第4章 part2



 マスターが見せた手配書に書かれていたのは、ゼドリーの森に現れる不思議な色のチョコボであった。「手配書No.20 レインボーチョコボ」と書かれたその手配書には、モブについてこのような説明が書かれている。
『虹色に輝く美しいチョコボ。縄張り意識が非常に強く、獰猛で、襲われた旅人・モンスターは数知れず』
 そして数時間の探索の末、ついに一行はモブを見つけ出すことに成功した。たぶん、ほかのハンターよりも先に。
「キレイなチョコボねー。羽ひとつ持って帰れないかしら」
 思わずマーシアはうっとりとしてチョコボを見つめた。普通のチョコボより一回り小さく、羽はキラキラと虹色に輝いている。だがその獰猛さは隠せない。その周囲には、くちばしでつつかれ(もはや突きさしたというほうが正しいかもしれないが)、脚で蹴飛ばされたモンスターが何体も……。
「おいおい、一羽でこいつら全てをぶちのめしたってのか? 強すぎやしねえか」
 ウィルは驚きあきれている。虹色のチョコボはシンイチたちを見つけると、羽を広げて威嚇した。
「油断のならない相手であることは疑うべくもない事です」
 シンイチが抜刀した直後、虹色のチョコボは地を蹴った。クエーッと鳴きながら、その丈夫な脚で蹴りを繰り出してくる。鋭くとがった爪、あれで蹴飛ばされたら骨折ではとてもすまない。
「クエーッ!」
 チョコボの跳び蹴りを間一髪で回避する皆。チョコボの脚は傍の岩にめり込んだ。だがすぐチョコボは岩から脚を引っこ抜いてしまった。何と言う脚力。それを見て仰天したキャピトゥーンが悲鳴を上げて逃げてしまった。
「ひええええ……」
 ボロンは完全に腰を抜かしてしまっている。ガブりんも同じく。
 マーシアがすかさずプロテスを詠唱し、衝撃を緩和する薄い結界を張り巡らせる。虹色のチョコボは、それを見て一段と怒りだしたようだ。ケーッと激しく鳴きわめくや否や、マーシアに向かって突進する。
「ブリザラ!」
 ウィルが術を詠唱する。虹色のチョコボの進路にいくつもの氷の槍が突き出てくる。だがいずれもチョコボには当たらなかった。
「くそっ、ちょこまか動きやがって!」
 ブリザラの攻撃が全て外れた直後、チョコボの脚を狙って、シンイチの放ったカマイタチが飛ぶ。正面から吹きつける風に乗り、カマイタチがチョコボの脚を斬りつける。だが、チョコボは全くひるまない。マーシアは術の詠唱の暇がなく、突進をよけた。虹色のチョコボは勢いよく木にドシンとぶつかったが、すぐ振り返る。
「ケーッ!」
 チョコボは勢い良く翼をはばたかせ、空に飛び上がった。まるで黒チョコボのようだ。木々の隙間から差し込む太陽の光が虹色の羽に反射して眩しく輝き、皆の目をくらませる。思わず目を閉じてしまう。チョコボが羽ばたいて降りてくる音が聞こえる。だが目がくらんでいて、どこに降りたか分からない。走ってくる音が聞こえる。
(わたしの前っ)
 目のくらみはまだ続いている。シンイチは左へ跳んでよけた。体の右側を風が通過する。突進を回避できたが、跳んだ先で何か柔らかくてグネグネしたものに脚をとられて転んだ。鼻を突く悪臭。つまずいたのはモルボルだとわかる。目がくらんでいてよかった。
 目のくらみが治りかけている状態でまたチョコボの声と足音。ウィルがエスナを詠唱する声が聞こえ、「うわっ、あぶね!」の声。どうやらチョコボはウィルを狙ったようだ。シンイチは声を頼りに体の向きを変え、駆けだそうとする。が、柔らかい何かに足を取られて転んだ。
「だ、大丈夫ですか!」
「ひとの心配してる場合か!」
 エスナがもう一度詠唱され、シンイチの目のくらみが完治する。少し離れたところにウィルとマーシアがいて、切り株の傍にはボロンとガブりんが隠れている。そして自分の足元には、チョコボに蹴飛ばされてダウンしたモルボルが――。ねとねとした液体が地面に広がっている。あの中に転倒しなくてよかったとシンイチは心底から思った。
 突進を失敗したチョコボは、ますます激しく怒り出す。羽を大きく広げ、片足で地面を引っかいている。引っかくたびに、地面が深くえぐれる。目を回して倒れていたモンスターが起き上がろうとすると、チョコボはすかさずつつき、蹴飛ばす。動くものには怒りの矛先を向けているようだ。
「まずはあの翼をなんとかしないとな。また目くらましに使われたら今度こそアウトかもしれない」
 ウィルは呟いた。チョコボの突進は、よく見ていれば回避可能だ。だが問題はあの翼だ。黒チョコボのように飛び上がれるのだから。羽を詰めることが出来ればいいのだが。
「そうだ! シンイチ、こっち来い! マーシア、お前緑魔法使えたっけ?」
「少しだけなら……」
 一分程度で、ウィルの思いつきを伝える。
 チョコボが飛び上がった。太陽の光が七色の羽に反射する。
「オイル!」
 すかさずマーシアが詠唱する。大量の、魔法の油がチョコボにかかり、油で翼は黒く染まる。重くなった分羽ばたきも鈍くなり、チョコボは落下する。そこを、シンイチのカマイタチが襲いかかる。下から襲いかかるカマイタチは、油まみれのチョコボの両翼を切り裂き、羽を派手に散らす。チョコボはかろうじて体勢を立て直し、着地した。
「クエーッ」
 いきなりチョコボが突進を仕掛けてきた。だがその脚の速さは先ほどの比ではない。一気に間合いを詰められ、体当たりを食らう。受け身をとったシンイチはすぐ起き上がった。プロテスのおかげで痛みはさほどでもないが、ちょうど時間が切れ、プロテスの膜は消えた。
「ギュエーッ」
 チョコボがいきなりわめいた。見ると、チョコボの片足にガブりんが噛みついている。チョコボはガブりんを脚からひきはがそうとくちばしでつつきはじめる。ガブりんは、つつかれるとまずいと思ったらしく、さっと脚から離れてしまった。牙の痕がチョコボの脚に残っている。チョコボはガブりんに噛みつかれたために攻撃の矛先をガブりんに向ける。その直線上にはボロンもいる。
「あぶない!」
 シンイチが飛び出したのと、マーシアがブリザドを詠唱したのは同時だった。走ろうとしたチョコボの傍の地面が凍りつく。チョコボは氷の上を踏み、足を滑らせた。シンイチはその脇をすり抜け、ガブりんとボロンをかかえた。シンイチが飛びのいた直後、体勢を立て直して踏み込んできたチョコボのくちばしの一撃が切り株を砕いた。
「ひええ」
 泣きそうなボロンとガブりんをおろし、シンイチは身構えた。あのチョコボの動きを封印しなければ――だが、あれで大丈夫なのだろうか。いや、物は試しだ。
 チョコボが大きくのけぞってくちばしを突きたてようとするのと同時に、シンイチは刀を一度引いた。刀の周りに冷気が生まれでる。チョコボがシンイチの胸倉めがけてくちばしを突きだし、シンイチはそのまま勢い良く刀を振り抜いた。
 チョコボを中心に、一気に周りの気温が下がる。そしてチョコボの体は、氷塊の中に閉じ込められていた。

 怪我を魔法で治し、村に帰ってきた皆は、レインボーチョコボを討伐したと報告。虹色に輝くレインボーチョコボは、体の半分以上を氷づけになった状態で、ロープで引っ張られてきた。そのため村人の注目を浴びるだけでなく、プリズンや役所の者を仰天させてしまった。報酬の一万ギルが支払われ、とりあえず懐は暖かくなった。
「あのチョコボをまさかあんな方法で倒すとは思わなかったな」
 パブで食事を終えて宿に戻ってきた一行。共同部屋に入ると(マーシアは別に部屋をとっていた)、ウィルはフードつきマントを脱いでハンガーにひっかけ、ベッドにどっかと腰を下ろした。シンイチは向かいのベッドに正座して座り、荷物を膝に下ろす。ボロンはシンイチの隣に座って足をぶらぶらさせ、ガブりんは床に寝転び、いびきをかきはじめた。
「港町でお前が見せたアレだろ、チョコボにとどめさしたのは。やっぱアレすげえ威力だよなあ。切っただけでブリザドなみに冷気が飛び散ったし」
「いえ、まだまだです……」
 シンイチが本当に望んでいた凍滅とはまるで違う。あの剣士が見せた凍滅の威力、あれこそがシンイチの望んでいる威力なのだ。巨大な氷塊、一太刀でまっぷたつになった氷。シンイチのそれは、ただ相手を凍りつかせただけに過ぎなかった。
「まだわたしは修行不足です」
「でもシンイチにいちゃんすごかったよ」
 ボロンの言葉も耳に入らない様子。シンイチはうつむいてため息を漏らした。
「修行不足なのはいいけど、修行すんなら外でやれよ。部屋ん中で刀振り回されちゃ、こっちが困るんだから」
「それは心得ております。ご安心ください」
「まあそうだろう。ところでシンイチ」
 ウィルは寝転んで、肘杖をついてシンイチを見る。
「お前は確かに実戦経験を持ってる。年の割にはかなりできる方だと思うぜ。だがチームプレイは苦手みたいだな」
「チームプレイ……」
「大人数で協力しあって戦う事だ。まあ俺らが即興のチームだったんでそれは仕方ない事でもあるんだがな。ひとりで何でもやろうとするな。目も見えないのに突進かまそうとするとか、バカの骨頂だ。それに、お前の放ったあの最後の技、あれが決まっていなかったら、たぶんお前らは無事では済まなかった」
「……」
「助けようとして騎士道精神を発揮したのはいいとして、それがかえってあだになる事もあるんだよ。今回はうまいこといったが、次がそうなるとは限らないからな」
「ぶう」
 ボロンはふくれっつら。自分が怒られたわけではないのに。ウィルがそれを察したか、
「お前が何の役にもたたねえくせについてこようとするからだろうが」
「だって、一緒についてくってシンイチにいちゃんと約束したもん」
「時と場合を考えやがれ!」
 しばらく不毛な言い争いが続いたが、シンイチは仲裁しなかった。頭の中で、昼間のモブ討伐が繰り返されていたからだった。
 明かりが消され、眠りに落ちる。だがシンイチだけは起きていた。
(やはりわたしは色々と経験不足の上、実力も足りないな……)
 布団から出て、ガブりんを踏まないように気をつけながら、部屋を出る。南側に面した小さな窓から月の光がはいってくる。里の忍びたちから教わった独特の忍び足でさっと廊下を通り抜ける。数分後、用を足した彼は部屋に戻ってきた。
(全く、ユトランドの厠の手水鉢はいったいどこにあるのやら。見つけるのにいつも苦労する……)
 音もなく部屋に入り、そっとドアをしめる。
 いつのまにか、ガブりんがベッドにのぼって、ボロンの傍で眠っている。ちょうどベッドの真ん中で二人揃って眠っている。
「うう、わたしの寝る場所が……」
 しばらく悩んでから、シンイチはガブりんをそっと奥へ押しやり、何とか自分の寝場所を作ることに成功し、眠りについた。餌と間違われて寝ぼけたガブりんに腕を噛まれるまでは。

 デルガンチュア遺跡。
「タイゾウ、貴様にはひと仕事やってもらわねばならん」
 月明かりが、不気味な柿色装束の連中を照らし出す。その中に、草色の、東国の装束に身を包んだタイゾウもいる。
「ひと仕事か。一体どんなものだ。盗みか、殺しか、それとも情報操作か?」
「近いうちに、モーラベルラの町で、クラントーナメントが行われることは、既に貴様も知っているであろう。多くの強豪クランが集まり、競い合うのだ」
「知っているとも。しかしそんな連中の多く集まる場所で何をすればいい」
「宣戦布告だ」
「なるほど。だがどうやればいい」
「こいつを使えばいい。クラントーナメントの終わり、表彰が行われた時だ」
 渡された白い包み。タイゾウは手の中の感触で、包みの正体を知った。
「なるほどな。これならば、威力はなくとも、その場に居合わせた連中に我々を印象付けるのには役立つだろうな」
 タイゾウは笑っていた。
(面白い事になりそうだな……)


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