第2章 part2



 日は過ぎていったようだ。何度も薬を打たれ、そのたびに深く眠ってしまう。一体どのくらい時が過ぎていったのだろうか、私にはわからない。ただ確実に言えることは、怪我が徐々に治っていっているということだけだ。その間、点滴以外で与えられたものはないが、薬漬けで食欲がないのだ、何も食べる気がしない。
 油くさい服を着た男っぽい女の顔を何度も視界の端に見る。この女が私をここへ運んだと言う事だが、一体何が目的でそうしたのだろう。やはり私を《CAGE》から身代金をとるための人質として生かしておきたいからか? だが、金目当てなら、さっさとそうすればいいのに。わざわざ治療する必要などあるまいに。もっとも身代金を取るのに失敗したなら、さっさと殺すなりなんなりすればいい。それとも、私から金以外の何か得られるものがあると期待しているのか?
 そのうち、起き上がれるようになった。肋骨の骨折はだいぶ回復しており、深く呼吸したり強く押したりしなければ痛みは無い。腕や足の痛みもだいぶ引いたが、それでも完治はしていない。そのうち、リハビリとなったが、両足がそろって骨折している状態では、なかなか厳しいものだった。両足のリハビリにはこの医療院(とはとても思えぬほど古びた建物)の廊下を使って行われた。お粗末すぎる。リハビリセンターくらい、《CAGE》の医療院ならどこにでもあるのに。下層民の住む場所なのだから仕方がないか……。
 とにかく、早く逃げたかったから、骨折の痛みをこらえながら、必死でリハビリに励んだ。ものをつかんだり、廊下の端から端まで手足を使って匍匐前進したりと、リハビリセンターでもやるような内容だった。《CAGE》でも下層民の医療院でも、内容は一緒なのだ。
「まさかこんなに早く退院できるとはねえ。予定より半月も早かったよ。腕の骨折は足に比べると軽かったから、そろそろ腕を振り回しても大丈夫かね。左足の骨折は軽めだとはいえ、跳んだり走ったりすんじゃないよ」
 背中の曲がった老婆は、私の体に冷たい丸いものをぺたぺたと当てながら言った。作業着を着た男じみた女は相変わらずニヤニヤしている。骨折は完治したわけではなく、日常生活を過ごしても差し支えない程度に回復しているだけのようなのだが、退院させられるようだ。《CAGE》ならば、完治するまで入院なのに……。
 帰る場所が分からないからと、老婆は、その作業着の女に、私を任せるつもりのようだ。
 走るにはまだ足が治りきっていないが、歩くことはできる。治り次第、この町から逃げ出さねば。だが逃げ出してどうする? 私は、もう《CAGE》には戻れないのに、ここを逃げ出して、どこへ行けばいい?
「じゃ、行きましょ。あらためて自己紹介すっけど、あたいはユリシカってんだ。あ、あなたの服はね、ズタズタにやぶれて使いものにならなくなったから、処分しなくちゃいけなかったんだ。ごめんね」
 おい、ひとの服を勝手に……。代わりにこんな油のにおいのする質の悪いものを着なければならないとは。かぶれなければいいが……。

「退院できてよかったねー」
 ユリシカは、つい昨日までリハビリに励んでいた怪我人に、下心の隠しきれぬ笑顔で、言った。待つ事二ヶ月、これだけ早く回復してくれるとは思わなかった。だが骨折の完治には時間がかかるものだ、院長は、歩けるようになったところで退院させたのだろう。医療用の薬品や包帯などの備品だってタダでは手に入らないのだから、あまり長い事入院させていると、たった一人の入院患者とはいえ、病院が赤字になるかもしれない、そう思ったのだろう。
「ばあさんから聞いたろうし、貴方ももうわかってるだろうけど、もう喋れないんだってさ。災難だよね」
 病院の廊下を歩きながらユリシカは言った。少し後ろからついてきている《CAGE》の怪我人は何も反応しない。もう知っているのだ。
 ユリシカの持ってきた、彼女の父がかつて着用していた、色あせた黒色の作業着(ちゃんと念入りに洗ってある)を着ている怪我人は、ただのろのろと歩いているだけで、何も反応してくれない。しゃべれない、とわかっていても、何も反応がないのはかえって不安をあおる。言葉が通じているのか否かすらわからない。いや、ちゃんと指示に従っているのだから、言葉は通じているに違いない。
「ところでさ」
 病院の入り口で、ユリシカは足を止めて振り返る。改めてみると、この怪我人はそれなりに身長がある。彼女の父くらいはあろう。いや、ユリシカが小柄と言うべきか。
「あなたの名前、なんてーの?」
 相手は口を開きかけ、喋れないのを思い出したのか、口を閉じた。ユリシカは、相手が字を書けるのかと思いながら、己の作業着のポケットをまさぐって、潤滑油や機械油のしみで汚れた小さな手帳とボールペンを取り出した。
「字、書けるよね。《CAGE》のひとなんだし」
 相手は、ちょっとむっとしたようだが、手帳とペンを取り、何か書く。ユリシカに見せたのは、何だ、いつも彼女が見慣れている(つまりこの地上で使われている)文字ではないか。字体にはクセがなくとても綺麗だ。ユリシカはその文字を読んだ。
『アスール』
「それがあなたの名前?」
 相手はうなずいた。ジェスチャーも共通のようだ。
「じゃあ、あらためてよろしくね、アスールさん」
 ユリシカの差し出す右手を、相手はちょっとためらった後、右手をのばして握り返した。握力は、ユリシカより弱かったがそんなにひ弱と言うわけでもない、ごく普通であった。
(ふふふ。やっと退院してくれたよ。本当だったら、血も内臓も全部抜き取ってもらって荒野に捨てているけどね。運がいいよな、こいつ)
 二人は病院を出た。眩しい太陽が照りつける。青い空には雲がいくつも浮かんで風に流されていく。ユリシカは病院前に留めておいた己の三輪バイクのエンジンをかけ、運転席に乗った。
「後ろの籠に乗ってよ。人が座れるくらいの広さはあるからさ」
 大きな機械を乗せる事もあるため、人が並んで二人か三人乗れる広さのかごが付いている、アスールはそれをしばらく見つめた後、乗り込んだ。ユリシカの言った通り、彼の体はちゃんと籠の中におさまったので、ユリシカはバイクを発進させた。
「じゃ、あたいの家に行こう。路上で寝るわけにはいかないし、強盗もいるからね」
 まだ朝早いが人々は外へ出て歩きまわっている。シェルターを改造した家の列を通り抜け、粗末なテントの群れや店舗シェルターの列を通り抜け、やや泥混じりの水が川となって流れる場所で、ユリシカはバイクをとめた。
「ここがあたいの家だよ」
 籠のアスールを見る。アスールは呆れとも驚きともつかぬ目で、おんぼろシェルターを見つめている。これが家なのか、と言いたそうな顔だ。
「ぼろっちいけど、ちゃんと住めるから大丈夫だよ」
 ユリシカは、アスールが籠から降りたのを確認してから、バイクを車庫に入れた。そして、自宅の鍵を開ける。
「さあどうぞ。ちょっと薄暗いけどね」
 天井の天窓からさしこむ日光が中を照らす。おんぼろの内装に、怪我人はしばしあっけにとられていたようだ。もし彼が喋る事が出来たなら、間違いなく「ぼろ」と言うに違いなかろう。
「きっと《CAGE》じゃあ、きらびやかなでっかいお屋敷に住んでいるんだろ、あなたは。ここは地上なんだし、仕方ないじゃん、汚れていたって」
 ユリシカは、相手の顔がなかなか元に戻らないので、少し腹が立った。ここは何不自由なく暮らせる《CAGE》ではないのだ。《CAGE》のおこぼれでその日暮らしをしている貧しい集落の一つにすぎないのだ。
(そういえば《CAGE》のひとって普段からどんなもの食べてんだ? あたいらみたいな、安物の缶詰じゃないことは確かだろうけど)
「ここ、あなたの部屋ね。《CAGE》に戻るまでは、ここを使ってよ」
 彼女が案内したのは、彼女の両親の部屋だった。このシェルターには寝室が二つあり、ひとつは彼女の両親が使い、もう一つを彼女が使っているのだ。両親の死後、彼女はここを臨時の食料庫として、食料庫に入りきらないぶんの缶詰入りの大箱をたくさん置いていたのだが、アスールを迎える数日前に、なるべく綺麗に片づけたのだ。こわれかけの寝台は修理し、窓も綺麗に磨き、ちり一つ落ちていないほど綺麗にした。これほど綺麗に掃除したのは久しぶりだ。
「あたいに出来る範囲で精いっぱい綺麗にしたんだよね、これでも」
 これは本当だ。それでもアスールの顔はあっけにとられたままであった。
 それからユニットバスとキッチンに案内する。だが、何か探ろうとするかもしれないと思ったので自室と食料庫には案内しなかったし、向こうも興味を持っていなさそうだった。
 キッチンにて、ユリシカは言った。
「腹減ったから、何か食おうよ」
 油のしみやインクのしみの多いテーブルに、彼女は缶詰を幾つかと水入りのボトルを二つ並べた。
「あなたの口には合わないと思うけどさ。あたいらはいつもこんな缶詰食ってんだ、安くて手に入りやすいしね。もっと金持ちの奴は、高級な缶詰を食ってるし、ちゃんとした牧場や畑を持ってる奴は採れたての野菜や肉を口にしているんだよな。一度でいいからホンモノの肉や野菜や魚を食ってみたいよなー」
 そう、ユリシカの言った通り、確かに口に合わなかった。
「合わないとは思ったけど、まさかトイレで吐くなんて思わなかったな。テーブルにぶちまけられるよりマシだけどさ」
 食後、ユリシカは宝の山へ行かないかと誘ってみることにした。
「宝の山ってのはさ、あたいらの生活を支える大事な所なんだ」
 家の中を、彼女の不在時に勝手に探られないようにするために。幸い、相手は首をいったん傾げたものの、結局は縦にふってくれた。そうして二人はおんぼろバイクに乗って出かけた。宝、と聞くからには金貨の山を想像したのかもしれないが、目的の場所に到着した時、アスールの驚きようといったら……。山積みのガラクタ。そのほとんどは、サビだらけの鉄くずや、もう修理のできないほど粉々に砕けたプラスチックの部品など。店に持ち込んでも買いとってもらえないレベルのものばかりがここに残っているのだ。
「あなたには驚きかもしれないけどさ、《CAGE》の落とすものは、あたいらにとっては宝にもひとしいものなんだよね。あたいらはそいつを修理したり売ったりして、銭を稼いでんだ。明日になったら、《CAGE》がここへ来るからさ、また新しく色々落としてくれるよ。今は、ひとがいないけど、明日になったらここは人が大勢来て、色々奪い合いをするのさ」
 ユリシカはうきうきしている。一方でアスールは本当にぽかんとしたままであった。
 それから村をバイクで一周し、ユリシカはあれこれ説明する。食料品店、薬局、部品屋、酒場、賭場……。その間、アスールは興味深そうにあちこち見ていたが、一方で住人の方も彼を見た。重い機械を運ぶ日焼けした男たちが暮らす村の中にこんな細っこいひ弱な男がいるわけがないのだから注目を浴びて当然だろう。ひととおり施設の説明をしたところで、
「あれがね、《CAGE》の業者がやってる買い取り店だよ」
 赤い派手なテントを指差した。
「ちょうど売りたいものがあるから行こう」
 バイクをテントの傍に留め、二人は中へ入る。アスールは中に入ると、銃を構えて立っているロボットにぎょっとした。ユリシカはカバンから取り出した鉄くずを、巨大な機械の台に乗せた。トレーの形をしたそれは、小刻みに震え、鉄くずを鑑定する。チーンと音がして、隣の小さな黒い機械からジャラジャラと銅貨が吐き出された。
「なんだ、十枚か。少ない!」
 銅貨を取ると、巨大な機械の、トレー状のパーツが急に床に向かって下がり、次に上がってきた時にはそのトレーの上には何も乗っていなかった。
「これさ、買い取り用の機械なんだ。《CAGE》が、修理できない機械やガラクタを集めて何をするのかは知らないけどさ、あなた知ってる? この機械を作ってる業者の事……」
 アスールは首を横に振った。
「あれ、あなたん所で作ってんだろ。だったら知っててもおかしくないのにな」
 意外だった。《CAGE》の人間が、《CAGE》の業者を知らないとは。
「さ、もう夕方だ、帰ろう。日が暮れるとここは危ないからね」
 帰宅してから、カンテラに明かりをともす。マッチのもえさしを瓶へ入れ、ユリシカはユニットバスの使い方を説明した。
「お湯がでないんだよね、こいつ。だから冷水でがまんしてよ」
 アスールは、湯沸かし器の蓋を見て、それを外そうと試みる。
「それ、型が古すぎてもう部品が手に入らないし、あたいじゃ修理できないんだよね。父ちゃんも修理できなかったくらい古いんだ」
 それでも彼は中を覗こうとするので、仕方なく彼女は腰の工具箱からドライバーを取り出し、湯沸かし器のふたを閉じているネジをゆるめた。ふたが開き、彼は内部の配線や配管をいろいろ見比べ、次にユリシカの腰の工具箱と、湯沸かし器を交互に指差した。
「これ使いたいの?」
 相手はうなずいた。機械いじりが出来るのだろうかと思いながら、ユリシカは工具箱を貸す。相手は工具箱を受け取り、開けて中のものを確かめる。それから、ユリシカのカンテラの光を頼りに、湯沸かし器の機械をいじり始めた。いくつかのサビだらけの部品には油がさされ、配線はいったんペンチで少し切られたのち、ハンダと溶接ゴテで継ぎ合わされる。迷いの無い作業に、ユリシカは思わず見とれていた。三十分ほどで作業は終わり、彼は湯沸かし器のレバーに油をさし、ひねってみた。蛇口から水が出てきたが、しばらくするとサビだらけの色に変わる。だがそのサビ色の水は徐々に湯気をまとってきたではないか! そうして最後には、サビ色の消えた普通の湯が出てきたのだった。
 満足そうに湯沸かし器のふたを閉めたアスールと、驚きのあまり茫然とするユリシカ。
(こいつ、あたいの直せなかったもんを修理しちまったんだ……)
 ユリシカの修理の技はこの村でも一、二を争うと言われている。だが彼女も彼女の父も直せなかった旧式の湯沸かし器を、しかも修理に必要な代わりの部品もないのに、この男はユリシカの工具箱に入っていたものだけで、たやすく修理してしまった!
(こいつ、機械いじりが出来るんだ……!)
 やがてユリシカの驚きは喜びに変わった。
「すごい、すごいよ!」
 思わずユリシカはアスールに飛び付いた。
(こいつの修理の腕があれば、たいていのものは直せるはず! あたいの手伝いをさせる事が出来れば、もっと金を儲けられる!)
 今までこの男のために必死で入院費を稼いできたのだ、これからは、返してもらわないと。
 生まれて初めての温かな湯を浴びながら、ユリシカはニヤニヤ笑いながら思ったのだった。

 あの女に名前を問われて、とっさに本名を名乗りかけたが、思いとどまって正解だった。口がきけない状態なのは、この場合かえってプラスに働いてくれた。きたないメモ帳を出されて名前を書けと言われたが、まさか学の無さそうな下層民に字が書けるかと問われるとはな……。だが本名を書くわけにはいかなかったので、《CAGE》でよく呼ばれていた渾名を書いた。
「アスール」(青)
 幸い女はそれを私の名だと思ったようだ。
 この女、ユリシカとか言ったが、《CAGE》に戻るまで自宅に住みこませるつもりのようだ。《CAGE》の路上ではもはや走ってすらいない、それこそ博物館にでも展示されているような三輪のバイクに私を乗せて(そこしか乗せられるところがなかったのだから仕方ないが)家と称する建物へ向かった。だが目に着く建物はいずれも旧型のシェルターばかりだ。下層民はシェルターを家として使っているのだ。そして、下層民はいずれもユリシカのようなうすよごれた服を着て、体は日焼けして頑丈そのもの。
 ユリシカの家の内部は、さすがに、百年近く使われていれば、内装がぼろぼろになるのもうなずける。こんな汚い状態でも住めるとは、人間とは恐ろしいものだ。呆れかえるしかないぼろさだ。私の部屋としてあてがわれたそれも、それに負けず劣らずのぼろぼろな部屋。まるで牢屋だ。
 さらに呆れかえったのは、この地域の下層民は缶詰ばかり食べているということ。土地が荒れている地域だからこんな食生活なのだろう。缶詰ならば賞味期限が年単位だから。そして、舌を突き刺すようなピリ辛さと例えようのないまずさに吐き出しそうになり、何とか呑み込んでも自分の胃袋はそれを受け付けず、結局戻してしまった。
 ユリシカが宝の山と呼ぶ場所に行ってみることにした。きっと何か貴金属でも埋まっている場所なのだろうと思ったが、あまりにもあてが外れた。機械油のにおいが辺りに充満し、ガラクタがおちているだけの汚い場所。ユリシカがここを宝の山と呼ぶのは、《CAGE》がここにゴミを落としていくからだとか。そしてこの場所に落とされたゴミは修理されたり売られたりして、日々の糧となるようだ。ここが《CAGE》のゴミ捨て場のひとつなのか……。
 帰り途、ユリシカは色々設備について説明したが、シェルターにいろいろな看板や小物をくっつけたくらいにしか、私にはわからない。そのうち場違いすぎるものが目に入ったが、ユリシカはあの真っ赤なテントを「《CAGE》の業者の買い取り店」と言った。《CAGE》が下層民からものを買い取るのか?
 中に入ると、いきなり、これまた博物館でしかお目にかかれない銃を握ったロボットが立っている。ロボット自体は、まあ、確かに《CAGE》にも事務用品として存在している。だがこんなところで銃など持って何をしているのだろうか。ユリシカは、見た事のない巨大な機械に、何の役にも立たなそうな鉄くずを乗せる。店員がいない代わりに、この機械が買い取りをしているようだ。やがて台はひっこみ、別の機械から銅の硬貨がジャラジャラと出てきた。
「これさ、買い取り用の機械なんだ。《CAGE》が、修理できない機械やガラクタを集めて何をするのかは知らないけどさ、あなた知ってる? この機械を作ってる業者の事……」
 そんな業者、聞いた事もない。そもそも私の知る限り《CAGE》は下層民とは接触する機会などないのだし……。だがこの機械なら昔見た覚えがある。このあたりの住人に払い下げでもしてやったのだろうか。
 シェルターに戻ってから、ユリシカは旧型の湯沸かし器のついているユニットバスの説明をしたが、湯が出ないと言う。湯が出ないなら修理すればいいだろうに。旧型とはいえ、博物館に飾られているような代物でなければ自分でも直せるかもしれないので、中をのぞかせてもらう。思った通り、内部の構造は古い。だが専用のパーツがなくても、ハンダでつぎたしたり油をきちんとさせば、また普通に動く代物だ。長く使われていないので錆びだらけではあるがこのくらいなら問題ないだろう。工具で修理してやると、思った通り、そのうち錆びだらけの水が流れ、湯が流れ、最後には錆のない普通の湯が流れ出ていた。古い機械を修理するのは久しぶりだったが、うまくいって良かった。冷たい水を浴びるのは嫌だからな。
 それにしても、たびたび私を見るユリシカの目。どうも下心が見え隠れしているようだ。何が狙いなんだ?


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