さがあり、唾液は強酸。そして、グレードカメレオンの好物は、電気だ。
「チューブに穴を開けてエネルギー漏れを起こさせてやがったんだな!」
途中、同僚の一人にぶつかりかける。
「あのカメレオンを捕まえろ! あいつが停電の犯人だ!」
「カメレオンて……あれか?! あの変な塊――」
驚いたが、すぐにアーネストの後を追ってきてくれた。そして無線で連絡を取り、走る壁の塊ことグレードカメレオンを追い詰めるべく、各区画のシャッターを緊急作動させた。
さすがのグレードカメレオンも、バリアには勝てなかった。体色を変えるも、バリアの電圧を変えるだけで次々に色が変わっていき、結局はバリアの一部に巨大なカメレオンの体が引っ付いているという不気味な光景が写されるのであった。
グレードカメレオンの持ち主は、すぐ見つかった。このステーションが停電する数時間前に訪れた商船の一つが、密猟者の船だったのだ。当然、その船は、一番の目玉であるグレードカメレオンを探して、いまだステーションに停泊中。管理課が緊急体勢をとり、密猟者の集団は一人残らず、警備システムで捕えられた。捕まえたグレードカメレオンや他の動物達は元の星へ返されることになった。
惑星警察が密猟者達を引っ立てていった後、ちょうど新しいチューブが届き、電力炉のチューブはすぐに取り替えられた。応急処置では、まだ少々のエネルギー漏れが生じていたのだ。
管理課の面々は、仕事を終えた後、夕食を取りながら雑談をしていた。そして、話題がグレードカメレオンに移る。
「ところでよ、アーネスト。お前どうやって、あんなでっかいカメレオン見つけたんだ。どこにいたか分からなかったのに」
同僚の一人に問われ、《擬似煙草》を吸っていたアーネストは、天井に向けて、ぽわんと円形の煙を一つ吐き出した。
「こいつのおかげ」
テーブルの上で毛づくろいをしているニィを指差す。
指されたニィは、アーネストに指されたことに気づくと、手に、体を摺り寄せた。アーネストはそのふさふさした毛玉を撫で返してやった。
「お前が見つけてくれたんだもんな」
ニィはチイチイと鳴いて、甘えた。